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Inheritance  作者: KOUHEI
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停滞

ディアンの船が飛び立ってしまうと宮殿は元の静けさを取り戻していた。


ノーラ・リクハルド王子は自分の研究室に行こうと気持ちを決め用意を始めだすとすぐに、外線からの通話を示すボタンが点滅した。

時計を見れば左大臣のクスタが研究所に戻って来ている時間帯。

ボタンを押して回線をつなぎ、何も音の出ない送話口に耳を当てると案の定落ち着いたクスタの声が電話口から聞こえた。


「王子、予想と違っていましたな。生きた患者にお目にかかるとは思いませんでしたが」


単刀直入の切り込みである。

どこか声が明るく聞こえるのは副所長の報告を受けているのだと王子は感じた。


「救難袋の事を言っているのだろう。全く我々の想像を超える技術と知恵を持っているようだのスアレム人は。おかげで我々にも少しばかり飛躍するチャンスに恵まれたと思う。副所長は興奮していたよ。患者の容態を聞きたいのに救難袋の事ばかりをディアンの前で言うから返答のしようが無かったぞ。で、ターヴェッティ大将はなんて言っているんだい。来ているんだろう?」


副所長の周りにずらりと集まった顔ぶれが王子には想像できた。軍の主要人物は間違いなく駆けつけているだろう。


「もちろんもちろん。この次の議題は決まったと言って喜んでいますよ」


クスタの満面の笑顔が見えるようだ。


「そう言うだろうと思っていたよ。副所長に患者の初見は聞いたかい。良ければクスタの意見も聞きたい」


近くにはクスタ以外にはいないようで、周りを気にする風でもなく淀みなくクスタの口から言葉が出ている。


「ええ診ましたよ。帰って来てすぐにね。お茶も飲まずに取り掛かりましたよ。本当に老人はこき使えとの命令に忠実なのですからな。冗談はさておき。私も副所長の意見と一緒で救難袋の解明しか浮かびませんでした。患者は体内温度を少しずつ上げています。内臓を刺激して脳が反応するのを見届けて温度をあげならしていきたいと思います、その前に外科手術を四か所、これは脳が目覚める前にしたほうがよさそうです。神経伝達が全身くまなく走りまわりだすと患者は死ぬほど激しい痛みに襲われますからな。まぁどっちみち痛いのなら二度も三度も痛みを長引かせるよりはましでしょう。それよりもこの患者の目覚めてからの事に頭を悩ましたほうがよろしいのでは、我々の事を受け入れてくれるかが心配ですな」


少し押し殺したような声音にしたのは浮ついてはいないぞとの意思表示だろうと王子は思った。

クスタは患者の事など全く心配していない。


クスタの説明に安心し王子は気持ちを緩ませた。

「一人どこかの家に放っておくのも一案だが。治りも早かろう。他の異星人なら私はもろ手を挙げて賛成する。しかしディアンの新妻とあれば少々の悪口雑言は我慢せねばなるまいか。新妻殿はベルカル人の事は知識として受け入れているようだが残念ながら我々の動くのを直接見ると多くが拒否反応を示すからな。目隠しでもしてもらってはどうだ。二足歩行動物は一頭ではか弱いくせに集団だと姑息な知恵を働かせて四足動物を狩猟するからな、たまったものじゃない。」


王子の頭に浮かんだのはよろしくない光景ばかり。戦地から離れた場所に設営した救援隊が一個連隊に囲まれた理由は王子がテントの周りを歩いたことが報告されたせいだった。宇宙議会場のある星でも議場に入るまで何度か襲われた嫌な思い出ばかりが蘇る。


狩猟の対象となった事のないクスタは空笑いをして王子の愚痴を聞き流した。


「では早速取り掛かるように指示を出しましょう。術後の経過は婦長に任せます。私はこれで失礼しますよ」

通路の奥にターヴェッティ大将を見て見送りをせねばと王子との会話をクスタは終わりにした。


「ああ、そうだな」

誰も王子の受けた処遇を理解してくれないと分かっているのに言わずにはいられない自分が情けなかった。


考えなければならない事は山ほどある。多く時間を割きたいのは菌の変異を抑える手段、次に王子にとっては難関な問題は、自分の後継者を作ること。


若い時は希望に燃えていた。父王の遺伝子がまだ病気を発症する前で数十億もある細胞核のひとつを刺激し新しいベルカル人を誕生させる…予定だったのだ。

あれから十五年、異端視されるノーラ王子は容貌を気にせず適合する遺伝子を求めて宇宙船に乗り込み戦地を歩き、持ち出し禁止の物品も数多く手に入れ、生物学の権威であるクスタを喜ばせた。


クスタはありとあらゆる試験を試みた。

高速解読装置は父親の時代に開発に成功しそれを受けて遺伝子コードを読み取り配置換えも可能になった。だが分子生物学的実験は大量の時間が必要だ。それを短くし成功に導くために機械に知能を持たせ高速でシュミレート出来るようにして得た事実は散々な結果に終わった。


延命に興味のない父王は無理をして研究に没頭し自身の遺伝子の変異を招いた。ノーラ王子も同じ轍を踏まないよう側近から監視を受けているが四十五までにこの重苦しい境遇が変わるとは思えないので、間違いなく父親と同じ時期に遺伝子は変異し床に就くようになるのだ。


それまでに良いと思われる推薦状付きの女性との間に次の後継者を拵えなければならない。

当然のことながらノーラ王子に目合わせる相手とのシュミレートも遺伝子レベルで行われている。

それらの結果を全て見たノーラ王子はどの女性とも明るい未来を見いだせない事がわかった。わずかでも良いが、寿命が延びるとか変異する遺伝子が違うとか些細な事で良かったのだが王子が望む事柄は書類上には書かれてはいない。


特別な地位にある神官の娘ですら特別な遺伝子は持っていなかったのだ。

同じベルカル人ではなく二足歩行の異星人に生物学者らが望みを抱いたのも無理はない。

彼ら二足歩行生物も同じ遺伝子構造を持つ、違うのは遺伝子地図だ。可動性遺伝子は環境に応じた素晴らしい働きをしてベルカル人をこの星に誕生させたのだ。それをとことん調べつくし働いていない遺伝子を活性化させても結果は同じ、トリガには勝てない。


肩から背中、腹、大きなお尻までゆさゆさと悪い気分を落とすように震わせて王子は研究室に向かった、何としてでも菌の弱点を掴まなければならないのだ。


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