操縦室にて
ディアンは固い操縦席に浅く座り、長い脚をもう一方の足に乗せて、
自動制御装置の青いランプを見ながら船が正常に作動しているのを確認する。暇だ。
左手は石像に刺された傷をかばうように脇腹に置かれている。
傷は石像の剣を抜いた瞬間から、治そうと思えばやれたが、
慌てふためくスアレム人の手前、あえて裂けたままにしておいた。
何かとくだらない用事でディアンを呼び出しては、
ディアンの力をコントロールしようする彼等が気に入らなかった。
ザカリーが自分の力をセーブできなかった事は一度もない。
これから先も無いことは確かなのにスアレム人はザカリーを信用していないのに腹を立てた。
お陰でもう一度刃物で肉を切り裂かれるという二度目の醜態をさらしてしまった。
だが、それだけの価値はあった。
血管を縫った糸はすぐに外に出したがサスケの残した皮膚の一部はディアンの体に取り込まれた。
苦労して異星人の細胞を取り込もうとあらゆる手段を尽くしたが、知的生命体の遺伝子は全て排出されている。
ザカリーが取り込めるものは限られている。同じ原核生命を祖とした微細胞生物。
知的生命体にまで進化した多細胞生物たちは見事に環境に順応した器官を作り上げているというのに。
ザカリーとて同じ進化を遂げたと言いたいが実は違う。
原核生命の形態が進化した一つ(ザカリアート惑星)は惑星に立ち寄った古代の誰かを(多細胞生物の進化した姿)模写したに過ぎない。
その誰かを探求する気はさらさらザカリーには無い。
ザカリアートに(母体)吐きだされたザカリーは単純に食べて飛び跳ねてぶつかり合い、また食べて疲れたら眠りにつく。
起き出す者もいればそのままザカリアートにのみ込まれるものいる。
生きる楽しみは飛び跳ねてぶつかり合う事だけなのだ。
他星人のように物欲など無い。しかし危険を察知する能力には長けている。
スアレム人の航行技術を得た他星人がザカリアートに降り立った時、恐怖と警戒心をあらわにしてザカリーは見ていた。
間抜けな訪問者は半裸で武器も持たない、この世のものとも思えない微笑を浮かべたザカリーに魅了された。
地質調査を行い得るものが無いとわかると訪問者たちは、外世界の危険から身を守ることの大切さを懇切丁寧にザカリーに教えたのである。
宇宙にはザカリーが思いつかない恐ろしい事が数多くある。
筆頭は他星人の物欲である。物欲は果てしない連鎖を引き起こす。富や地位や名誉の獲得に血道を上げる。
馬鹿な事に無駄な労力をかけるとザカリーは思っているが、その富や地位や名誉がかかると一つの命ある惑星でも滅ぼしかねない。それゆえザカリーは他星人の懐で動き回ることにしたのである。
まず、敵を知るには敵の弱点、行動パターン及び意図を暴くため敵の組織と配置を精査し、敵の計画と行動を操り、敵の世界観を形作る。
目標の優先順位は、一は敵の政策、二は敵方の同盟の分断、三は敵の軍隊である。
ありがたい事に容姿だけで判断していた他星人(スアレム人含む)に全てを準備してもらい外宇宙を闊歩している。
後に宇宙に広がる気が無いのをスアレム人に見込まれて、各星の事情を調査(スパイ活動とも呼ぶ)をしつつ細やかな調整や修正をし惑星間を巡る。ザカリアートを守るために、祝祭に参加するために。
レーダーにはブラックホールを現す円が浮かんでいる。
星座標を思い浮かべて、頭の中で右のエンジンの出力を上げて船を回避させる。
左後ろからの宇宙線を受けて四つのエンジンを二十パーセントカットして非常時のために燃料の節約をする。
制御システムは数秒後にディアンの思った通りの表示を示した。
「まだまだだな、俺なら左右のエンジンを切って真ん中二つだけを正常運転をさせる。これで五十パーセントのカットが出来る」
固定した表情を崩すことなく言ってのける。
ちらちらとサスケは個室の窓から覗いてはディアンの様子をうかがっている。
サスケが必要以上にディアンに近づかないのは、素のザカリーを見せたせいである。
以前より警戒心が強くなった。




