ウズのフラーリー
横断を許さない手すりを避け損ない、くるりと回ってまた別の手すりにつかまってサスケは止まった。
(あれ? また引っ掛かった)
街の天井ばかり見ていたサスケは一本にしかないと思っていた手すりが
五列も増えていることに驚いていた。
(多いですね? あ、そうか、サルツ人は目が見えないのよね)
手すりは川の流れのように幾筋も道路に伸びている。
初めは伏し目がちに行き交う人の顔を見ていたが、誰もサスケを気にしている様子が無いので
通り過ぎる人の顔を遠慮なく観察した。
確かにビデオの紹介通り、サルツ人の目には窪みが二つ出来ている。皆手首にぶら下がった杖で左右の障害物との距離を確かめては、前方の気配を感じ取り相手を確かめてもいるようだ。
翻訳機のスイッチを入れて会話を盗み聞きする。
サスケより大きな女性が、前方から来る女性に快活に声をかけた。
相手は胸に小さな鈴をぶら下げている。その鈴の音で誰かを判別しているらしい。
「今帰りかい」
「そうよ、私たちの班は縫製勤務じゃないから帰れるけれど、もう工場はパニックよ」
「大変ね」
と二人の会話に後ろから来たサルツ人女性が加わり三人が話し出すと、翻訳機は聞き取れずに黙り込んでしまった。
(大勢のお客さんが来たから、驚いているのね)と豪華な室内を占領したザカリアート人を思い出した。
まるで自分の部屋のように振る舞っていた彼らがうらやましく思えた。
(あたしはあたし。ロケットの分からない機械類の話をしても誰も喜ばないわ)
と、サスケは三人から離れて街灯の陰で立ち止って、じっくりと家並みや人の流れを見ることにした。
面白いのは誰もサスケの宇宙スーツに目にとめない事。見ないのはサスケの服装が見えていないからだと気が付き有意な立場になっているような気持ちにサスケはなった。
(私だけなのね。見えているのは)
通り過ぎたサルツ人から目を移して立ち並ぶ暗い建物とドアについた変わった突起の形を眺めていると、
ドアから出てきた人は必ずドアの突起を握り手すりにぶつからず右に左に歩いている。
「あの突起が右とか左のしるしなのね。良く考えてあるわ」とサルツ人の工夫に感心する。
街灯の光にうっすらと浮かびあがった無数の人型のシルエットは、ぼーっと突っ立っているサスケを避けて通り過ぎている。
幾人ものサルツ人が通り過ぎ、そろそろ場所替えをして店内でも覗いてみようか、それとも広い通りをずっと歩いてみようかと迷っていると、一人の女性が近づいてきてサスケの前に立ち止った。
彼女はユーザーの屋敷の道から止まっては歩き、また止まっては通行の邪魔をしているサスケの気配を追っていたのである。
「もし。あなたはユーザー様のお客ですか?」と袖の無い衣服にマフラーを首に巻いた女性が尋ねる。
しっかりとサスケの顔を見て声をかけてきている。
(あ。この人、閉じているけれど目があるわ。見えているのかしら)
と薄暗さに負けまいとしっかりと細部まで見る。
「ええ、そうです、暗くて目が慣れてきたら、遠くに不思議な景色が見えたので。地下にも山や川があって素敵なところですね」
異星人はまず住人の住んでいる地域を褒めること……を思い出して口にした。お世辞にも街並みはごちゃごちゃしていて美しいとは言えずぼんやりと見えている景色を褒めることにした。
「ああ、南の岩場のレリーフでしょう。あれはレビ人の伝記を掘ったものですよ。東西南北の崖にもあるんですが崩落で彫り物と岩との区別がつかないの」
と見てきたかのように崩落が激しい東の岩山地帯の方角へ正確に女性は顔を向ける。
「ね、一緒にお茶でもいかが?」
とサスケの腕を取って女性は嬉しそうに誘った。
突飛な申し出に驚きつつも、とられた腕の温かみに触れるといいわとサスケは返事をしている。




