ディアン・シルト
薄い大気と照りつける太陽に晒された荒れ地は、惑星ザカリアートによく似ている。
故郷に似た鉄の匂いかぐとディアンの腹の奥に隠したザカリアートの血が泡立つ。
荒れ地の所々に風に晒された岩が顔を出している、地表に露出した岩は6トンはあるだろうと目測する。
石灰岩の横を通り過ぎ気持ちがしぼんだ。石灰岩は柔らかい。
鉄を含んだ火山岩が見えると吸いつけられるように見てしまう。あの岩を砕いて投げれば一気に五人をつぶせる。
ディアン・シルトの胸ポケットにはスアレム人の小型シールド装置がある。ロケットに付ける大型シールドに比べれば信じられないほど小型化されている。
赤色巨星の放射線シャワーの中、ディアンがバイクに騎乗し高速で走るにはあまり役に立ってはいない。
かろうじて虫のようにくっついている人間にはシールドと酸素供給機は不可欠である。
シールドを吹っ切って来た道を半分のスピードに落とし、スロットルを全開に回したい誘惑を振り切り走らせている。景色に目を走らせないよう意識を背中にいるサスケに戻すと脇腹が嫌な痛みを思い出させる。
ディアンの背中にいるサスケは青年に言われたとおり目を閉じて額を壁のように固い背中にくっつけたまま市長の顔を思い浮かべていた。助け合うことは善良な市民の務めなのですとまぶたの裏で市長は繰り返している。
ラベンダー色の空には赤色惑星と熱で焼かれた白い衛星が骸骨のように浮かび上がっている。くすんだ赤茶色の大地に別れを告げて緑色のトンネルに入ると一気に気温が下がる。
ディアンの後ろで装甲板の降りる音が聞こえると胸ポケットのスイッチを切った。
まとわりつくようなスアレム人との会話のようなシールドの中から出て行きたかったのだ。
迷路のような通路を抜けると湿気28%酸素濃度窒素が70%酸素が21%に保たれた大気の中にいる。
白い壁面に囲まれた広場にバイクを止めると
ふわふわと天井から落ちてくるように円盤に乗ったスアレム人が降りてきた。
「面白い乗り物でしょう? 気に入りましたか」とトリット。
円盤をディアンの目線の高さに止めて浮かばせ
伏せた目でしっかりと二人を細部まで見ている。
二人の吐く息や体に付着した雑菌が完璧に滅菌されたかを危ぶんでいる。
バイクの後ろから降ろされてまだ目を開けられないサスケは
頭の中でキンキン鳴り響く音に驚き四つん這いになり、始めて脈打つ心臓の鼓動を耳元で聞いていた。
飾り物のヘルメットを外し空になったメーターを見る。このまま手入れもされずに放置される機械に別れの言葉を胸の内でディアンはつぶやいた。
「もっとスピードが出ると面白いかもしれないが外気熱を直接受けると金属が耐えられないようだ」
「アン・オーサーでは使い捨てのおもちゃと同じ乗り物ですから。何度も乗れるようなものではないのでしょう。以前はレースも行われていた模様。乗り手によって優劣が決まっていたようですね」
良い性能を持つ機械を扱えない種族を憐れんでいる。
「遊びには時間をかけていたのだな」
上着を脱いでサスケにかける薄着のまま連れてきたことをちょっと後悔した。
「用意はできていますしばしこちらで落ち着きなさいまし」
と先だってトリットが白い壁面に囲まれた屋敷へ飛ぶと、空港にあるロケットをの輝きを見てもっと素晴らしい時間がやってくるとディアンはほくそ笑む。
サスケを抱き起こし抱えあげるとトリットの後を追った。
どの屋敷も見事なまでに真っ白で統一されている。
庭には高さを同じにした樹木と庭石、池と配置されてどの屋敷に行っても同じ風景が作られている。
庭から直接居間に入ると持ちかまえていた二人のスアレム人は立ち上がり
丁寧に目を伏せてザカリアートの代表に敬意を示した。
時と場所を選ばないスアレム人の丁寧な言葉使いと態度に足を止めてディアンは会釈をして返す。
乱暴な態度でこれまでの苦労をチャラにするわけにはいかないのだ。
座るように勧められて奇妙なソファーに座りこんだ。
サスケはというと別なスアレム人に別室に連れて行かれてディアンの視野にはいない。
飲み物もお茶菓子も断り顔面の筋肉に集中しゆっくりと引き上げる。
外界人が最も喜ぶ笑顔を筋肉の伸縮で作り上げる
ディアンの笑顔をうっとりと時を止めたまま鑑賞し時間が止まった様にスアレム人は見ている。彼らの動きに本当に笑顔が作られているだろうかと疑った。
「本当に連れて行ってもかまわないのか」
気まぐれなスアレム人を警戒して聞く。
スアレム人の気まぐれは今に始まったことではないが
記録に残らない口約束は簡単に撤回される恐れが十分にある。
変わらない表情が二つ、ディアンを見つめたまま答える。答えたのはトリットである。
「アン・オーサ星の生き残りはどんな刺激にも弱い。助けたのが間違っていたのだろうかと思うくらいにね。ですが良い点もあります。彼らは理解できない事に遭遇した場合。見ない、言わない、聞かない、を通してきましたからね。生命の存続はこれで守られていたのですよ。ですがそれも終わり。我々が薬の量を減らしていますから、広がる勢いはこれからでしょうね」
隣のウルツイが言葉を足した。
「補足しますよ。サスケは大丈夫です。彼女はもう薬を飲んでいませんの。アン・オーサーの住民全員そうですが。刷り込まれた暗示が消えるのは長い時間がかかると思いますが。細かい注意事項はツオーニとドルチェに伺いください。では」
二人のスアレム人が下がり、また二人のスアレム人がディアンの前に座る。
ディアンには同じ者が立って座ってを繰りかえしているようにしか思えない。
心持頭を傾けて会釈し一呼吸置いて
相手の注目をこちらに引きつけたところで口を開くのがスアレム人のマナーである。
「アン・オーサー然り。どの星の住人と比べても長短はありまする。特別に良いところも状況次第では最悪ととられる内容に変わりましょう。ですが未来に向けて生きる強い生命力ももっていますの。わずかですがね。それとこれまで何事にも依存してきましたからね。一人で行動をさせることは控えませ。市長と議員の言動にコントロールされておりました。でも大丈夫だわそれも知性の現れとも言えなくもない。二十万年続いてきた遺伝子の中には危険を回避した優れたものを持っているはずです。あなた方の数世代後にはより良いザカリアートのハイブリットが出来ると思いますわ」
と、アン・オーサーに残った種族の良いところだけを誇張していった。
偶然見つけた地下都市に住む彼らを珍しいとは思ってはいても
自分たちの役目は守護と保管することと割り切っている。




