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Inheritance  作者: KOUHEI
水の惑星
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不可解な二人

街の中央で行われていた式典には、至る所に正装した兵士で沿道に配置し、聖堂内にも多数の兵士を立たせてウッドハの力を鼓舞し、豪華な儀式は佳境に入っている。


それに引き換え警備兵として離宮に残されている人数はわずかである。


ディアンは誰が最初に気が付くかそれによって小芝居を変えようと待っていた。

十分経ち二十分経ちこのままでは、サスケが先に起きてしまうと危惧していると

監視カメラで二人の存在を目にした、警備兵士の力強い足音が聞こえてきたが

途中何度も別な足音と混じり合い立ち止るので、ディアンの思惑通りに進まない。


一箇所にじっとしている事など珍しいディアンは、コフラに到着して一番忙しかったのはゲイマンのえさ場だけだったなと悠長に思いを巡らしている。


足音は止った所を見ると責任者不在のため、この事態にどう対処してよいか相談しているのだと思われた。

集まった警備兵士のもとへ西館の厨房からも人が寄って来ている。奥の召使部屋からも窓辺にと足音が固まりだした。


警備兵士三人と召使頭のゴッズ等四人の足音が東館に向かい始めた。


ディアンは体勢を変えるわけにはいかず、

「暇だ、さっさと確認作業をして貰えないだろうか」

隣のサスケはタイルの上が心地よいのか正確なリズムで呼吸を繰り返している。


足音は館と館を結ぶ樹木の生い茂った車道を小走りでかけていた。

四人ともに東館のテラスにあるものが実際に人間かどうか不審に思いながら、どんな出来事があれば式の出席者が切り立った海側から現れ、テラスにたどり着く事が出来るのかと首をかしげている。


「何度も念を押すようで悪いが、絶対に見間違いではないのだな。東館はこの島の一番端にある。正門を通らず東館にいけぬのだぞ。議会船は空港の倉庫の中だし。そんなことがあるのか?」とゴッズ。


軟弱で知られているザカリーである。海にはコフラの住人ですら気温を確かめて海獣の動きの鈍い時期を狙って漁に出る。それも用心に用心を重ね、完全武装をしてでの出漁である。


警備兵士は自分の見た物を疑われて気分が悪い。他の兵士が見回りで帰ってくるまで自分の目が信じられなかったが六つの眼が見覚えのある二人だと認めたのだ。


「だから何度も言っておるだろう。疑うのなら来なくともよい。わしらだって知らせを聞いただけで本当かどうかわからないんじゃ、ぬしは来んでもええ」


「いいやわしは行く。主たちがいない場所で粗相があってはならぬ。特にザカリーの方がたはどこのだれよりも人気のある人が多い、そんな方たちに失礼があってはならんのだ」


「だったらぐだぐだ言わず、付いて来い」


警備兵士はもう何も言うことはないと口を閉じた。

兵士から高飛車に言われて気分を害したゴッズはこの時はまだ、兵士らの言う事を信用していなかった。

東館にはどの滞在者よりも金目の物を持っているザカリーがいる。彼らの狙いがそこにあるのは明らかだと思っていた。


二十分ほど暗い林の中をかけて日の燦々と照りつける庭に出た。ここに最初に浮遊するバス船に乗って彼らは降りてきたのである。東館の正門前を通り過ぎて庭園に続く道に入りこんだ。


大きく館から離れて弧を描いた庭園の道を走り、木の実のようにたわわに花をつけた庭木を横目に駆け抜けると広いテラスの上に飾り絵のような二人は倒れていた。


「何ということだ! ディアン様。奥方様ではないか。まことに。まことに……」

想像もしていなかった人物の登場にゴッズは大声を上げた。


兵士らはそんなゴッズを無視して倒れた二人に声をかけた。


「どうなされましたか? どこかお怪我はございませんか? 気を確かになされませい」

手首や胸元を飾る宝石がきらきらと陽を受けて輝き、髪や服の裾に枯れ葉がくっつき払い落としてやりたくなる。


警備兵の声に昼寝から目覚めたようにうっすらとディアンは目を開けて見せ、ゆっくりと半身を起した。

サスケもぼんやりと四人の顔を見まわしている。


「どうして式典の真っ最中に。このような所おいでか」

不思議な顔で一人の兵士が尋ねた。


衣服に乱れた様子は無い。もしや式に向かわず庭で迷子にでもなられたのだろうかと疑いがもたげるほど、二人の様子は美しく整っている。


警備兵士の怪訝そうな顔に、少し憐れみをもつように顔を作ることにした。

顔色を青くし頬の筋肉をわずかにへこませる、あまり大きく目を開けない事も、ちょっとした陰りを感じさせ効果的だ。


空元気に見せるように力なく答える。

この場合、安堵感も表現したらもっと真実味が増すというもの。


「ああー、警備兵の方ですね。おやゴッズもいる。ありがたい事。そうですとも私とサスケは聖堂でウッドハ様のお式に出ていましたとも。数人女性たちが青い顔をされて祭壇横の扉に行くのを見ました。同じように気分の悪くなったサスケを運び入れたところ、親切な方が水を飲ませようと近づいて来たまでは覚えていますが。気が付けば箱に入って海の上。ゲイマンが箱に食らいつこうと箱の周りを泳ぎまわっているうちに私どもが乗った箱は壁にぶつかりました。私どもの命を狙っていたゲイマンは二頭から五頭に増えて、私どもをそっちのけで喧嘩を始めましたので、そのすきに私はサスケを抱えてそそり立った崖を登った次第です。今もって生きている心地がしません。ここは本当に私とサスケが探索した庭でしょうか?」

と目を伏せて肩の力を抜いてほっと深い息をつく。


そしてそっと何が起きているのか分からないサスケの手を握る。新婚の若夫婦ならこれぐらいの演技はしないといけないのだ。


サスケは一度ゲイマンのえさ場で目を覚ましたが、食らいつこうとするゲイマンの口の中を覗き込み、意識を失っている。

起き明けに自分を捕食しようという生き物の口の中を見るというのは、かなりショッキングな出来事ではあるが。心配げに立っている四人の顔と、芳しい花の咲く庭に降り注ぐ陽光に、サスケは状況を把握できていないようだ。


テラスで横たわり、意識が戻っていたサスケは必至で記憶の糸をたぐりよせていた。


ディアンが説明する通り聖堂で気分が悪くなって目を閉じてしまった。何か問いかけられて目を開ければ、悪夢のような海獣の大口の中を見た。一瞬の事だが鮮明に覚えている。


鋭くとがった歯の間から滴り落ちる唾液、歯の中には灰色の舌がうねっていた、海獣の冷たい歯をほほに感じたがその後は覚えていない。


揺られていると思ったのはディアンの言ったように抱えられていたからだと思うが、気が付けば乾いたタイルの上に横になっていた。

目を閉じれば海獣の顔がそこにあり今にもサスケに食らいつきそうである。


「オオッ」とゲイマンの恐怖にサスケが身体を震わせると、ディアンが優しくもう片方の手を重ねてきた。


「私とサスケを部屋まで連れて行って貰えまいか。私はここまで来るのがやっとでありました」

と、けぶるまつ毛を少し震わせて吐く息とともに言い、無理をして口元に笑みを作る。


「ウッドハ様に連絡を、我々が居ない事で探しておられるようでしたら、無事であることを伝えてください。もしまだ気が付かれていないようでしたら。式が終わってから騒ぎたてぬようにこっそりと伝えてくださいませ。私どもは今宵一晩眠れば、明日の贈呈式には参加できますのでご心配なきようにと」


ディアンは片膝ついて起き上がり、サスケの手を持ち上げた。


「ではサスケ、少し元気なられましたね。窮屈な服を脱いで、しばし寛ぐとしようではありませんか。それでどなたがこの伝言をウッドハ様に伝えてくださいますか」


よろよろと立ちあがるサスケを支えて兵士とゴッズをディアンは見つめた。


「へぇ。では私めが参りましょう。最初から騒ぎの中にいましたから説明もしやすいでしょう」

一人の兵士がキツネにつままれたような顔で返事をした。


いったい全体この二人はどこからやってきたのだろうと疑問が残る。木箱に乗って海を流れて、ゲイマンが五頭も居る中、餌の二人をやすやすと見逃し、二人は海水さえ浴びずにここに居る。


確かに偶然が重なって二人の客人は助かったのだろうが、崖は波でえぐられ人が登れるような場所は無いとの思いがぐるぐると四人の頭の中に渦巻いている。


「ではお願いします。サスケ」

青い顔をして立ちあがったディアンは、テラスは開いているかとゴッズに尋ねると慌てたゴッズが腰のカギの束を外しテラスに走った。


ゴッズや見慣れない兵士の様子からここではサスケに何の発言権も無いと察して素直にディアンに従う。

「はい」

ディアンに答えを求めている彼ら四人とサスケの気持ちは同じである。頭が冴えて足でタイルを踏んでいる事は分かっいても、記憶の断片のどこをつないでも庭に居る理由が自分自身にすら説明できないのだ。


慌てて鍵を開けて戻ってきたゴッズに、

「誰かに。後で良いので温かいお茶をお願いしますね」

とディアンは声をかけた。

「へぇ」

三人の警備兵士とゴッズは開け放った扉の奥へ二人が歩き去るのを不思議な面持ちで見守っていた。


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