ウズの街
ザカリアート人の穏やかな笑みに送られて豪華な部屋を出て行ったサスケは
(議会に呼び出された気分だったわ)と通路に立ち止り一人胸をなでおろした。
サスケの手を引いているのはユーザーの小さな召使の一人。小さな手は温かみをまったく感じられないけれどもサスケは部屋を出られてほっとしている。あのまま椅子の中に埋もれてしまいたいと思い始めていたからだ
彼らにとっては体の良い追い出しだけれどありがたい提案であることには変わりない。
サスケは愛想笑いを浮かべて出てこれたのはなかなか良かったと思っている。
ヴィテッカでは味わったことのない気まずい雰囲気と笑うという行為がとても新鮮に感じられた。
右手首に装着した翻訳機の点滅を確かめてどこに行くのかを尋ねる。
(サルッツア0071、間違いないわ。ナンバーを間違えたら帰れなくなるわ)
フードを深くかぶった召使は両開きのドアを開けて庭に出るようにしぐさで示した。
入って来た庭とはまた別な場所のようである。
「ありがとう、街を一周したら戻ってくると伝えてね」
暗い庭を見ながら召使にお礼を言って、ユーザーの言った街がすぐそこの塀の外にあると、
飛び石の上をドキドキしながら歩く。
一人で行動できる嬉しさにスキップしたいくらい。
サスケは足元が暗くて良く見えないので教えられた扉の目印だけを探す事にした。
あった。隠し戸の様な引き戸を開けると日が落ちたばかりのほの明るい家並み。
左右を見れば道の突き当たりに人通りがある。
「異邦人の行動規範。余計な事は聞かない、見ない、触らない、持ち帰らない。住民との接触は挨拶程度で済ませる。OK。これは善良なる市民の務めです」と、一息吐いて高揚した気分を戒める。
ガイドを断ったのは一人になりたくてたまらなかったからである。ロザンタールではスアレム人が横にいて自由に行動できなかったし、長時間居た狭いロケットから降り立ったというのに、身体は思うように動かず、空港も良く見たかったのに、二人のザカリアート人に引っ張られてユーザーの屋敷まで来ている。
変わった景色も、建物も、美しい幾何学模様のエレベーター内も、サスケのペースでは見られないのが残念でたまらなかった。
このサルッツアは武器の携帯が許されていな数少ない星のひとつらしい。変わった生物、危険極まりない生物は街から排除されているとも音声ガイドは言っていた。だからこそユーザーは街の見学に行くことを勧めたのだと思っている。
「素晴らしい大気だわ、窒素、二酸化炭素、酸素濃度の配合が良い。水分量も」
目を閉じて肺いっぱいに息を吸い込み吐き出す。まぶたの裏ではロザンタール人の住んでいた、広がった大きな空が浮かび上がる。
暗いので足元ばかりを気にしていたら塀の向こうにぼんやりと輝いていたえんじ色の光の帯。
目が慣れてくると光の帯が点々と並んでいる。街灯であることが分かった。
光の帯はまっすぐに走ったり途中で消えていたりと塀の外を、左右上にと伸びている。
高い塀を後ろにしばらく動かずに緩やかなのぼり傾斜のある光景を見ていた。
「すっごい。洞窟の中なのに、山も川もあるわ」
見たま踏み出した道の中央に、腰の高さの手すりに引っ掛かり道を渡り終えない。
小さな突起の付いた手すりを触りながら街の向こう側に広がる野や山、岩崖を、身体を回しながら追い続けていると広い通りに出ていた。




