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Inheritance  作者: KOUHEI
水の惑星
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野望

傘の下には持ち手の部分に凝った彫り物と美しい花が添えられている。

小さなテーブルには木の杯がいくつも置かれて幾人もの人の出入りをうかがわせている。

新たに片づけられたテーブルにくだけたスーツにたすき掛けにした帯に勲章をかけた簡素な礼服を着た男は女性達に押し出されていた。始めからこのテーブルから動かないと決めていた男は近づいた男を見て声をかけた。

「これはこれは、ステイル殿、昨日はお世話をかけ申した。家内はそれ、このように元気になって。おや? またあのように送られた品々を見に行っておる。ほんに光り物には目が無くてのう」


隣に居るはずの奥方を見やればとっととトレイを眺める集団の一員になっている。

男の視線を追って贈り物の陳列されたテーブルを見るがあまりに人が多すぎて男の細君の姿は見つけられなかった。


「いやいや、誰しもそうでありまする。夫人だけが美しいものを好きとは限りませんて。私めも人垣が少なくなればじっくりと見ようと思っているのですが。なかなか。今日中に見られればよしとしなければなりませんかな」


「明日の披露宴には展示しないのですかね。目立った品物だけで良いから披露してもらえると目の保養になる」


「それは良い考え。誰か使いを呼んで早速伝えてもらいましょう。他人の物と分かっていても贅をこらした品物は見る価値がありますからな」


「ところで……」前々から聞こうと思った事さりげなく聞いてみる。


「コフラに搾油所を建てる計画はどうなされたかな。順調に進んでおられるか。今頃になって興味を示そうなどとは思わぬが、気になってのう」


堂々と搾油所の事を公言していた男は、いつ誰に聞かれても良いように答えを用意していた。

「ふうむ、なかなか良い案ではありましたが、一カ月ほど下調べをした結果はあまり良くなかった。やはり自分の目で確かめたほうが無駄な投資をせずに済むという事かの。土地は無尽蔵にある。作物は一年中どこかしこできちんと育つがのう。問題は、コフラでは金属の供出量が足りないのは知れ渡っている事だがそれも何とか補う事も出来るが。せっかく絞った油をコフラから送る手立てが無い。ウッドハ一人の力では船など買えぬし。油の精製もあるし。これまで通り巡航船で農作物を運んでもらうしかないでしょうな」


「何と。もう、結果が出ているとは思いませんでしたが」


「ええ、議会に、私の星の議会ですがね。私の見解を述べなきゃならないんですよ。期待していただけに気の重い仕事です」


大きなテントのそばに一人、客よりも頭一つ高い場所から見まわしていた男がいた。男は召使いから小さな紙切れを貰うと仰々しく、送り主の名前と役職名並びに地位を大声で読み上げ、タイトルが付いた芸術品の名前なら二度口にし、日用品なら一度、宝飾品なら使用されている宝石類の名前と大きさを周囲の客人等に知らしめていた。


その声が突然ぶつりと途切れるとウッドハは顔をしかめた。


今日の贈呈式は太陽が隠れる頃には、自分が貰ったかのように興奮し贈り物の前でうろつきまわっていた客への、財力の見せびらかしは終わり、明日から始まる披露宴の演目を書いた紙を祝い客等に渡して贈呈式はお開きになっている。


昨日よりもはるかに会話らしい会話をヘッドセットで聞いているウッドハはテーブルの端まで足を延ばして寝そべっている。


「なんだこの会話は。あの白髪頭に、あれだけアピールしたのに。そこを突くか。冗談じゃないぞ、精製場の話もちゃらかい、全く、ぬか喜びばかりさせやがって、話にならん」

ぎろりと部下を睨みがっかりした様子で起き上がった。


豪華な椅子や長椅子には触りもせずに足置きのようなスツールに腰掛けたメルは参謀としての意見をくちにしていた。

「ウッドハ殿、この言い回しは話す相手を選ぶと、こうなるのでありませんか」

どうもこの眼の前の男は目先の事だけで判断を鈍らせる。


「どうしてだ、言ってみろ」

この一カ月、議会で主要な人物達を農地から工場を立てる良い土地を観光の名目で連れまわした。その答えを早々に聞くとはウッドハは思わなかったのである。


メルは収録画像と音声を何度も聞いていたので言葉通りの意味にとってはいなかった。


「議長殿が尋ねたのでこう答えたのではと思うのです。本当の内情を知るものであれば、このように直接的、または簡素簡潔に説明しないはず。実際には作業所の建設は着工していますし、船の確保も先々では安定したものになると分かっているからです」


ウッドハにメルの言った意味が理解されているか一拍を間を置いてウッドハの顔を見る。

メルには何も考えていないように見えた。


「清廉潔白の議長殿だからこう答えたというのか。そうかもしれん。わしが聞かれたなら知らぬ存ぜぬで通すが。この一カ月で耳に入れたのだな、それでうーん、この答えか」


言葉を噛み砕いて吐きださずに飲み込まれた様子に満足し言葉をメルは足した。

「理屈を積み上げて、止めると言えば、それ以上は追及しないし。お二人の関係も悪くはならないでしょう」


納得の言った顔をしてウッドハはうなずいた。

「駆け引きか、わしは裏の話など聞かぬほうがいいかもしれん。作業所の話は無しになると思って頭が真っ白になったわい」


ウッドハに安易な口約束はしないほうがよろしいですぞと、注意したかったが今日のところはここまでにしておいた。

何しろウッドハの抱いている野望は大きすぎて、コフラの片隅で兵士を操っているだけのメルには理解しかねた。

まずは小さな修正をしていかなくては後々大きな利益を取り逃がしてしまう恐れがある。

メルは空の上の星までも買えるというウッドハの話を信用していなかった。



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