迎える
必要以上に歳をとると予想外の相手の行動にどう対処して良いか分からないときに出くわすものだとクスタは思った。
王子はクスタの返事も待たずに役目を放り投げて去ってしまい、クスタはなぜ王子が友人の到着を待たずに逃げ出したのかが分からない。
職務以外の事を命令されたクスタは王子の言った言葉の意味を遠い出来事のように思っている。
「ほう、なぜにまた」
開いた扉の陰に召使の足が見えて引っ込んだ。
クスタに客の事を頼んでいるのを聞いていた召使はすぐさまクスタが行動を起こすの待っているのである。
召使のすがるような目に、
「わしはこのために呼び出されたのかな」と頭を動かした。
来客の訪れを告げている点滅が光っている。
肉の落ちた肩を引き上げ、見開いたままの目を一度閉じて頭の中を整理した。
いつも王子がやっている客を迎えるための簡単なセレモニーの支度を整えなければなるまいと考えがまとまると、用事を承ろうとクスタから離れない召使を横に、控室からゆっくりと出て行った。
緑の稜線の彼方に点のように見えていた船は見る見るうちに大きくなり、ベルカル軍隊が待機している空港に降りて来た。ディアンの乗る白い船は、長い時間宇宙線に晒されていたとは思えないほど輝きを放っている。
軍の予測していた時間通りに降りて来た船を、管制塔や空港の外堀石垣の後ろで演習訓練と称して実弾を入れた武器で全員が照準を合わせて待っている。
クスタは老体に鞭打って研究員たちを療養施設に空港にと振り分けて配置した。
標高千メートルの位置に遷都した宮殿、街を守る軍の空港に、如何にもこの場にそぐわない研究所職員が王子の客であるディアンが降りるのを待っている。
夏の太陽の暑い日差しに対抗するように万年雪のある山から冷たい風が広い空港の上を通り過ぎる。
平らに押し固められた土の上に長々と伸びた緋色の敷物の横にずらりと宮殿の召使いや職員が均等な間隔で並ぶ。
客を冷たい風から守るように作られたベルカル人の真ん中を長身のディアンは大股で歩き去り、車の近くで待っていたクスタと短い挨拶を交わし車に乗り込みサスケの療養先の離宮へと瞬く間に消えて行った。
興味本位だけで招集された研究員は目を輝かしていた。
「私生まれて初めて二足歩行の生物を目の前で見たわ」
「感想は?」二足歩行生物の集う研究所に行き来して見慣れている隣の研究員はおどけていた。
「生きて動いていた。遺伝子的に見たら数は変わらないし。どうして四足歩行を捨てたのかしら」
「危険が多かったのよ。夜は木の上、地上では土の中、必要に応じて前足を変化させ不測の事態に備えさせた結果よ」
危険と土中の、仲間のやり取りを聞いて、雑菌の及ぼす病気の種類の数を思い浮かべそれらに打ち勝った遺伝子の集合体として研究員は目の前を歩いた二足歩行生物を見ていた。、
「いろんな抗体は多いわよね。ベルカル人が生き残ってきたのも環境の変化に順応しやすい体質だっただけの事なんだから、それと幸運ね」
役に立つ抗体は多いが差し迫って必要な物ではないと冷めた目で見ている。
「あの患者も幸運だったさ、我々のような最新医療技術に秀でた集団に診てもらえるなんてさ」
選抜の医療チームに入れられた研究員は言った。
「ただの骨折でしょう、どの星の医療施設でも治療できると思うけど」
研究員のそばをテキパキと大柄な兵士たちが長い式布を巻き上げ持ち去って行くと、格納庫から待機していた技術者たちがガスクロマトグラフなどの分析装置を押してまだ温かいディアンの船へと向かっている。
軍の技術者たちの意図を理解している職員は、軍の技術者らがあの船から新しい技術を何らかの形で手に入れられる事を祈っていた。




