表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Inheritance  作者: KOUHEI
始まり
5/168

スアレム星人

ヴィテッカの街ではサスケの位置は労働者としての価値しかない。地上に出た今でもそれは変わらない。

三十半ばを過ぎても伴侶を持ち子供を産む女性は大事に扱われる。

サスケも健康な女性の一人として次世代の子どもを期待されて二人の伴侶が居た。

二人の伴侶は優秀な男性でたくさんの子供が生まれることを誰もが信じて疑わなかったが、

最初の夫は頑丈な身体を生かして地上勤務に就き厳しい環境に遭遇し地下に戻ってこなかった。

次の夫はサスケよりも年齢の若い男性だった。彼は健康な体と思われていたがすぐに無精子症とわかり、自殺を望んでいたのか地上勤務に志願して帰らぬ人になった。


女性も男性でも地下都市では子供を持つ男女は英雄だ、生まれた子供らは宝物のように育てられる。

だが子供を産めない産まない女性、精子を作れない男性は生きている価値を見出すのが難しい。

老人は若い妻を持つが年を取った女は誰も相手にしないのである。


生物はより良い子孫を後世に残すためによい環境は短く設定されている。

女性として生まれた瞬間から卵子は年を取る。特に三十年を過ぎると地下都市では奇計児が生まれる確立はぐんと上がるのだ。当然三十代までが子供を産むベストな環境と言える。そこで三十という数字は女性も男性も忌み嫌うようになった。サスケも嫌がっていた年齢を五つも超えると生きているのさえ苦痛に思えてならないのだ。


子供を持つことができない男女は社会に奉仕する以外に道は無い。

ヴィテッカの住民たちに二通りの変化が表れていた。サスケのように割り当てられた仕事を、地下都市と同様に動き続ける者と何もかも否定的になり屋内から出なくなる者とに分かれた。両者ともに共通しているのは大量の薬への依存率である。


心の底から湧きあがる自殺願望を薬で抑え続けて、生きがいのように錯覚していた仕事は無くなり試験場の温室で植物の受粉作業を黙々とこなしている日々がサスケには始まっていた。



美しい曲線を描いたドームの外は太陽光と宇宙線に晒された赤い大地が続いている。

ゴロゴロと転がった石の大地の向こうに柔らかい黄緑色のドームがいくつも重なりそびえていた。

重なった黄緑色の外壁は住人の好みの景色を投影させて楽しませている。

太陽光を外壁で遮断せず壁の成分で変化させて色を浮き上がらせて楽しんでいるのはスアレム星人。

固い岩盤の傾斜地に居心地の良い居住地を作り日々の変化を楽しんで生きている。


ヴィテッカの人々がすんなりとスアレム人が用意していた避難場所に移行し生活を営み始めたのを

微細物を一切拒否した白い部屋で、各々好み形のソファーに座りたがいの目を見ないよう違う角度に身体も頭も向けて、大きく開ききった庭の景色を鑑賞しているように見せかけている。


いましがた滅びゆく生命のひとつを綿密な計算と計画で移送し新しい土地に根付かせようとしているところだ。

新しい装置は地下の街をそのままコピーした。簡単な仕事ではなかったが消えていく生命を一つ救ってやったという達成感はある

キノコのようにのっぺりした人間に目鼻口を付けた異星人スアレム人たちはこの部屋に二十人ほど集まって互いの仕事ぶりを褒め合っていた。


「アン・オーサーの生き残りは、生きるというよりも皆死んでいるかのような振る舞いですね」


「仕方がないこと。地下で暮らすということは協調性が大事なのです。他の都市は狂人が多く出て壊滅状態でありました。あれは一種の奇跡と呼んでもよいでしょう」


「誰が最初にあのようなことをやろうとしたのか。伺いたいものです」


「恐らく、地上に居る時から恒常性を保つように仕向けたのでしょう」


「何とも従順な生き物が出来ていますね。あれでは他の星との交流など出来やしない」


「あれあれ、そのような心配など無用です。そのうちに覚醒する日が来ましょう」


「一対残ればよろしいかと。街並みも洗練されておらず、見るべきものがありません。早々に土くれに戻したほうがよさそうですね」


「そうですね、あまり観察する値打も無い種族のようです」


部屋にいる全員が眼を細め唇の端を心持ち上げて顎を引いてうなずいた、全員が同じ意見であると同調した。


「そういえば、今度の旅行に本当にザカリアート人を同行させるおつもりですか」


「ええ、私のお気に入りの一人を。彼もまた星が滅びるということと、再生への道筋を模索していますので、見聞を広めさせるにはよい機会だと思うのですが」


「理由はなんとでも付けられますが。あの一族は貴重な文化遺産を塵に戻しかねない」


「まさか、そこまで知性のない粗相はするまい」


「彼らに出会って年月がどれだけ流れたとおおもいか。彼らザカリアート人はどの星系でも引っ張りだこの種族でありまする」


「そうであったな、で、誰を同行させるのだ。私はクロストを希望する」


「私はドレドを、あの銀髪は魅力的だ」


「私はロードを、あの身のこなしは称賛に値する」


「皆様の希望を裏切って申し訳ないが。いましがた名前の挙がっていない御仁でございまする。ザカリアートの若き代表者ディアンです」


「ほう……」


名前を聞いてディアンの美しい面影を脳裏によみがえらせると

スアレム人は口元に微笑をたたえて美の映像に酔いしれた。


宇宙で一番美しいヘアースタイル、最高の顔の配置、誰もが賛美する手足のバランス。究極の姿かたちを追い求めて得たスアレム人は0,1mmの違いを見間違えることなく相手を判別する。

寸分たがわぬ彼らの想いが美一点に集中し同調すると、全員が動きを止める。

瞼の瞬きを止め、そよぐ風すら遠慮してしまった部屋は静寂に包まれていた。


金縛りの呪文が解けたように無駄のない優雅な動きがスアレム人に戻ると

個々に介入した星々の未開人のドラマに想いは飛び席を立ち始める。


「ごきげんよう」

「では後ほど」

「美しい栄誉は我らの頭上に輝かんことを」

「ごきげんよう」


星に生息する生物に知性と品格を認めなければスアレム人は興味を示さない。

乱暴で和を保てず広がることを望まない生物には決して手を差し伸べることなど無いが、スアレム人の船の技術を渡したことによって生物は宇宙を航行する手段を手に入れた。無数に伸びあがる手は見境なく何でも掴もうと貪欲になった。


そんな彼らを赤子のように扱うのがスアレム人の楽しみでもある。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ