ディアン・シルト 2
宇宙一美しい容姿で有名なザカリアート人はスアレム人しか知らない意外な秘密を持っている。
軟弱に見えるザカリアート人の筋肉は、惑星自身が生み出した特異なものと一言で片づけるにはあまりにも強靭でしなやかである。
そのため最初スアレム人は警戒レベルは上に置いていたが、時間がたつにつれ下方修正されて、問題視されないレベルに下がっている。
スアレム人は一度もザカリー人が力を発揮している姿を見たことはなく迷惑を被った事も無い、底知れぬ力を母星以外では使わないザカリー人に畏怖の念すら抱かせた。
しかし些細なことでも不安要素があれば、警戒を怠らないスアレム人はパワフルなディアンに、
大事な史跡を破壊させぬようにと一トン以上の宇宙服を着用させ予防策としている。
多大な負荷をかけられた体で連れまわされた揚句、一つの塊で見学していたスアレム人の上に倒れ掛かってきた石像の剣を素手で受け止め守ってもらっている。これを失態言わず何と呼ぶのだ。
数本の鋭利な棘はデイァンのわき腹に深く突き刺さり、医療の全てを任せているベルカル人はこの極秘旅行には随行させず、医療処置を頼める者はアン・オーサの生き残りのサスケのみだった。
スアレム星人はすぐさま話し合い皆の同意を得て美しくない仕事をサスケに背負わせたのである。
責任者はもちろんトリットとウルツイ。
二人の指示を忠実に守り見事な接合手術をサスケは行った。この時ばかりはスアレム人は全員パニックをおこし、ロザンタールの遺跡にサスケは忘れ去られたのである。
「サスケらの寿命は遺伝子的に見ればおおよそ百二十年。ですがあの状況を見ればお分かりだと思いますが骨格も皮膚も地下の生活に慣れ切ってしまい貧弱そのもの。良くて四十年、あなた様のおそばで仕えることが出来ましたらよしとしなければなりませぬ」
同じ顔が同時に瞬きをする。
口角筋、大頬骨筋、小頬骨筋を数ミリ単位でディアンは動かし続ける。眼を伏せて内に気持ちを向けているように装うのがスアレム人好みの顔である。
「そのような短い時間しか生きられぬのか。仕方のないことそれでも良い、私は魁になる。ザカリアート最初の妻帯者になる」
スアレム人と一緒にいると顔の表情筋を一瞬だが動かすのを忘れる。彼らは全ての電気信号を最小限に抑えて感情を表すので読み取りにくく会話に表情を合わせるのは難しい。宇宙に住む知的生命体の全ては、スアレム人以外の人型生物は感情のコントロールが上手く出来ず、内部の感情が身体のあちこちに電気シグナルとしてさらけ出してしまうのである。
スアレム人の体温がわずかに上昇したのを見届け、作った笑顔の効果を実感した。
「いいえ。奥方を持つということは退屈な事でございますよ。古いロケットやバイクとは大いに違っていると、後ほど後悔なさいますよ」
スアレム人のやんわりとしたたしなめにディアンは内心失笑した。
元をただせば真核生命である彼らに原核生命から進化したザカリアート人の思考は理解できない。
スアレム人の意向のまま動く事は広すぎる宇宙の中に、出会うことのできない奇跡を手に入れる機会を与えてくれるからである。
トリットは若者の気まぐれをたしなめる年長者としての位置に戻っている。見惚れてばかりはいられない。
「何事も試しみるがよろしい。宇宙に残しておきたい一族でございますから、あなたさまと一緒に宇宙に出て行くのもよろしいかと」
とひたすらスアレム星人はディア・シルトに細心の注意を払う。
サスケらアン・オーサの種族を宇宙にばらまき延命させ、またもう一度大きな文明を花開かせることが出来たらまた星間連盟の力関係も変わってくる。そんな途方もなく遠い夢を追い続けることが今を生きるスアレム人の励みになる。
簡素な宇宙服に着替えたディアンをまじまじと見つめトリットとウルツイ二人のスアレム星人はため息をついた。
この世でもっとも完璧な美しい身体と顔を手に入れたスアレム星人もディア・シルトのほとばしる若い生命力と美しすぎる微笑みにくぎ付けである。
「サスケの用意はできただろうか」
スピード狂の気持ちが頭をもたげる。
旧式ロケットは熱くなる炉と冷却装置の操作で面白いように星と星の間をすり抜けていく。
「ええ。十分な時間がありましたからどこにでもいけますわ。ねぇウルツイ」
「ディアン様の宇宙船の近くに待機していましょう」
夢を見ているような目つきでディアンの一挙一動を二人は見守っている。
「では、別れはここでよい。寄り道をして時間を食っている。次に会うのは星間議会だな。これにて失礼をする」
優雅な物腰は忘れずにさっと立ち上がり一人一人に会釈をして別れの言葉に変えて円盤に飛び乗った。
いつものディアンならその場にいる全員と言葉を交わして挨拶をするのに
今日はあまりの素っ気なさにスアレム人はソファーから腰を上げる暇もない。
「見送りを」
「見送りを」
ディアンの小さくなる背中にスアレム人の声がか細く追いかける。
「早くロケットに乗りたいのね。子供のようだわ」
「素晴らしいおもちゃですもの。サスケは役に立つかしら」
「飽きられたら御終いね」
「次を用意するべき?」
「駄目よアン・オーサーの住人はドーム外の出来事には無関心よ」
「暫くは、私たちが面倒を見ましょうよ。ね」
「そうね」
庭から去って行ったディアンの影を探すように
リビングにいたスアレム人はじっと動きを止めて同じ方向を見ていた。




