大聖堂 1
これからの門出に必要な心構えとして
新郎と新婦が司祭の説教の言葉を殊勝に聞いている最中、
祭壇下では肩を並べて座っているお歴々が神妙な顔をして目を閉じていた。
目の前で行われている儀式に関心の無い客もいる。
(今夜一緒にお食事致しません? いろいろと話したい事がございますの)
(あら、私もよ。この式が終わったらあたくしの懇意にしているザカリーが帰ってしまいますの。さみしいわ)
一カ月の滞在で仲良くなった顔見知りと表情としぐさだけで意思を通じ合わせている。
司祭の声が届かない多くの招待客は、自分の過去の式を思い浮かべては、式に立ち会うのは何と退屈な事と時間の過ぎるのを忍耐力を駆使して座っていた。
入口の大扉からフロアーを埋め尽くす祝い客の中で大きなガイゼンは祭壇から離れているというのにひときわ目立っている。
ガイゼンの巨体から一組の夫婦を挟んでディアンとサスケ、その隣に中年の二組の夫婦が並んで座り、
ガイゼンの右側に二組の夫婦と花嫁が歩いた中央通路があったが
サスケからはガイゼンの身体に隠れて花嫁の顔も衣装も見えなかった。
椅子を三脚占領しているガイゼンは、余裕があるように思われたが、横幅は広げられても
前の椅子との距離はどうにも出来ず窮屈さは皆と変わらなかった。
神聖な式は何事も無く淡々と進み、緊張した面持ちの新婦と違い
式に慣れたウッドハのふてぶてしい態度がガイゼンは気に入らず不機嫌になる一方である。
ガイゼンのイライラが周囲に伝わって前五列、後ろ五列にいる客までも不穏な空気を感じて沈黙を守り通している。
特に後ろの列は彼女の巨体で祭壇が隠されてしまい、右上から楽隊の奏でる音で式の進行状態を想像するしかなかった。
司祭が神の祝福の言葉を両手を挙げて朗々と述べると、
祭壇の二番目の階段まで二人を下がらせて、階上の音楽隊に合図を送った。
一服の風のように小さかった音色が優しく大きく鳴りはじめた。
最前列の招待客が立ちあがり、新しく夫婦になった二人を祝うため神の言葉と幸福のおすそ分けという息を吹きかける儀式が始まる。
祭壇前にはバッケズ惑星のウイドウが呼ばれ宇宙議会の要職名と自星での地位が紹介されている。
待ちくたびれて内心辟易していたウイドウが背筋を伸ばして奥方の腕をとり恭しく新郎新婦に祝賀の声をかけた。
「カッパズの月と双子の太陽は未来永劫、貴方の頭上を照らし続けるでしょう。美しい日々が貴方方を待っていますよ。神の祝福がこの花のように私には見えています」
とこの常とう祝辞を述べるためだけに夫妻はコフラに来ていると言っても過言ではない。
「承りました」と新郎新婦が腰を折り頭を下げるととなりに備え付けてあるかごのなかから今朝摘み取った花弁をウッドハと花嫁の頭に振りかけた。
二人の足元にはうずたかく花弁の山が出来つつある。
順番通りに三列目に来た辺りから人の流れが止まった。
「まぁ。どうなされました? どなたか救護の方を呼んで下さいまし。このような所に横にさせるわけにはなりませぬわ」の声に、
何事か起きたのかと後方の列から席を立って見ている客は
前列の三十人内の誰かが声をあげているのか、
その後ろの座っている客の夫人の声なのかは、後方の列の客には解らなかった。
祭壇前で人だかりがしていると十列目でも同じような声が上がった。
「足元がふらついている。気分が悪いそうだ何か飲み物を!」
斜め後ろの十一列目では「汗がひどい誰か扉を開けてくれまいか?」
二十五列目通路側でも同じようにごってりと勲章を下げた老人が前の背もたれを掴んで苦しそうに喘いでいる。




