ロコイメント
聖堂の煙突からはこの日を祝って色のついた煙が立ち上っている。
街のどこからでも見える正教会の聖堂は木材で作ったとは思えないほど精巧な飾りで覆われて
偉大な神を祭っていることを示している。
この度、大聖堂の警護を任されたのがロコイメントである。
ロコイメントは小さな浮島の農場主の息子である。ただ嫡男ではない。コフラでは嫡男以外には土地は受け継がれず次男三男は兄の下で一生を働くか、自分の土地を持つために新しく出来た浮島の開拓に出ていくか、他の大きな農場主の下で働くかの選択肢がある。
兄の農場で働くには人手は足りていて、仮に働いたとしても小さな浮島では大きな収穫は望めず、新しく出来た浮島を開拓するには困難な問題が山積している。
まず水の問題だ。海水に浮かんだ軽い溶岩の上に草が生え樹木が生い茂るまで相当な年月が必要である。
樹木が根付き雨水を貯める様になるとやっと人が移住できる島になる。
根が張った土地を開墾し水路を引くとなると人手もいる。家族でもいれば開墾も楽しかろうと思うが一人身のロコイメントは数年はかかる開墾などに興味はなかった。
さりとて自分の力で働いて食べていかなければならなかったので、
大きな街に出て仕事にありつこうと思ったら何の技術も持たないロコイメントのような男達は
手っ取り早く金を懐に入れる為には下っ端の兵士にでもなるしか道はなかった。
身体の大きなロコイメントは訓練兵士から一等兵になり伍長にまで昇格したが、コネの無い者ははそれ以上の地位は望めない事など百も承知していた。
祭壇の左横、壁に描かれた装飾と化した隠し戸の中には、さまざまな儀式に使われる備品がしまいこまれている。
一つ一つは催事に合わせてしっかりした箱の中に納められていたが、式典に合わせて箱の中身は全て磨き抜かれて壇上に鎮座し、ある物は宙づりになり、あるものは壁に貼り付けられ花が活けられていた。
残ったのは壁際に積み上げられた空箱。備品室はロコイメントらの待機場所としあてがわれたにもかかわらずも扉の開け閉めもかなわず足の踏み場もないくらい雑然と放り投げられていた箱の山を、ロコイメント達が万が一に備えて、曲がりなりにも腰を据えられる高さの箱と、着飾った客が埃だらけの箱に接触しないで通れるだけの幅の通路は確保して天井まで積み上げたのである。
その狭い通路に並んでいる。
「良いか、わしらにあてがわれた役目は聖堂の左右の側面、真後ろの見回り。貴賓客の警護と救護である。表は近衛隊が出張っているからわしらに関係ない。主に救護に力を入れよとの命令である。何時如何なることが起きるかもしれない、無いとは思うが、重症だと思われる方は車にて街の医療施設に移っていただく。出来るだけ丁寧な言葉使いで優しく扱うのだぞ。手荒に扱ってウッドハ様の名前を汚してならない。この事は肝に叩き込んでほしい」
聖堂正面で貴賓を迎えた正装の近衛兵士らの半分は、屋内の二階部分に当たる通路に整列させられ聖堂の一部と化している。
手下二十名を指揮して聖堂の周囲を警備上見回り、備品置き場の一室で空箱に囲まれて長々と注意点を言ってはいるものの手薄な警備人数と、病に倒れた貴人が乗る車が五台しか与えられ無かったのにかなり不満をロコイメントは持っている。
聖堂は何度も修復を重ねて祭壇までの距離は長いが横幅は狭い。備品室から大通りまでの続いている道は建物の間を通って曲がりくねっている。
歩兵を五名づつ左右に分けて交代で見回るも途中でジーヴの引く車にでも出会えば元の大通りまで戻って車を交わさなければならないからだ。
時間通り見回りが戻ってくる事も無く、ときどき下士官が異常が無いか聞きに来るがうまい具合にロコイメイントが備品室にいればよいがいないときほうが多く、口伝えで下士官のご機嫌が悪いと聞いている。




