会合 1
昔々に忘れ去られた星雲の中をロケットは突き進んでいた。
ディアンの向かう座標位置には歳をとった恒星と
これから恒星の重力を離れて旅立つ数万の星たちがゆっくりとした動きで周回している。
二億年前その中の一つに、流星がぶつかり、衝突した熱で燃え続ける衛星がある。
衛星の地表は時間の経過とともに冷え、原始生命の息吹始めた。
赤と黒の雲が渦巻く中に二人の乗ったロケットは突入していた。雲の切れ間を通り抜けディアンとサスケの乗った宇宙ロケットは火の玉となって落ちている。
目指すは火山活動中の山頂より五百メートル下った斜面に出来た小さな噴出口の跡地を、ちょっとだけバルコニーに見立てた岩だらけの広場。
比較的平らなこの場所にはすでに楕円形の宇宙船が三十機、奇妙なキノコのように赤い岩の上に乗っている。
噴煙やガスの噴き出す熱量で大気の温度差は広がり黒い雲は至る所で稲光が轟いている。
高圧の電気が放電していく様を暇つぶしに見ている一団は、皆時間通り几帳面に待ち合わせ場所に集合しているザカリアート人である。集まった全員の視線は一人だけ遅れてきた奴を苦々しく見ている。
ディアンは汚い船体を意識してか赤黒い不安定な岩場に絶妙なバランスでロケットを不時着させた。
武骨なロケットから白煙が立ち上ると遠目で眺めていた一団から非難の声が漏れた。
「まったくもってあの馬鹿は。未だにあの中古品に乗っているのか」
久しぶりに見る若い同胞の顔に胸の奥が熱くなる。ディアンが生まれてから百年、故郷で生まれた子供はいない。
栗色の巻き毛の男女どちらとも解らない優しい顔が、砂塵の吹きすぎた後に現れた二つの影を見つめている。
「若さと馬鹿さは紙一重だというのは本当のことのようだ」
荒ぶる風に背中にまとめた金色の髪の毛を右に左に揺らし、ほつれた髪のひと房がほほにかかると顔の角度を変え、風に払いのけさせて、強風の中、微風が吹いているかのように男は表情を変えない。
「良いではないか、次の飛翔試合までのうっぷん晴らし」
隣では頭頂部で銀色の髪の毛をまとめ上げ肩にまとまりきれない髪の毛を遊ばせている男も、
飛んできた大石を蠅のように小指で払っている。
「だがのう、他星人の作った乗り物で命を失ってもらっては困る」
大地を叩きつける風は先に降りて待っていたザカリアート人の髪の毛をなぶるように吹きわたり、
渦巻く風は非難する声を消し飛ばした。
冷却水の巻きあげた粉塵が突風と一緒に待ちわびていた集団へ向かって飛んでいる。
「何だ、連れがいるぞ」
飛んで来たこぶし大の岩をわずかに頭を傾けて避ける。
「見間違いだ。連れなどいやしないさ」
小さな熱を持った小石を蠅でも払うかのように金属の扇子で撃ち落とす。
「人間のようだ」
耐熱処理されたフードから顔をのぞかせてディアンの姿を確認して胸をなでおろす。
「ああ、スアレム人とは違うようだ」
ディアンの元気な姿を見てその場にいる全員が安堵した。
「ここへ捨てていく気だろう。全く持って外界人の侵入を許したディアンが悪い。面倒なことにならなければ良いが」
「勝手にディアンに惚れて乗りこんできたのなら。ディアンと一緒の船に乗れて本望だろう。何この場所はどんなものでも焼き尽くして姿かたちを変えさせる」と気楽な答え。
面倒を持ちこむのはいつも立ち寄った先の星の住人たちである。とばっちりを食うのには慣れている。
岩の上に置いた宇宙船に強風が細かい轢断がたたきつける。風向きが変わったようだ。
ディアンはロケットから下したサスケを出来るだけ丁寧に運び、風の当たらない岩陰を選んで寝かせると、遅れたにもかかわらず意気揚々と仲間の前にやって来た。
「面白いものを貰い受けた」とディアン。
仲間の顔を見まわし全員いるのを確かめる。
まずは遅れてきた言い訳を先に言いたい、サスケを迎えに行かなければ十分間に合っていたのである。
「人だろう。どこの生まれだ。スアレムに呼び出しされたのではないのか」
ちらりと巻き毛の男がサスケのいる岩陰を見る。
「そうだ。呼び出されたが、それは俺を見込んでの頼みごとだ」
スアレム人の呼び出しは術後の経過を知りたかったのと怪我の口止めである。
サスケの事を聞き出すのにはディアンは少々手間取った。
アン・オーサーの住人を宇宙に出したいと思っているスアレム人に、貰い受けたいとに謙虚に申し出て受け入れられたが、外界人と同じ従者や召使だと関係性が薄いので婚姻という形式で、妻という立場を与えればディアンのそばにサスケ置く事が出来るし、うまく煽ててザカリアート星まで連れて帰れるとディアンは企んだのである。
「頼みごと? スアレム人に出来ない事があるのか。ハーンわかった。ディアンにあの身元の分からない奴を片付けさせるためか。スアレムは死を恐れているからな」
岩を砕いて座り心地良く作った椅子から身を乗り出していた男は砂塵に腹を立てているのか厳しい表情に変わった。
「身元は分かっている。アン・オーサーの住人サスケだ。年齢は三十五歳。仕事は地熱発電所で技術者をやっていた。今は俺の妻と言う立場にしている」
ディアンも負けずにきりりとした顔つきをして見せる。
「産まれたてか。か弱いのか。それで何が面白いのだ。我らに婚姻の制度がないのに婚姻した事が面白いのか」
より険しくなった顔で巻き髪の男は聞いた。ほほの筋肉は吊り上がり開いた口は今にも噛みつきそうである。
「聞いて驚くな。アン・オーサーの生物は我々と混じり合える遺伝子を持っている」
首に筋を立て歯ぐきをむき出してディアンは答える。
「馬鹿な、幾千万の生命が居ようとも原核生命を祖先に持った生物はいないと結論が出たのではなかったか」
ひくひくと頬の痙攣した男は小鼻にしわを寄せて言った。きれいな顔が怒りだすとまた違う美の世界が開かれる。
ディアンの生まれる前から医療技術は宇宙一と言われているベルカル人の下、何人ものザカリーを送って知識を得ている。
噴煙を燃える目が睨みつける。
「コモノートか。それともセンアンセスターかのどちらかだというのだな」
ゆがんだ唇から言葉が吐き出される。
「恐らくそうだろう。そのような生物を貰い受けても損はないだろう」
まつ毛のびっしり生えた目が憎悪でゆがむ。
「うーん。これは幸先の良い兆しだな。そうは思わぬか」
怒りに燃えた目が仲間を見まわした。
誰からでも良い、良ければいっせいにかかってきても構わないとその眼は挑発している。
「楽しみが一つ増えたということだ。我々が宇宙の片隅で生きていけるという証しでもある。しかし死んでいるのではないのか、動かないようだが。ディアン、やわな肺に噴煙が吸い込まれた。出してやれ」
つと顎を上げた金色の髪の男は、ディアンの手を離れた生き物が起き上がるのを見て上唇をねじあげた。
特異進化を遂げたのは筋肉だけではない。
ザカリアート人は警戒心や恐怖を表す時には笑い、機嫌の良い時には怒り狂った激しい顔つきになる。
他星人から見れば魅力的な微笑も実は警戒心の現れなのである。




