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Inheritance  作者: KOUHEI
水の惑星
51/168

気になる

離宮の夜は昼間の騒ぎが嘘のように静まり返っている。

おそらく皆昼間の疲れが押し寄せての事だろう。


大聖堂に向かって進んだように、車を連ねて戻ってきた招待客は医療施設に分かれた知人友人の体調を心配し、ウッドハの甥や従兄弟、叔父などに召使を走らせて、どの棟の玄関先も人の行き来は激しかったが、無事に街の医療施設から戻ってきた知人の顔を見て皆安心した。

客等はウッドハの縁者、甥、叔父たちを捕まえて大聖堂の素晴らしい彫刻や装飾を褒め称えた後、婉曲に大勢の人が集まる場所なら換気して新鮮な空気を取り込む事を助言している。


客たちはコフラ惑星での木工の文化は認めていたが、微小な金属しか取れない事で他の惑星とはかなり文明が遅れた印象を持っている。

国や地域を代表し、宇宙を知る招待客は金属で作る機械だけが全てとは言わないけれども

コフラの住人が居ないところでは不便さに呆れかえっていたのである。

街の医療施設から元気になった招待客が戻ってくると

明日の準備にと召使たちは忙殺されていたが深夜を回る頃には、

赤々と光が漏れている部屋は数えるほどになっていた。


本来なら噂と憶測の中心となるはずであったディアンの東館は

ザカリーの出発に合わせて各階の部屋から荷物が広場に出されて積み上げられていた。


夕餉前に来ていたウッドハの使者たちは美しいディアンを前に、思考回路停止状態に陥り話の半分も聞かず呆けてしまった(深く考えさせまいと美しい表情を故意に作ったのだが、それがまんまと当たった)ディアンと別れた使者たちはグインズの録画していた画像を持ってウッドハの宮殿に帰って行った。


浮船で積荷が空港まで運ばれて行き、別れの挨拶をしていたザカリーも消えて

三階のフロアーにはディアンとサスケのみが残っている。


明日の贈呈式のためと大事を取って、サスケは寝室に早くから追いやられている。

小さなランプが四つ付いた部屋の中で寝床から抜け出して、こっそり持ってきた椅子に座り開け放った窓辺で、この世のものとは思えない明るい月を眺めていた。午後からしっかり寝ていたので眼が冴えていたのだ。


ディアンは凝ったレースの上に細かくした宝石をちりばめたブラウスに寒さ対策のショールを羽織り肘掛椅子の上で一枚の絵のように動きを止めていた。


ディアンの居る応接間の明りも最小限に少なく、廊下へ出る扉付近にだけランプが灯って広い部屋は、大きく開いた窓から月の明かりだけが注いでいる。


「失礼するぞ」

四つ開いた窓の一番手前から声が聞こえた。

厚地のカーテンも動かず窓辺に雲の影すら落ちてはいなかった。


声に驚きもせずディアンは返事をした。

「出発したと思っていたが。何かトラブルでもあったのか」

長椅子に降り注いでいた、月明かりの中に人影が足を組み座っている。


「別れを惜しまれての。引きとめられていたのだ」

とエフリーは笑って言った。空港には船が準備万端整って待っている。確かに見送りの人々から別れを惜しまれたが彼らが帰って行くのを見届けて来ている。気になったのはサスケの事、聖堂でいなくなってから一度も顔を合わせていない。


「サスケ殿はゲイマンを近くに見て喜んでいただろうか。陸上で車を引いていた獣と同じだと知ったらがっかりしたのではないか」

エフリーはサルッツアでの会話を思い出して聞いていた。サスケは水生生物に大いに興味を持っていたのだ。


「気配は感じたかも知れぬが、しかと見てはいないと思われる。始終気を失っていたからね」

ふっと思い出してディアンは笑った。退屈な儀式を中途で退出出来たが、それ以上に退屈な事、部屋に籠もらなければなら無い事になってしまったのは致し方が無い。


「そうか、それは残念だな、とても楽しみにしていたようだが」

さして残念そうな口ぶりでも無く、エフリーはサスケが引き起こす他愛ない出来事を楽しんでいる様子である。

今回の出来事はサスケが引き起こした事ではないけれど巻き込まれたのには間違いない。


「まことにあの騒動で分かった事がある。スヴィンダとロエボルにはもうマイプの手の者が入り込んでいるのではないか。今回が初めての顔合わせではないように思われる。事前に商業目的で人を送り込んだと考えてよさそうだ」


「手回しの良い事だ。ならば潜入者を調べるのが先決か」


「ああ、だがここではぼろを出すと思えぬが。なにしろ奥方が一緒に行動しているからな。知られたくない話をこそこそできる状態ではないが、明日からは少々事情が違ってくるだろう。酒の席でちょっとしたぼろは見つけられるとは思うが、通信機器がわずかしかないから面倒だ」


鼻先でディアンは笑った。古い機材を集めて設置し諜報活動を気取っているウッドハが可笑しかった。


「スヴィンダとロエボルには内戦の火種がそこかしこにあったな。それを利用してベルカル人を送り込むというのはどうか。スアレムに何人かザカリーを招集してもらえばよかろう」


ついでにベルカル人と仲の良い自分も送り込まれる人数のうちに入れる。ほとんど安全地帯に救護隊は居るが、ディアンはわざわざ火器の射程内まで入って救援活動をする。なかなか刺激あって面白いのだ。


そんなことはお見通しのエフリーは軽く首を振って却下した。

「ベルカル人に死者が出なければ良いが。彼らは見た目と違って優しい。今回の事でもわかるであろう。嘘つきウッドハが渾身を込めて頼んだ結果ぞ。我々まで集めて大層な事よ。ベルジュロはスヴィンダを出たばかり、バッケロはサローニに向かっている。どこで合流したものか、予定は狂いっぱなしだ」と内情は火の車のウッドハを非難する。温厚なエフリーがここまで言うのは相当参っているからだ。


「ほんにウッドハの見栄っ張りに言葉もない。あ奴がごり押しせねば我らはもっとまともに動きまわれた。おまけにあ奴の手下は計画性の無い無能ばかり。もっとましな強盗計画を立てる様に忠告したいぐらいだ」とディアンも不満が口をついた。


「言うな、確かにお前では無くて、別な招待客だったらと思わぬでもないが」

どこか人目のつかないところで若造は羽目を外したがっている。もしかしたら良い気晴らしになったのではともエフリーは思った。


「そうだろう。婚姻式などふっ飛ばすくらいの大騒ぎだと思うぞ。さすれば客と客との繋がりもはっきりするというものを。残念でならぬ」

自分たち以外のカップルが狙われて大騒動になったらと考えると、ウッドハは客の誰一人にも顔向けできない事態に陥ったに違いない。


サスケだけでもゲイマンに食わせて、悲劇の中心人物になっても良かったが、まだサスケにはやってもらう仕事が残っていた。


明日の贈呈式に出席するとのディアンの返事を聞いて、

エフリーはウッドハの使者たちに知らぬ存ぜぬを貫き通した若者のしたたかさに喜んだ。


「見るべき事は少なかったが、聞くべきことは少しは残っている。ウッドハの買い揃えた機材の性能を確かめておいてくれ。今日の収穫はあまりないが明日の贈呈式は席が決まっておらぬと思ってよかろう。確認事項だけになるやもしれぬ。どれ、サスケ殿の寝顔を見に来たのだが起きておられるようだ。では、ジ-ヴァス王子の新任式で会おう」ディアンの返事を待たずにエフリーは消えていた。


優しい風が月の光の中を通り過ぎ、エフリーの座っていた長椅子に吹き付けた。空っぽの椅子に人の座った形跡、へこみがわずかに残っていたがすぐに元通りのカーブを描いた。


エフリーは水面を走りながら考えていた。

考えながらの空の飛翔は何にぶつかるか分からないので危険極まりない。

安全を考えるならば慣れた動きを繰り返すだけの動きが一番なのだ。

そしてつぶやいた。

「世代で考えも行動も変わるものだの。あれは何を考えているのか分からぬ。歳は若くあるというのに一番物事に長けている。サスケの扱いはぞんざいにしているが。皆が認めるほど忍耐力があるのはなぜなのだろう。最後の世代を無理をして産んだザカリアートのなにかが変化をもたらしたのだろうか……」

ザカリーに足りないのは忍耐力だとエフリーは思っていた。固い岩でも軽く握るだけで粉々にできる。本気で跳躍すれば大気圏にでも飛んでいける。機械になど頼らなくともどこでもいけるのだ。



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