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Inheritance  作者: KOUHEI
始まり
3/168

準備

時間通り昼過ぎにはサスケは発電所を出て役所の会議室に寄った。

会議室には最新の情報が寄せられ良くも悪くも外の情報や町の内輪もめの情報が手に入る。

地上の世界は夜勤明けの帰宅時間で辛い就業時間帯と思われるが、

地下の時間は本人が望めば身体のサイクルも昼夜変えられ、

なにも不便はない。

ただ議会場には地上の正確な時間合わせているので昼の明るい周波数の光が建物と周辺に注がれてサスケにだけは違和感がある。


無駄に広い建物の周りには見慣れぬ車が止まり人だかりがある。

サスケも人だかりの一人に加わると皆の視線が注がれている車をじっと眺めた。

電気自動車に似ているような気はするが電気自動車とも違うような雰囲気である。

地下に潜った最初の人々は地上と同じ設備を地下に求めて作ったが大勢いた住人はその設備を必要としなくなるのは速かった。

最初に捨てたのが車である。

加工できる金属が足りなかったということもあったが太陽光にさらされない住人は早い死期を迎える。死期を早めない為にも住人は運動する事を心がけ車の使用は激減した。


「あ、掲示板に何か貼り出された……」

「本当だ。久しぶりですね」

「ええ、とても昔に貼りだされた記憶がありますね」


議会場の建物の上に通行する住人に向けてテロップが流れている。


{地上からのコンタクト有り。議会ではその真偽を確認中}


ぞろぞろと住人が集まり白いラインまで来ると一様に皆立ち止りテロップの流れる議会場の屋根を眺めている。

街の四方から静かに自宅に居た住人が同じ方向に歩いているのは自宅のTVに流れたテロップを見て集まってきているからである。

人工的な明るい日差しを演出した建物の間から静かに集まってきた住人はぼんやりとした目で流れるテロップを見つめている。


「移動ですか?」

「そのようですね」

「喜ばしいことなのでしょうか?」

「さぁ、それはわかりません」

「議会の連中は了承したのでしょうか?」

「したようですよ」

「こんなに大事なことを彼らだけに任せていいのでしょうか」

「いいのでしょう。彼らは我々が投票で決めた代表ですから」

「そうですよね」


住人が興奮しそうな新しい伝達事項がテロップで繰替えされたのに皆黙って一様に口を閉じてしまった。

集まる場所と日にちがテロップで流れると身の回りを片づけなければ……と

住人は互いに黙礼しながらゆっくりと一人一人自宅の方向に歩いて去った。


別な塊になった住人たちが居る。彼らは同じ方向に歩いているのは今の情報を受け入れることができないからである。

住み慣れた町を離れるということはどういうことなのか。わからないことがあれば自分で考えずに医者に聞くというプログラムが脳内で活動しそれに従って彼らの足取りは自宅ではなく医者の多く住む街区へと向かっていた。


地上からの使者がやってきたのは何年ぶりだろうとサスケは考えた。そんなことは一度もなかったことに気がついたが大して重要ではないと思い直した。他の都市で新しい技術が開発されてヴィテッカの町までその嬉しい余波が届いたのだと自分を納得させた。

新しい技術とはなんだろうかと埃の溜まった道路を見ながら考え帰宅した。


玄関のドアを開ける前に地下都市から地上への移転の話はサスケの頭の中から消えている。

地下生活は事細かにスケジュールが組まれている。一見シンプルな計画表は実は精神科医の綿密な意志で反映されて管理されていて快適に街に順応して地下生活を楽しみながらおくれるのである。

就労後の散歩、自宅に到着する時間、自宅前に置かれたボックスから配給の野菜や食糧を確認後サスケは室内に入れる。


これら一連の作業や行動が住人にどれだけの安らぎを与え平常心を保つように組まれているというがどれだけその効果があるのか誰も疑わないのでわからないが今のところ大きな争いごとは起きてはいないしこれからも起きる様相は議会がドクターたちと話し合って決めていくだろうとまだこの時までサスケは思っていた。


サスケは夕食後TV画面を見つめると画面には青い文字で身の回りの大事な物をまとめときましょうとテロップが流れる。

いつものドラマがないのならとソファーから腰を上げて玄関脇にあった箱に両親からもらっていた化粧箱やアンティークの時計、わずかな装飾品を入れ真新しく配給された衣服を入れてしまうと他に何も持って出るようなものがないのに気がついた。

荷物を詰める作業を終えるとサスケの体内時計は就寝時間を知らせていた。

あくびを一つして重たくなった瞼をこすり戸締りをして寝室へ向かった。


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