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Inheritance  作者: KOUHEI
水の惑星
33/168

庭 2

庭など見飽きた招待客の一人が庭の入口、花門の前で止った。

目的はディアンの姿を探している事は見えなくとも分かっている。


こんもりした花木の間の向こう側にディアン目当てに西の館や北の館からの客がちらほらと姿を見せ始めている。


奇跡の土地、奇跡の土地と言葉はサスケの頭の中でグルグル回る。

地下では計測器の針と数字だけを見て生きてきた。

ドームに移った地上では食糧増産復旧計画のために穀物類の黄色い花を選別していた。ドームは短い期間だったけれど環境に適した強い作物を作るために努力してきたつもりだ。


サスケが本物の花に触れたのは地上のドームに来てからである。

それまで色とりどりの花など見た事も無ければ匂った事もない。

笈茂った樹木や手入れの行きとどいた庭園などは必ずフレームの中だったり

平らな紙や壁の上で描かれ描いた人物の技量を競っていた。


サルッツアでは光る草が珍しかったけれど、ロザンタールの圧倒的な緑は目に焼きついている。

ここコフラで憧れの水生生物をかいま見た感激。それらを取り巻く時を過ごしてきた樹木と草花を目にし、

むせかえるような花粉の飛び交う土地に立ちサスケは興奮を抑える事が出来なかった。


召使を引き連れていない招待客が気取った歩調でしかもディアンに声をかけたい一心で

迷路のような小路を半分小走りで近づいていた。


「これはこれはレディ・ミッカ・ミッコ様お久しぶりでございます。お元気で何よりでございますね」

先に声をかけたのはディアンである。


西の館から真っ直ぐに向かってくる馴染みのある電気シグナルの到着時刻をすでにディアンは予想していた。

薄物の肩掛けが枝に引っ張られてかろうじて右腕に垂れている。健康的で見ようによってはなめまかしい肩が上下に動いている。

「あーディアン、ディアン。退屈でたまらなかったのウッドハの甥達がレルシャ(スポーツ)に誘ってくれて時間を潰していましたの。セラ星系から渡航は考えものね。思ったより早く着いてしまったの。でもあなたの顔が見られて嬉しいわ。ところで珍しいわね、供を連れて庭を歩くなどそちらの方はどなたか伺ってもよろしいかしら」


体型を露骨に強調する衣服の上に申し訳程度に薄布で出来たすけすけの外掛けをはおり 胸元を隠すためのショールを踏みつけての登場である。

レディ・ミッカはしっかりと茂った大輪の花に邪魔をされてディアンの連れの姿が見えないのを気にしているのだ。


そんなことはお構いなしにディアンは帽子を傾けて挨拶をし固定した顔をレディに向けた。


「気にかけていただいて嬉しく思いますよ。ご紹介申しあげましょう。アン・オーサーの住人ヴィテッカのサスケです。縁あって私めの伴侶となりました。レディのように洗練されていませんが何とぞお見知りおきを」

ディアンが軽く会釈をするとサスケはそれに合わせて長いスカートの端をつまみ足を折って挨拶をした。


花木を間に置いて会話である。背の高いディアンは花木の上からしっかりと顔を出して見えているが隣の紹介されたサスケの姿は衣服の模様と帽子しか見えないが、レディ・ミッカが聞き捨てならない事をさらりとディアンは言ってのけた。


「んまぁ!んまぁ!えー!」とレデイ・ミッカは素っ頓狂な声をあげて自分の声に驚いて、持っていた扇子で口元を隠したが目はまん丸に見開き、サスケをよく見ようと腰を曲げて、枝葉の間から工夫して観察しようとしたが深くかぶった帽子のせいで顎と口元までしか見る事が出来なかった。それも不安定な姿勢で見たのでごく一部でしかない。


ウッドハの招待状を受け取ったとき、レディ・ミッカはそれとなく招待客の名前を聞いて夫の重い腰を上げさせたのだ。

ベルカル人に招待状を送ったと聞けば代わりに友人のザカリーが出席すると思いこみ早々にレディ・ミッカはやって来ていた。


確かに伴侶を伴うの悪いことではない。

一緒に居ないことのほうが陰口を叩かれたりするものだが、

よもやザカリー人のパートナーとは晴天の霹靂である。


「それはそれは喜ばしい事」


ディアンの視線を気にして取り繕うが、伴侶だというサスケを見たい気持ちを抑えてどうせ明日は大騒ぎになるわとあきらめた。


こんもりと茂った樹木の隙間に頭一つ出ている久しぶりのディアンの顔を堪能することにした

黒髪を後ろに撫でつけて整った眉毛の下にはまつ毛にびっしりと覆われた涼やかな瞳。いつか自分の取り巻きの一人にと望んでいた顔が優しく微笑んでいる。


「でも私のように素直に喜ぶ者は少なくてよ。あなたが妻を娶ると嘆き悲しむ女性たちがいえいえ男性もいるでしょう。良識ある者なら祝いの言葉を述べるでしょうが、それほど皆々様感情をコントロールできるでしょうか。ディアン、後ほどお茶にいらして、あなたのファンからお内儀を守る術を伝授して差し上げるわ。あら、クコイブの使いが来たわ。それではディアン、サスケ。明日の式典でお会いしましょう」


忌々しい樹木にディアンとの距離を縮められず、

他の女のものになったとレディ・ミッカは知ったが、そのほうがいろんな意味で誘う口実が増えたと内心ほくそ笑んだ。

花の中を逃げる様にドレスを翻すとクコイブの紋章を付けた召使のそばにレディ・ミッカは近寄って行った。

「わたくし明日の準備で忙しくてよ。こんなところにまで追ってこなくてもよろしいのに。ちょっとした気晴らしも出来やしないわ」

と文句の言えない召使をいびりながら

今日の予定の中にディアンとのお茶会を入れる隙間が無いかと考えを巡らせていた。

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