サルッツアの生物
待合室のソファーに埋もれるようにサスケは座っている。
サルツ人と友達になれそうだったのになぜか嫌われてしまったことをくよくよ考えていた。
彫りあげられた岩は近くで見ても崩れ方が激しすぎて、レリーフの状態の悪さではもっと明かりがあっても完璧に伝えることはできない。
「私何か悪いことを言ったのかしら。それとも間違えたことを言ったの」
にじみ出ていた汗も渇ききってしまい、ため息ばかりがサスケの口から出る。
岩絵のレリーフは真下で見るより遠くから見たほうがはるかに陰影が付いていて情景がよくわかった。
「一人は皆のために、助け合うのは市民の務め」と呟き、
疑問は胸の内にくすぶっているが肌身離さぬようドームヴィテッカから持ってきた可愛い手帳を取りだし、小さな文字でびっしりとさっきの出来事を書いた。
書き終わると何もやるべき事が無くなり、それではとひたすら覚えている事を議員の前で説明するシュミレーションまで組み立てて考えてもなぜか空しい。まだ旅は始まったばかりである。
せめてもう一度サルッツアの紹介ビデオを見られたら、何か彼女を変化させたかのヒントが見つかるかもしれないと別れたサルツ人を未練たらしくサスケは思い出している。
前触れも無しに突然扉は開き暇を持て余しているのサスケを可哀相に思ったザカリアート人が部屋に入って来た。
サスケは四百人まで見たザカリアート人の誰だったか名前を思い出せないまま、
珍しいものを見せてやろうと優雅なしぐさのザカリーに手を取られ立ちあがり、断る暇もなくついて行くと、一つ一つ高い塀で囲まれた庭園の一角に案内された。
装飾のけばけばしいドアを開けると広い室内にはこの世のものとは思えない臭いが充満している。
灰色の石畳を歩き、格子の前でザカリーは足を止めてサスケに微笑んだ。
思わず微笑みに目を奪われて嫌な臭いも忘れてしまうほど美しかった。
ザカリーはサスケの事などお構いなしに獣を見ている。
「可愛いであろう、だがの、手を出してはならぬ。この獣は可愛いと思った一瞬をついて噛みつき、牙から毒をだして相手を動けなくする。それゆえ近づく者がいなくて捕獲が困難な珍しい生き物よ」とサスケにもよく見るように勧める。
「はい」
ザカリーに負けないくらい銀色の毛が全身を覆った獣が潤んだ瞳でサスケを見つめている。
危険だと説明されても一目見てしまうと毛並みを撫でたいという欲望が湧きあがる。
獣がサスケから眼をそらし前足を舐め始めると、サスケはそっと手を伸ばしかけた。
その手をザカリー人が掴んでくるりとサスケの向きを変えさせた。
檻の中では黒い舌を出した獣が残念そうに口周りを舐めている。
獣の魅力に捕まったサスケを助けたのは銀色の巻き毛のイーヴァー。
柔らかくておいしそうな獲物を捕り損なった獣を見て面白がっている。
サスケの手を小脇に挟みイーヴァーは次の檻の前へ。
見物人が来たと足音で感じ取り、格子のそばまで寄って獣は待っている。
切れ長の恐ろしい目が爛々と輝いて二人を見ている。
「その獣は頭をなでても良いぞ。見た目はとげとげしいがひとたび慣れるとずっと付いて回る。これらはみなサルッツアの地上に住む生き物たち。ユーザーはこ奴らの声を聞くたび震えておるが客のために飼っておる」
説明を受けても到底手を出す気になれない。肩をすくめて両手を胸の前で組み獣にとられないようにサスケはした。
手を出さないサスケを残念がってイーヴァーは一番お気に入りの獣を見に行くことにした。
先に見た二つよりももっと大きな檻の前にサスケは立つと足先から感覚がなくなって行くのを感じた。
「見よ。あの牙をサルツ人の首飾りにもなっておろう。あれを付けている者はレビ人の子孫たちだ」
生き物にとって快適な環境とはいえない頑丈な檻の中で、
見上げるほど大きな獣がたくさんの牙で壁や柱に噛みついている様にサスケは声も出せず気絶した。
ユーザーの自慢の動物たちをサスケは四回見学した。そのうち三回、意識を失ってザカリアート人に迷惑をかけている。
その後サスケはユーザーの屋敷内に居る危険の無い小動物ばかりを見て回って時間をつぶした。
ディアンはというと一度も顔を合わせることも無かったが、立場上人前に出る事が多いらしく誰よりも衣装の数が多いと別のザカリーから伝え聞いている。




