シベリスク
海岸沿いを走る白い道は利用する者がいなくなると脇道にひっそりと生えていた草達の侵入を許している。
軍隊の兵士を乗せた車両は先遣隊のなぎ払った草株の根元を乗り越えてゆっくりと隊列を長くして進んでいた。
通り過ぎる左右の山々は濃い緑に覆われ車両の中で見ている兵士たちとは逆に、日差しを浴びて活き活きしている。
ガタゴトと海沿いの都市シベリスクへと悪路を走ること二時間。下調べしておいた地点で車を降りた兵士たちが小高い丘を登り終えると、眼下には三日月型の湾と白く靄のかかった地平線が海の向こうに見えていた。
穏やかに広がる海は風に吹かれて少しだけ波がしらを白くして打ち寄せ、波が時間かけて運んで来た白い砂は長い長い海岸を作り美しい曲線を見せていた。
広い砂地の先には遊歩道と、暖地特有の背の高い木々がたわわに実をつけて収穫されるのを待っている。
海辺に沿って発展した街並みは、急傾斜の高台の上を超え奥まで立ち並び、壁面を石灰岩で化粧した建物が暖かな日差しを受けて白く輝き、遠く崖の上の岩肌にも住居がくっつくように建ち、後方の丘の上まで連なっている。
美しい入り江のそばには最も多くの住人の居住区があり緑に囲まれた淡水湖は満々と水をたたえ訪れる旅人を待っているかのようだ。
よくよく見れば淡水湖の周辺は樹木はこんもりと盛り上がり白い建物群の中に緑の触手を伸ばし縁どりの幅を広げているようだった。
岬の高台には全身黒ずくめのベルカル人兵士が爆薬設置完了を告げる発煙筒の煙を白く立ち上げた。
双眼鏡で立ち上る煙の数を数えていた少尉は透明袋で覆った懐中時計を見て計画表に目を移す。
分隊長は隊員の全員の帰還を確かめ、王子の隣に居る大将に伝令を走らせた。
大将もも時計に目を走らせ双眼鏡を手にした王子を振り返り時間通りに計画は進んでいると告げた。
「それでは我々も退避致しましょう。万が一にもこちら側に風向きが変わるといけませんので」
隊長は伝令にうなずくと王子の答えを待った。
「そうだな」
不承不承王子は答える。
全身くまなく防護服に身を包んだ王子は小高い丘の上から美しい街並みを見下し目をしばたたかせた。
歩くたびにこすれる簡易防護服の耳障りな音を響かせて一団はなだらかな道を降りて、一つ手前の山の陰に置いてきた車両の場所まで歩いた。
丘の裏手に止まった車にそれぞれ素早く乗りこむと先頭車両から順次百キロ離れた基地への道へ走り始めたる。
最後尾の大型車両には作戦参謀が乗り込み手元のコンピューターを開きシベリスク上空に吹く風をもう一度チェックしなおし大将に向かってうなずいた。
大将からのゴーサインが出ると参謀はコンピューターのキーを一つ叩いて耳を澄ませた。
ほどなく王子らを乗せた車両は大地の揺らぎを感じた。
スヴィンダ・ノーラ・リクハルド王子は目を閉じて白く美しい街並みが雪崩打つ土砂の中に埋もれてしまうのを残念に思った。
あの白い建物の中には埋葬を待っている住人の遺骸がたくさんある。
一体一体を丁寧に埋葬することがどんなに困難な事か、かと言ってそのまま置いておく事も出来ず街自体を埋め尽くす事でスヴィンダ・ノーラ・リクハルド王子は解決策としたのである。
作戦に参加した隊員、全員の防護服を焼却処分し、全車両を消毒し、なお滅菌室で作戦に参加した者たちは光のシャワーを浴びて元の任務に戻った。




