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Inheritance  作者: KOUHEI
水の惑星
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隠し部屋

空に太陽が消え聖堂前の広場には朝よりも人の数が増えている。

歩道には午前中には無かった屋台が出て商売を始め、細い路地にも儀式に出席した客を一目拝もうと人が右往左往して待っている。


民衆が開いた大扉の中をのぞくには聖堂の反対側の広場の端まで行かなければならない。

客の姿を期待して歩けば建物に囲まれた中央広場の奥に灰色の階段が見え、明け離れた大扉の中に見えるのは豆粒のような人影だけである。

もっとよく見ようと中央広場に踏み込めば、車を引く首の長い獣がとぐろを巻いて居て、近寄る事が出来ないでいた。


聖堂前の階段に音楽隊が降りて来て大きな音で演奏を始めると、待ちわびていた人々の顔が輝いた。


先頭を切って新郎と新婦が階段の上で手を振ると民衆の間から拍手が巻き起こった。

両脇に祝辞を終えた列席者たちが花籠を持って聖堂の両端に並ぶのを民衆は見ていたがあまりにもくっつきすぎて一人一人に感想を言えるほど分からないが間違いなくここいらでは見た子も無い服装をしている事だけは分かりどよめきのような驚きが民衆の口から出ていた。。


音楽が変わると新郎と新婦は四十段ある階段を花吹雪の中降りて、リボンに縁取られた車に乗りこみ西に向かって出発した。

見送った列席者たちも随時案内係から誘導され、機嫌の悪い獣が引く車に乗り込んで今朝来た道を疲れた顔で戻って行った。


明日、日の出とともに新郎と新婦は宮殿の前の大広場の贈呈式に東から現れる。

贈呈式は招待客らからの祝いの品々が新郎と新婦の前に披露される儀式のひとつである。


客から頂いた宝物は新郎新婦二人の新しい門出を祝って二人の財産となり生涯持っていなくてはならない決まりがあったが、今ではいかに高価な品物が並べられるかで、新郎の器が問われる場にもなっている。


騎馬兵士に護られた新郎と新婦を乗せた車は西に向かい、街中を離れて離宮より数段大きい宮殿へと入って行った。


明日の贈呈式会場となる中央庭園を駆け抜けて、繊細な木彫りが美しい丸いエントランスで二人は車を降り、ウッドハは待ち構えていた新妻の血縁者の待つ応接間へ、宮殿の主である新妻の父親の先導で入城する。


顔合わせは以前に何度も行われていたので、新しい父親に体調を気遣われただけで、皆明日のためにそれぞれの居室に下がった。


ウッドハは新妻にこれからのたくさんの祝賀会を乗り切るために英気を養うよう忠告し、彼女の居室のある扉の前まで送り届けると新しく新郎にあてがわれた棟へ、ウッドハ専用の部屋へ足を向けた。


新妻は祝いの洗礼を受けただけで疲れ果てていた。新しい夫は短い空き時間にも配下の人間に逐一指示を出し精力的に動いている。

貴方もお休みになられたら、の言葉も夫にかけられないほど疲れ切った彼女は自室に入ると、締め付けていた服の呪縛と重たいだけの宝石の冠を一番に召使に外させた。


ウッドハは新妻の部屋よりはるかに古い石段を登り、新しく内装を変えた部屋に飛び込んでいた。

部屋はもともと大きなだだっ広いだけの代物だったが、窓の多部屋を三つに分けてい奥の部屋には熱をもつ、少々うるさい発電機を据え、その隣に棚ばかりの人がこもれる部屋をしつらえ、宇宙議会場の警備システムに似た装置をウッドハは設置した。

最後のひとつは宮殿内部の人間が間違って入ってもいいように、客間のように長椅子やテーブルを置きくつろげる場所にカモフラージュしてあった。


新しい木材の臭いが鼻に着く部屋には購入した機械が壁一面、所狭しと置いてある。二番目の部屋に顔を出して無味乾燥な中に機械の熱を感じて満足げに顔を引っ込めた。

一年以上も前から購入した機器類に囲まれていると

世界で一番の金持ちになった気分でいたがその成果を試す時が来ていると

武者震いにも似た緊張感が走る。


不格好な耳当てを付けてモニターに区割りされて送られてくる映像を見ている若い男達は、技術工として良い成績を残したというだけでこの部屋に押し込められている。


耳当てを付けた男達の後ろにはうろうろと命令だけを口にする上官が二人。

明日から諜報活動を細かくチエックしそのデモンストレーションとして新妻の家族の素行を追った画像を編集し苦笑いをしている。

庭に仕掛けられたカメラの画像を見ているのは八人は、残しておくべきものと削除してよい映像と音を選り分ける作業をしていた。

十分に訓練を積んだとは言えないが、陰口や含みある言葉を読み取るのには宮殿内の諜報活動で慣れてきている。


上着を肘掛椅子に放り投げてテーブルの上の二台の画像をちらりと見る。

気を利かした兵士が新妻の着替えをウッドハの見ている画面に流した。

まだこれといって見せる映像が無いのである。


一つは新妻の下着姿もう一つは義父のくつろぐ姿が画面にはあった。


最初は面白いと思ったが今では無駄な設置だということにウッドハは気が付いていた。身内の動向を調べても金を生みだしはしないのだ。

明日の朝一番に取り外させ会場に戻すよう指示しようと画面を見て心に誓った。


「誰か離宮で起きた出来事を子細に説明できる者はいないか。聖堂にいたザカリーが離宮に戻っていたなどとは、話にならんぞ。離宮に渡るには三つの浮島を渡り西の館の正門を取らねばならん。いったい何時間かかると思っているのだ。あの軟弱ものが女連れてとぼとぼ歩いたとでも。空を飛ぶ船があるからこそ離宮からひとっ飛び聖堂島に来れたというのに。冗談も休み休み言え。もしや勝手に船を使ったのではないだろうな? この度の事で燃料を融通してもらっているとはいえ浮島の二つは楽に買えるだけの金銭が動いているのだぞ」


金の事を言われても下っ端の俺たちにはどうにもできないと兵士は心の中で反論した。

入った連絡をそのまま伝えても内容が内容だけに相手にされ無いと思い、

離宮警備兵士を尉官のメルは帰らせずに待たせていたのである。


「通じました。留守を任されていたグインズです」

なんとか通信機器に扱いなれてきた兵士は、無駄な笑顔でウッドハを見た。


昼間の連絡から三度目の遠距離通信である。


「おう、よこせ。グインズ。詳細を説明しろ、時間? おう聞こうじゃないか。さっさと言え」

マイクとヘッドフォンを引き寄せウッドハ慣れているところを見せる。


尉官の二人は一応一通り聞いているのでともかくウッドハの感想を聞いて、自分の意見は後回しに言うことにしている。


耳に聞こえるグインズの声に上ずった様子が見られる。直接話す事は無い相手である。


「何だと。その時間なら、まだ俺が聖堂の中にいた時間じゃないか。馬鹿を言うな」

ウッドハの声にビビりながら、ともかく知っている事を最後までいうことだけを念頭に置いて居るグインズである。


「ああ、確かに何人かは備品室に駆け込んでいたな。ロクサルの老いぼれが大扉をあけやがって、外の光を入れやがったから、皆客が入口を見てやがった。あの老いぼれには披露宴が終わったらガツンと言ってやらなきゃならん」


ロクサル将軍はコフラでも最も有名な英雄である。その将軍を頭ごなしにけなす言葉を吐くウッドハに驚きつつも報告だけは最低限やるのが兵士の役目である。


「それで、おう、ゲイマンに襲われただと。何で生きてやがる? ふうん、あの崖を上ってきたとは見上げたもんだが。それで容態は。明日の贈呈式には出られるんだろうな。式が終わればザカリーは帰っちまう。あいつは若いが代表なんだ。少々気分が悪くても出てきて貰わないと困るんだ」


黙って最後まで報告させてくれないかとグインズは心の中でつぶやく。


「そうか。出席すると言ってたか。なかなか良い心がけだぞ。間違いなくザカリーの持ってくる祝い品が明日の贈呈式の中では最高に輝いて見えるに違いないんだ。楽しみな事よ。いやそれはこっちの事。おう、他に何かあったら連絡をくれ録画したものは消すな。わしも一度見てみたいでな。それにしてもなんで水路に……いやなんでも無い。ご苦労だった」


いい残した事があるように思えてグインズは口を開けたが、耳当てからはウッドハの声は聞こえなくなり、画面の電波の波型も真っ直ぐになっているのを確認してグインズはほっとしてスイッチを切った。


ヘッドフォンをテーブルに戻し重くなった足をその横に乗せた。ウッドハは神妙な顔つきになっている。

光を遠さ寝ようにかけられた分厚いカーテンの向こうには薪の明かりだけで作業をしている人の姿がある。ウッドハの目の前の画像はテーブルの移動を命じられた召使がよたよたと歩いている。


「メル。おかしいとは思わぬか。胡散臭い匂いがするぞ。あのごたごたしている最中に良からぬ事を企んだやつが居るぞ。ザカリーの若造は軟弱でこずいて倒れそうだからな、何とかしようと思った奴が居てもおかしくはない」


思案気に腕を組み切り替わった画像を眺めた。

要所要所に薪を燃やした明りの中明日の会場作りに動き回る人影を、今度は屋根の上からのカメラが追っていた。


「はぁー、どこかのご夫人が式を離れたのを狙って、連れ出しに失敗したとか」

メルは今思いついたかのように言った。

昼間離宮から伝聞が来た時には、隣室に居る兵士全員と言葉を交わし結論にたどり着いている。


「ははあん。その手がっあったか。メル、備品室に入った客を調べろ。備品室に待機させていたのは誰だったか。確かロコイメントとか言ったな。そいつの話を聞いて来い。こいつは違う方向からだがいい尻尾が掴めるかもしれないな」

一カ月の滞在中に仲良くなった男女が何かを企んだとウッドハは思っているらしい。

そんなことを本気で考えているのだろうか疑いがもたげたがそれは口に出さずに、


「なにもウッドハ様の式の最中にしなくともよろしいでしょうに」

とだけメルは言った。


「そんなもの。時と場合を選んでいたら、手に入るもの入らなくなるって思ったのさ。失敗しやがったけどな」

立っている二人の尉官に椅子をすすめる事をウッドハは忘れていた。


「しかしですね。変な噂を立てられたら末代までの恥になりませぬか。たとえばこのような盛大な祭典の中かどわかしが横行するなどと言われてはたまったものではありません。しかも遠方からの客を連れ去ろうなどとは、これからのウッドハ様の事業にも影響が出ないとも限りませぬぞ」

メルは早くウッドハが命令を出すのを待っていた。

当然その命令を受けて動き回るのは自分だと心得ている。


太い腕を胸の前で組み夕餉のメニューを考えるように軽く頭を傾げる。ウッドハは頭の回転は速いが見るからに軽薄そうな振る舞いが損をしている。ウッドハだけで無くウッドハ一族にこれは言えることだった。


「分かっておる。それは流布するものが居ればということだろう? ザカリーも無事に出席するというておるし、関係者の口封じをしておけ。連れ去ろうとした奴は身内に居れば内々に見つけて島流しにしろ。客人ならばしっかり誰かを調べてこい。良いか決して騒ぎたてるなよ。ザカリーには俺が頼んでみる。あの男なら泣きつけばすぐに了承してくれるさ」


しまりの無い笑顔の甥の顔を思い浮かべながら考えた。

彼らはこの一カ月、離宮に日参しない日は無かった。


「クコイブ、コイプ、クッコネン……ろくな奴はいないな。クコイブを呼んでくれ。早急にだ」

「クコイブ殿と一緒にピースも差し向けてはいかがでしょう」


メルはピースと顔を付き合え合わせて話す必要性があると考えていた。

訳の分からない機械が間に入っていては大事な事を見落としてしましそうである。


「いい考えだ、あいつは儀式にも居たからな、誰がどこで何をしたかをしっかりと調べるように言ってこい」


メルは兵士を二人ひきつれてウッドハの居る部屋から明らかに嬉しそうに出て行った。

命令された事はしょうも無いことだが

一日部屋の中に居るよりはましだと。

残されたもう一人の尉官はこれからの打ち合わせをもう一度確認するために隣の部屋にウッドハを連れて行った。

今夜は教会から機材を引き上げてきた奴らと合流し、二つの部屋は一杯になる予定である。


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