東館 2
深夜、明日の支度が整っていない西館、南館、北館は蜀台の火を持った召使たちが右往左往していたが、ザカリーの居る東館はひっそりとしている。
昼間、召使の出入りが激しかった門は閉められ、
明るい三日月が二つ空に上ってサスケが歩いた庭を照らしている。
東館三階の一室、ディアンの部屋には多数の人影がある。もちろんザカリーである。
集合出来なかったのは数人。
熱心なザカリー崇拝者に捕まって御本人着用で一週間分の衣装の評価を求められている。
ディアンの部屋に細工された盗聴器は三つ。くつろぐ居間のテーブルと寝室、入口のドアの中。
ウッドハの仕入れた品物だから大した性能ではないが、用心をしすぎるという事は無いので三つとも簡単なシールドをかけている。
小さなランプの明りが壁でまたたき、中央にある長椅子とテーブルをぼんやりと浮かび上がらせている。
一人掛けの大ぶりの椅子に腰かけているのが二人。カーテンに隠れて四つある窓辺にそれぞ二人ずつ誰もいない庭を見下ろしいる。長椅子の陰にも一人と、そこかしこの家具の暗い陰に気配を消したザカリーが潜んでいる。
長椅子に座った影が口を開いた。
「マイプが実権を握って以来、囁かれていたことが現実となりつつある」
これ以上待っても全員揃うことは無いと苦笑する。
離宮に到着後、四度も五度もお茶会を梯子して招待客に笑顔を見せてきた。
そのうえ彼らの通信記録をちゃっかり調べてきている。精神的にも疲れてもよさそうだが声に疲れは見られない。
「マイプが新たに標的を決めたということか」
驚く事無く別な影が答える。頭角を現すのは他の人物だと思っていたからだ。
マイプは独自の発想を持ってスアレムの技術に追いつき追い抜こうとしている一人である。
彼の旗の下、科学者と、技術者が終結し抜きんでた発明が世に出始めている。武器はその筆頭である。
「彼らは兵を集結してカッスの土地を占領した。その後サローニの古い宇宙船団を買い占めてカッスで改造している。最初の目的はスヴィンダで大型船の船体を確保するのが大きな目的だろう。それから星団を率いて軍隊をロエボルに送るつもりだ。今最高に熟成されて豊かな産業を持っているのはロエボルだからな。セラで訓練している兵士をゲーグ、ウルスル、ホーバー、コロニャに送り込み支援と称して内紛を起こすつもりらしい」
「セラで行っている事は訓練とはいえない。洗脳だな。バースという大将は心を操る。人が人を操るためには猜疑心が必要だそして功名心。最初はゲームだったのかもしれないが、今じゃ過度にマイプに心酔した軍隊が出来上がっている」
「マイプ一人の独断ではないのか。やっかいだな」
「特別支援隊の中に彼の腹心の部下が複数いる。彼が送りこんだ者達はみな有能だ」
「分かっている。図式に書いてみたほうがよいか。これは一網打尽とはいかぬぞ。マイプを消したところで次に餌にありつきたい奴が大口を開けておる。条約などと言うぬるい事を言っていては埒が明かぬ」
「スアレムの船に対する思い入れもここで潰えたな。スアレムが船などの乗り物をひけらかしたのがそもそも間違いなのだ」
「そういうな。彼らの本当の思惑など誰が知る。遠からず船はどこかの惑星で作られていただろう。それが早まったのか遅かったのは分からぬが、これまで惑星間の戦争が無かったのはスアレムの作った宇宙規範があったからだろう」
「宇宙船で兵器を運ぶべからず。どの国の誰がそれを守っているかは疑わしいがな」
「新規参入者は誰だかわかるか? 調べなければなるまい」
「コフラに招かれている全員と思ったほうがよいかも知れぬ。一か月もあれば良い情報も悪い情報も筒抜けだろう」
「マイプの配下の作戦は成功していると思ってよいのか」
「スアレムの指示は?」
「大戦になる前に消滅させよ。しかし今度ばかりは無理だろう。ウッドハ同様、皆外宇宙にあるうまみを知ったからな」
「我も我もと、もろ手を挙げて参加を表明しているところが眼に見えるようだ。それで皆招待客はご機嫌麗しいのだな」
「その通りだ」
奥方の言いなりになって足を運んでいる権力者たちではなかった。
皆ひとえに腹の中に考えがあってコフラへ来ているのである。




