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Inheritance  作者: KOUHEI
水の惑星
39/168

聖堂島

離宮のある浮島から空中浮遊船で、

聖堂島の南の端の広場に運ばれた招待客は

急ごしらえの船の発着所から四足の首長獣が引くオープンカーに乗って

一直線に伸びた街道を歓迎と好奇心に満ちた民衆の視線で迎えられた中を進むのである。

車道の縁石にまで身を乗り出したコフラの住民の前を

全身緑のマントで覆われた出席者たちを乗せた車が延々と連なっている。


目的地は当然ウッドハが式を挙げる大聖堂の前。

はるばるこのパレードを見ようと遠方から来た住民たちは

深く被ったフードの隙間からわずかに出ている顔を見ようと犇めき合っている。


「宇宙から来たんだと。んが、何も俺らと変わりがないがえ」

「宇宙ってあの空の上だがや。落ちてきたがや」

「何の見た目が変わり映えしないってことはだ、氷の大地の向こう側から来たんじゃねぇのか?」

「なるほど、それで妙ちきりんな客がいねぇだな」

「何だ。そうだよな。雲の上には神様しかいないのよ。そうだろう? でもよすげぇ、客の多さだよな。国中の車をかき集めたみたいだな。俺これを見ただけでも感激した」

「大きい奴はいるど。あれは大きい。車が小さく見える」

「すっごいのー。わしらの倍は軽くあるが。ありゃ確かに宇宙から来たんじゃ」

「いやぁー 氷の向こうからじゃ」

「ウッドハ様の力は宇宙に知られているそうな。今度の婚姻はキング・クスケ・プッツェ家の娘だが前のクスケの夫は追い出されたらしい。領土も増やさなかったし、なーんも利益を上げなんだらしい」

「役立たずだったのか。そりゃ追い出されるわいな。それこそ氷の大地行きじゃな」

「けっけっけっ」

轍のきしむ音が人々の声をかき消している。次から次と目の前に現れる二頭立ての車は途切れることなく続き恐ろしげな顔をした獣の長い首が届かないぎりぎりのところまで近付いて人々はウッドハの呼び寄せた客人を見ようと身を乗り出していた。


「あれを見てみ、まぁなんと首のよう回る客よ。右に左に後ろにと忙しいこった。ちいっともじっとしないがな」


要職についている議員たちの車が過ぎて、ザカリーの乗った車が民衆の前を通ると変わり映えしなかった緑のフードと緑のマントで覆われた客の一人がフードを外してきょろきょろと景色を見ている。


「サスケ落ち着きなさい。車を引く獣がおびえています」

「はい」とディアンに注意されて

身体を椅子に沈めても、またぞろ腰は浮き、身を乗り出さんばかりに過ぎゆく景色を見ている。

(人、人、人、人。このように皆地上に出て闊歩している)

沿道を埋めた人々を一人一人眺め、居るはずの無いヴィテッカの住人の顔をサスケは探し求めている。


樹木の出す酸素を胸一杯に吸い込み、過ぎていく景色が嘘でないよう、ただの立て看板ではなく斜めから見ても奥行きのある建物が並んでいるのを確認せずにはいられない。


垣間見える建物の間から横に広がる海や草地が遮断壁に描かれた絵ではないかとサスケは疑っていたのだ。


ディアンの促した注意は二人の前に居る御者に向かって言ったものである。

御者の男は鞭とたずなは持っていても二人がなにを会話しているのか、特にサスケの行動に気持ちは注がれていて車を引く獣の制御をおろそかにしていたのだ。


大きな浮島の端から中央の丘までおおよそ小一時間、

聖堂の前は道中よりももっと多くの人垣が出来ていた。

人垣は正装をした兵士によって左右に押しやられ、焼煉瓦を敷き詰めた階段の上の聖堂の大扉までは人払いがされていて客を向かい入れる準備は整っていた。

大扉の横にも兵士が行儀よく並んで招待客を無言で立っていた。


一歩聖堂に入れば奥に崇める神が奉られている。両脇に列席者の椅子を並べ、真ん中を二メートルほどの空間が真っ直ぐに五十メートルと長く壇上前まで突き切って進むと高い天井まで届く絢爛豪華な花祭壇がある。

入口の大扉から少祭壇まで少しづつ狭まりもっと奥行きを感じる。祭壇横上には左右に窓がありサスケの知らない彫りあげられた見事な神の姿を左右の光で浮き上がらせている。


ウッドハの考える有力のコネになる人物たちが祭壇前最前列に並び花嫁の一族はその後ろに固まっていた。

サスケらザカリーは昨日から離れない熱烈なファンと一緒に聖堂の中で散らばっていた。

ディアンとサスケはなぜかガイゼン大将の近くで右手の二階バルコニー控えた楽団のファンファーレを聞いていた。

「大入り満員の見世物小屋と同じ状況じゃな。音楽はなかなかよろしい」

とガイゼン。堂々たる体躯とは裏腹に別に胸元の詰まったゆったりしたドレスに唯一の装飾品は斜め掛けに垂れた幅広の布に乗った無数の勲章。

いつもなら彼女の周りに寄りつかない人々が最初の挨拶もそこそこに内心しぶしぶ、ガイゼンと出来るだけ目を合わせないよう遠くて見えない祭壇に顔を向けたっきり緊張した面持ちで身動きできずにいる。


その五列後ろにはコフラでも四分の一の土地を所有するハトム一族の代表者カップル。右隣にノーユズリ。

入口だった大扉まで二十列にコフラの有力者たちがびっしりと並んで座っている。


席順を決めたのはウッドハである。宇宙議会の顔なじみを一人もガイゼンの周りに配置しなかったのは今後の事を考慮しての事なのだがガイゼンを中心に十メートル以内の列席者たちはガイゼンがどんな人物か知らされていないにもかかわらず、連れ合いと一言言葉を交わそうものなら無言の威圧がガイゼンから発射されて、身の危険はない場所なのになぜか冷汗が噴き出すという事態が起きていた。


神聖な空気の中、聖堂におごそかな楽団の音色が響き渡ると祭壇右横から式服を着たウッドハが司祭の手招きで真ん中に立つと大扉の上の鐘が鳴り響いた。


静かに待っていた列席者は祭壇から入って来た大扉に向けて、薄い青い靄のようにたたずむ花嫁に目を向けていた。

花嫁の隣に全身真青の式服を身に付けた花嫁の父親が娘の手を取り祭壇までゆっくりと歩いている。

祭壇の階段下でウッドハが青いベールで覆われた彼女の手を受け取り、二人で壇上へと上り詰め司祭の前に立って深く腰を折る。

二階の音楽隊は司祭の声が全部の座席に聞こえるように奏でる音を極限まで小さくして演奏を始めた。


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