ガイゼン将軍
サスケが庭に未練を残して部屋に戻れば二人の召使が必死になって衣装を移動させている。
山のようにある箱の中からスツールよりも小さな箱を取り出して中身を広げると二人の召使はうなずき合っている。
「これでいいわね。他にリボンはないかしら。全く持ってゴッズったら私たちにだけこんな仕事を押し付けるのだから。あらお帰りなさいませ。庭は旅の疲れをいやしてくれた事でしょうね。先ほど使いが参りました。歓迎の茶会に招かれましたので支度をしております。茶会のホスト役はシヴィンダ星カロリーヌ皇女にお仕えする将軍の一人でございます」とわざと大きな声で仕事内容を愚痴りの行事の内容を知らせる。
新しい主の機嫌を取るような事はしないと心に決めているのが手に取るようにわかる。
ディアンは庭に出る前に約束を取り付けて支度をして置くようにゴッズに言いつけていたのである。
招かれるホストに合わせて、女召使はあれこれとゴッズから指示を受けて青くなっていたところだった。
部屋中に広げられたドレスはサスケが出る時以上に増えている。よほど気を使う相手のようだ。
「また着替えなければならないのですか。これも十分に美しいと思いますが」
座る場所の無い部屋を見まわして少しだけ召使の機嫌を取るように言った。なにわともあれ彼女たちはサスケのために動きまわっているのだから感謝ぐらいしても良いのである。
「ええ美しいですわ。ユーザー様の作られるドレスは宇宙一ですもの。ですが将軍は好みの色の宝石を他人が付ける事をよく思われません。特に自分の持ちモノよりも大きなものをひけらかされると黙ってお席を立たれます」
そんな事も知らないのかと言葉に棘を含ませる。
「この箱にユーザー様が宝石を取り換えられるように入れていただいています。あなた様はドレスが少ないので気遣ってくださっていますの。さぁもう少しです。大きいものはリボンで隠して小さなものはレースで、その上に別の石を乗っけるのですよ」とサスケと自分に言い聞かせるように手を止めずにいる。
召使にせかされるままサスケは自分のドレスのイメージチェンジを手伝った。召し使いは必死である。
サスケが恥をかく事など召使の女はへとも思わないが、敬愛しているディアン様が失礼な態度受けることなど考えられない。ザカリーを知らない、見た事も無い客ならまだしも、議会の常連である将軍である。
こんな冴えない風貌の女などくそったれと腹の中で毒づいても素早く手は動き続けて作業は終わった。
それと同時にノックの音に続いてディアンの声。
「サスケ用意は出来ましたか。将軍を待たせてはいけません。早めに出かけましょう」
にこやかにとっておきの笑みを浮かべた召使はドアを開けてサスケを送り出した。
垣間に見るディアン様を見たくて、この仕事をやっていると言っても過言ではない。
召使はひと時の幸せを味わった。
庭を歩いていた時とは全く違う衣装でディアンはあらわれた。
軍人に会うというので肩章付きの短いジャケットを着込みぴったりしたパンツをはいている。
サスケはアクセントにやたらリボンの目立つ裾の狭まったロングドレスである。
「よくお似合いですよ。旅の疲れをとるためにいっぱいのお茶を頂きに参りましょう。将軍はとても気のつくお方です。心配する事などありません」
緊張とドレスでがちがちのサスケは歩幅が三十センチしか開かないスカートに戸惑っている。
スレンダーなドレスの中でちょこまか足を動かしてながら、長身のディアンに歩幅を合わせてなければならない。寄り添うように腕をとられて西の館の門をくぐると、広いテラスで五人の男性に囲まれて機嫌のよいシヴィンダ人のガイゼン大将がいた。
巨漢の女性はいち早くディアンを見つけると大声を上げた。
女性の声で二人を案内していた召使はさっと踵を返した。
「近くに来られたし。ぬしらは我の後ろの席に回れ。私の前の席をディアンとその連れ添いに空けよ」
五人の男達は巨漢の女性の前から気前よく席を離れて室内に入った。
巨漢の女性は二人が腰かけて落ち着くのを待っている。
がっちりした肩の上に縦よりも横幅の広い頭が乗っている後ろに退いた男達より三倍は大きい。
明るい茶色い髪の毛を頭頂部できっちり結んで背中に垂らしているが幼少時からそうやって引っ張り上げてきたのか束ねた髪の毛は彼女の親指の太さも無いくらい少ない。広い顔が抜け目なく笑っている。
「久しぶりであるな。そなたはしばらく会わなんだが変わらぬ。しかし妻を娶ったとは思いもよらなんだわ。顔を見せよ。誠に絵の中から抜け出たような麗しさよ。妻殿は目立たず控えておるのが好きなようじゃはっはっはっ」
背の高さで言えばディアンとガイゼン大将は同じくらいだが、ドレスアップしているとはいえ薄布から出ている腕は後ろの男五人を片腕でなぎ倒せるほど大きい。胴体は大きな頭と腕が出ていてもおかしくはない分厚い胸が余裕のあるドレスの布の内側にある。
男十五人女五人、合計二十人もの子供をガイゼンは産んだ。この子どもの男女比でもわかるようにシヴィンダ人は圧倒的に男性が生まれる確率が大きい。一人の女性の出生率は二十人前後だがほとんどが生まれるのは男である場合が多いのである。
シヴィンダ人の特徴として女性の身体は男の二倍以上はあるのが普通だ。一説には大事な器官を守るためと、大事な女性を早く死なせないように栄養のある物をたくさん食べさせた結果その慣習が続いて現在の男女差になったといわれているが、多少の食事量の差はあっても骨格まで倍近く差があるのは女性にのみ働く成長遺伝子のせいだとディアンは結論付けている。
「この度はコバルトヴィっチとの戦に勝利をおさめましたね。おめでとう存じまする。サスケが姫の名前を覚えるのに苦労していましたがこれでまた長くなりましたね」
「おやおや、もう小耳に挟んだのかえ。早い事よ。ウッドハの甥御達は一言も触れなんだ。この私があ奴らを戦場にでも連れて行くと警戒しておるのかのう。糸でボールを打っている奴らなど敵の矢の的にもならぬは。はっはっはっ」
快活に笑いしっかりとディアンの連れている女を品定めにかかる。ザカリーがどんな妻を娶るかはどこの社交場でも噂の的。
袖の下を要求する情報屋を睨みつけて知っている事を吐きださせている。
椅子に座った噂の女は顔は十人並み、ディアンと揃いの衣装で華やかさはあるが細い腕は弓矢の一本も引けそうにない。
柔なザカリーに似合いと言えば似合いなのだがガイゼンが睨んでもひるまず見つめ返してくるのは度胸が据わっているというか怖いものを知らないのか。
あけすけに媚を売らないだけましだとサスケへのガイゼンの値踏みは終わった。他人の好みなど考えても無駄だと判断したのである。




