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Inheritance  作者: KOUHEI
水の惑星
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見回り

挿絵(By みてみん)


窓辺に移動し陽の光を受けて居る誰もいない庭を見下ろした。見る方向によって色が変わる草色のマントを羽織ると迷うことなくディアンは三階の窓から飛び出した。

コースは決まっている。


コフラに到着して夜の間に何度も入っている西館の前にある警備小屋に立ち寄るのだ。

十本ほどの立ち木のそばに、いつもなら三人一組で行儀よく巡回している警備兵たちは、招待客の居なくなった気楽さから、見回りに出ている者以外は持ち場を離れて、小さな集会所で持ち込んだ酒やつまみを肴に世間話に盛り上がっている。



もとは地下の空洞を利用して薪の類を入れる倉庫だったのを、急遽改造して広げ発電機と記録保持用の機械を設置したため、木立の中に隠れるように作った階段は人が一人通れるほどの広さしかない。一応人目を気にして階段は枯れ草で覆い隠している。

今日は手の空いた兵が思い出したように低いドアを通り、狭苦しい室内で分割されたモニター画像を見つめて、動き回る怪しい人影が無い事を酒で酔った赤い目で確かめている。


酔っぱらった警備兵が立ち去るとすぐさま何度も通っている機材の入った地下室にディアンは侵入した。


仕事熱心なグインズはウッドハ様へと、日付と時間を書いた紙を張り付けている。ディアンの手間を省かせるためではないと思うが、ありがたく三本の録画と音声の盗聴記録を慣れた手つきで早送りで聞いた。


「なかなか良い仕事をしているではないか」


寸分たがわず元の位置に戻すと狭い階段を上り、小屋そばの立ち木の枝に飛び移った。

録画カメラの設置場所と可動範囲を考えての行動である。

見張り小屋からだとアーチ形の門まで三か所にカメラは取り付けられていて、カメラの角度を考えれば門から続く道路わきに立つ大木の高枝の上まで登れば良いのだ。ディアンは足の筋力をほんの少し解放した。聖堂島まで船を使えば三十分。島と島を結ぶ橋と道路を通常通りいけば宮殿まで二時間以上かかる。

優しく海風が吹きすぎ、正門は閉まったまま午後の光を受けていた。一瞬だけ集会場で祝い酒に酔っている男が開いている窓を見上げたが動いている虫一匹みる事も出来ず、渇いた喉に酒を注いでいた。



二人が退出した宮殿の広場は、にわかダンス場に早変わりしていた。

音楽隊の奏でる音に合わせてコフラ独特の踊りが披露されてにぎやかさが倍増している。

新郎と新婦の居るテントの周辺では、プレゼントを送る人の列が途絶えたのを見計らって新郎と新婦が休憩に宮殿の中に消え、ダンスに参加できない客の一部は飲み物を片手に送られた祝いの品の前でわずかな知識を披露していた。



本来のザカリーの力を少々使い、ものの五分もかからずに人で一杯の広場を通り過ぎた。

五階建ての宮殿の屋根の上で新郎と新婦の姿がテントの中に居無い事を確かめ、ウッドハ付きの使用人の動きを眼で追った。

花嫁付きの使用人は室内の扉を開けて花嫁の歩く場所に花弁を巻いているところだ。間もなく新婚の二人はあのドアから出て来て半日以上は温めていたテントの下に戻るとわかった。


「良い時間に来たようだ。私にも彼らの内緒話を聞かせてもらおうではないか」とディアンはつぶやき宮殿の裏手へと降りて行った。


宮殿の二階、北の隠し部屋では大仕事の大半が終わりに近づきつつある。

会場の客らの馬鹿騒ぎを見飽きた兵士たちは緩んだ気を引き締めるどころか、狭い室内で祝いの踊りをモニターで映った客と一緒に踊っている。

「へいっ、へへへいっ、へいっと。明日はよ。一流の歌手やら踊り手やらが来るのだろ。早く見たいもんだが」

上げた手が器用に壁に積まれた機材に当たらずくるくる振り回されている。

「劇団も招かれているそうな。明日も明後日もその次も有名な舞い手が踊るのじゃ。近くで見られないのが残念だのう。どうじゃ交代で見に行かんか」

離宮の兵士同様この部屋の兵士らも気持ちは宴の招待客と一緒のようだ。


新しく買った機材の入った部屋の隣には、さっきまでウッドハが休み時間を利用して見ていた録画ある。

午前中の客の会話部分を抜粋したものもある。モニターのある部屋では隣に居たウッドハと上官が庭の画面に現れていたので何も気にかけることなく、踊りの輪の中に思い切り参加して楽しんでいる。


ディアンは人気のない開いた窓から中央の通路に行き、夜のうちに下見していた隠し部屋の彫刻を見つけ置物の後ろに回ってちょっとだけ中の様子をうかがい、手前の部屋に物音が聞こえないのを確認して隠しドアを押して室内に入った。


熱を持つ機材を置いてある部屋と違って壁紙から窓枠までごてごてと飾り彫りが目立つ。

光沢のある生地で張った机と椅子がウッドハの趣味なのだろう。

部屋に不釣り合いな不用意に大きいテーブルの上の機器に手を伸ばしスイッチを入れ、無造作に置かれたヘッドセットを耳に当て覚えのある声に聞きいった。


隣のとつなぐ扉を見ながらにんまりと笑みを浮かべた。

「ウッドハの下で働いているにはもったいないの」と会場での会話を聞きながらテーブルの上の走り書きを一枚残らず読み、ヘッドセットを元の位置に戻した。


中央通路に歩く足音をに耳を傾けて誰も来ないとわかると素早く隠しドアを開けて閉め。

彫刻の陰で宮殿の周囲の人の動きを、電気信号の流れを目を細めて追いかける。

安全を確かめて、入ってきた窓から壁を伝い屋根の上に戻った。

あとは簡単だ。宮殿の高い塀沿いに植えられた木の幹を蹴ってウッドハの設置したカメラの視野にはいらない場所を高速で飛び宮殿を後にした。



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