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Inheritance  作者: KOUHEI
水の惑星
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ゲイマン

ディアンとサスケを乗せた木箱は

ヨキオッリ兄弟の水飲み場を過ぎて、

海沿いの木の根が密集して大きな口を開けた穴の中を滑り落ち、

濡れた落ち葉やごみ、水の力で表面がつるつるになった細かい木の根が、

平らな土壌に作り上げられた入り江に投げ出された。


巨木の朽ち果てた木の根は洞窟の天井のように入り江の上にのしかかっている。

とぐろを巻いたむき出しの木の根の養分を吸収しながら、蔦や草または幼木がその上に育っている。

水路の水は十メートルの落差を落ち、水の落ちた位置には海からの生物が上がってこれないように、固い木で作った突起が上向きに設置されている。


大型の蜀台を四つ収納できる箱は、激しくとげにぶつかりながらも壊れることはなく、棘でちょっとだけ弾んで向きを変えた。

ディアンは箱が穴に入る寸前に蓋を片手に、もう片手にはサスケを抱え、箱がとげに触れ衝撃が来る前にぬかるんだ入り江に蓋を投げてその蓋の上に飛び移っている。


そしてゆっくり倒れてきた箱、本体を受け止めて蓋の横に置いた。

滝のように流れ落ちる水路の水は棘に向かって落ち水しぶきを上げる。重なった木の根の間から海に流れ込み、さながらこの入り江は木くずと葉っぱで出来上がっていた。


蓋の上にサスケを寝かせ蓋の角に立って怪訝そうに顔をしかめた。

「面白くない。強盗団の手下が現れないとは。ふん、聞いておくべきだったな、どこで拾われるかを。ひと暴れしてやろうと思っていたのに。なんだここは、海獣の巣か」


さてこれからどうしようと、

さざ波のうち寄せる水際と、湿っぽい堆肥をばらまいたような入り江とを見まわした。


ちらりと海を見てディアンが嬉しそうにしたのには理由がある。水面には小さな波を打ち消して黒いものが一瞬見えたのである。


ディアンの期待通り海面は盛り上がり、青とも銀色ともつかない色をした大きな海獣がのっそりと入り江の際に上がってきた。

おそらく箱がとげに当たりその音を海中で聞き取り、海獣は興味を持って来たのだった。


水から上がった海獣は長い首を持ち上げて労せず取れる食べ物を見つめている。

今日落ちてきた餌は腐敗しておらず、まだ地上での生活が出来る所を見せつけている。

海獣の顔の側面にある大きな眼の水中膜が外されるとより確かに、活きの良い餌が二体ある事がわかった。

海獣は鱗の無い柔らかい皮膚を持ち、地上を徘徊している生き物(餌)が大好きだ。

海獣が水中から全身を現しても

餌は一度だけ海獣のほうへ顔を向けて逃げる様子はない。


ぬかるんだ入り江にひれの先に隠していた爪を食い込ませて、

餌の高さに長い頭を下げ、口を開けてゆっくりと海獣は近づいて行った。


日ごろ小さな腐肉を奪い合いになるえさ場には海獣が一匹、生物(餌)の逃げ道は後ろにある露出した木の根の壁。


複雑な根の隙間に入られたら少々困るが、水の中に逃げられる心配はない。

水の中はもっとも地上の生物(餌)が嫌う場所だからだ。


久しぶりの新鮮な餌に、威嚇も警戒も無しに海獣が近づいたのは、

餌は海獣に驚く気配も、逃げる様子も、さりとて身構える事さえしていなかったからだ。

ただ長四角の蓋の上でぼうっと立ち、横たわっているもう一体の餌を見ているだけである。


美味しそうな餌を丸かじりにするため、海獣は濡れた身体をふるわせて、一直線に餌に向かって近づいていった。


ディアンは湿気の多い入り江に嫌気がさして

少々汚くともあの備品室から出るのでは無かったなと後悔した。

「サスケ、サスケ。まだまだ回復してはいないのか」と一応声をかけてみる。

「回復力を上げねば、生きていけぬぞ」そろそろ起きても良いはずである。


サスケは気を失って二時間以上たつというのに、起きる気配は全くない。

コフラに降り立ってから、目に映るもの全てを詳細に記憶の中に取り込もうとした結果、脳の興奮状態は続き、危険な状況の中でも深い休息状態に陥っている。


海獣はうまそうな餌を間近にし口を開け、並んだ白い牙の間から消化を助けるよだれがあふれ出て蓋の上に落ちた。


ディアンは尖った牙を際立たせている、濡れてめくれた唇の上を、真横に片腕を動かして払った。

出来るだけ海獣の骨格の部分を、目と唇の間を狙ってちょっとだけ力を込めている。


海獣は最初何かが眼のそばに近づいたと思ったが、

柔らかい御馳走がもう少しで口の中に入ると、頭の中は美味しそうな餌の事しかない。

が、頭に伝わった衝撃は上あごの骨から全身に走り、届いていた獲物のそばから、落ち水の反対側の壁に海獣はふっとび、背中から叩きつけられていた。


海獣の水かきのついた後ろ脚が宙を蹴り、長い首は密集した木の根の中に。

「面白くない」

はまり込んだ怪獣が足をばたつかせ首をうねらせて、

正しい姿勢に戻そうと躍起になっているのを白けた目でディアンは見ていた。


入り江の壁を作って居る木の根には漂流物と藻や苔が生えている。

ゴミと一緒に流れ落ちてくる水の穴を潜り抜ければ地上に戻れるが、

間違いなくユーザーとサルツ人が作った衣服が濡れてしまう。

濡れると錆びる金属もある。縫い目も縮む事を考えると木の根の間と水は避けたかった。


おもむろに比較的まっすぐな枝をディアンは拾うと、さざ波を立てている海に目を向けた。

水路を旅してきた箱を浮かべて広い海に出て、どこかの漁師町にでも助けを求めてみる気になった。

潮の流れさえよければ早くに地上に出られるのではと気楽に考えている。


「あれほど見たいと言っていたゲイマンが近くにいるというのに、残念な事よ」

ぐったりと横たわるサスケを見下ろし、やはり気まぐれはよくないとエフリーの言葉を思い出している。


ぬかるんだ土の上に棒を突き立て、力を入れると、水気の多い土はあっさりと箱を滑らせて入り江の際に二人を運んで行った。


根の壁に打ち付けられた海獣は足をばたつかせて、食い込んだ背中を木の根から外し、

固い木の根で傷ついた頭を穴から引き出すと開いた口から威嚇の雄たけびを上げた。


海の上には次のゲイマンが二頭、長い首を水面から出し、濁った眼で入り江近くのえさを見ている。

二頭とも始めに襲いかかってきた一頭の事など気にも留めずに、餌に向かって口を開けた。


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