コフラ星に到着
昼夜の無い船の中から朝露の乾ききっていないコフラ星に降り立ったサスケは
空港一面に生えた草丈五センチの小さな薄紅色の花に感動していた。
先に出たディアンの背中など見向きもせずに小さな濡れた草花にサスケは顔を近づけている。
「サスケ」
隣にいたはずのサスケを呼び寄せる。サスケの気配はハッチの下から階段横にユータンしている。
ディアンの声に後ろ髪を引かれる思いでサスケは腰を伸ばした。
サルッツアの空港に降りったった時は飛び回りたい気持ちとは裏腹に緩慢な動作のまま滞在期間は終わった。
今のサスケの足は右へ行こうと思えば右に、左に行こうと思えば左にと足を踏み出せる。
呼ばれてすぐさま先に立って歩くディアンに駆け寄り、遠慮して後ろをついて歩く事が出来たのは、航行中船内で運動していたおかげである。
(はいはい、大丈夫よ。ちゃんと付いていけるわ。でももっと近くで見たいわ。大地が草木で覆われているなんて、素晴らしいわ)
木々に取り囲まれた空港の向こう側には、見渡す限り薄紫の高い空。土天井などという圧迫感は無い。
ほんの少し白い霧のかかった空港はただ広く平たい。
公式ガイドで見ていた、生い茂った木々の間から流れ落ちる水のある風景などどこにもなかった。
(空港にするために伐採したのかしら。もったいないわ)と思いつつサスケの心は浮き立っている。
(湿度は高いけれど、風がそよぐから気にならない。こんな時にはどんな歌を歌うのかしら)
サスケは自分が知っている歌を口ずさもうと口を開けた。
けれど何も歌詞が出てこない。歌とは無縁の生活だった事を忘れていた。
海水に囲まれた島を一個丸ごと空港にしている滑走路内には、
緑の葉の形に焼かれたタイルが敷き詰められ、隙間に可愛い花がサスケを歓迎して咲いている。
青いタイルの門をくぐると、前後の扉が閉じられ滅菌シャワーが天井から降って来て大型の荷物とともに消毒されると空港のエントランスに出る。
先に到着していたエフリー等はたくさんの人々に囲まれているのが見えた。
取り巻いていた人々は質素ながらも小奇麗で男女は小さな塊になりザカリーと話し合っている。
最後に滅菌室を出てきたディアンとサスケを隣に引き寄せエフリーが彼らに向かって微笑を浮かべた。
周囲の二百人の顔は一言も聞きもらすまいとエフリーを見ている。
「紹介しよう。ディアン・シルトの奥方だ。サスケという。覚えていていくれ。この先、君たちの世話になる新しい顔だ。彼女は壊れやすい。大事に扱わないとディアンが悲しむからね。そこのところ肝に銘じて仕えてくれたまえ」
ディアンの顔にうっとりしていた召使たちは言葉の意味をそのまま受け取るまで時間がかかった。
エフリーの周囲にいたのはこの星で雇われた召使達、皆この日を首を長くして待っていたのである。
コフラ星の招待客は全員一か月も前から滞在しているというのに、東の館の招待客だけは到着がずれにずれて式前日になっている。
「何!ちょっと待って。ディアン様が奥様を連れてきたって」
夢から覚めたように若い男が小声で言った。
公共の場所で大声を出すようなマナーを知らない奴と思われたくない。
「嘘!冗談よ。ザカリーでしかもディアン様が。冗談に決まっている」
何かの聞き間違いかエフリーの気のきいた笑い話だろうと、
言葉全部をうのみにしないように女は自分に言い聞かせている。
サスケを見るために背伸びした後ろの女が思わず首を振った。
「居るわよ。白っぽい宇宙スーツを着ているわよ。なんか冴えない女が隣にいるわ」と消え入りそうな声。
客の品定めなどやってはいけないと戒めるが、仕えようという気持ちがサスケを見ると半減してしまった。
二列目の女が後ろの問いに答えた。サスケを見るなり猜疑心の塊になっている。
「なによあれ」
後方から小さく怒りの声。皆夢から冷めて日常の自分に戻っている。
「どの星の出身?」
「んまぁ。見劣りがするわね」
「確かに身長の低いカロリーナ様ね」
「それあってる。小さいカロリーナ様ね、でも影が薄い薄すぎる見たい」
くちさがない男女の小声が囁かれて居る中、
ディアンの前に物腰の柔らかそうな、それでいて目つきの鋭い男が立っていた。
エフリーはたくさんいる召使の総まとめ役だとゴッズを紹介した。
ゴッズは仕える主人と召使の相性を考慮し配置するだろうと言ったが、ゴッズという召使頭にサスケは気に入られなかったのか、愛想のない中年女を二人を紹介され、何を頼んでよいものやら分からずもたもたしている間に
手荷物をむしり取られて召使の後を追いかける羽目に陥ってしまった。
空港には車輪の無い楕円形のバスのようなものが待っていて
たくさんの荷物を入れた車両にサスケは召使と三人詰め込まれ、ウッドハの用意した離宮に向かったのである。




