卒業の仕方
今日は高校の卒業式。
『卒業証書授与式』が正式名称ではあるが、一般的に『卒業式』と呼ばれている。
その『卒業証書授与式』の名の通り、卒業証書を渡すのが一番の目的となっていて、今まさに俺のクラスの生徒達の名を呼んでいる。
各クラスの代表者五人の名前を一人一人呼ぶと、呼ぶたびに『はいっ』という声と共にステージの上手側で待機していた生徒が壇上の校長先生が立っているところへと向かい、そこで手渡される卒業証書を受け取り、反転して堂々と真ん中の階段から降りていく。
クラス数が多いために代表者のみという形式をとっている。10クラスあり、さらに1クラスが30人くらい、そして1人につきだいたい1分。省略するのも無理はない。
授与する卒業生はともかく、それを見に来ている父兄や、在校生なんかはただの苦痛でしかなくなり、誰も見に来てくれなくなるという状況が出来上がってしまうのだけは避けたかったのだろう。
そしてうちのクラスからは天野も代表者に入っていて、その天野の名前を呼ぶ。
「天野恭子」
「はいっ!」
マイクで体育館内に響いた声に続いて、天野の大きな声が聞こえた。
壇上へと向かい、証書を受け取り、クルリと反転、そして何故かこちらを向いた。
目が合い、そして天野側から投げキッスを一発。
突然の行為に3年生の大半が腰を浮かせて、その軌道の行方を見ようとする。
その見えないハートの行方は俺に向かって来ていたのだが、ここは乗るべきだと判断し、上半身を動かしてサッと避けると、その視線を秋山先生へと向けた。
秋山先生も一連の流れを見ていて乗ってくれたのか、立ち上がって胸を押さえて天野をハッと見る。
その天野は『ゲーっ』と舌を出して心底嫌そうな顔をした。
そして体育館には笑い声が響きわたった。
その笑い声の中、壇上から降りていく天野。降りながらこちらいウインクをしたのに気がついたのは俺だけだろう。
俺も少し笑うと、気を取り直して次の生徒の名前を呼んだ。
「失礼致しました。佐藤君子」
「はいっ」
卒業式も無事終わり、放課後。
校内に残っている生徒たちに、浮かれて事件を起こさないようにと注意しながら帰宅を促すと、3年生がいるフロアはとても静かになった。
俺のクラスは進学組も就職組も無事に卒業でき、進学組の合格発表が終われば全員の進路が決定したことになる。
講習も部活も無く、卒業式の片付けも終わり、あとは教師陣も帰るだけとなった。
俺は静かになった3年生のフロアを歩き、自分の受け持っていた教室へと入った。
開けっ放しになっていた教室の中には、先ほど卒業式で静粛なムードをぶち壊した張本人が机に座っていた。
「お疲れ」
「どーも。卒業おめでとう」
「こちらこそどーも」
天野と俺は目を合わせて微笑み合った。
俺は天野が座っている机の前に立ち、天野と向き合う。
そう。あの告白の答えを聞くのだ。
俺は、もしうるさい教頭とかに見つかったらめんどくさいから外がいいって言ったのだが、天野が『教室の方が雰囲気出るじゃん』と駄々をこねたので、卒業生の特権ということでここで答えを聞くことになった。
「さぁ聞こうか」
「うわっ。何それ。雰囲気ぶち壊しじゃん」
「卒業式の雰囲気をぶち壊したやつが言うセリフかよ」
「いいの。じゃあもう一回告白して」
そう言う天野は少し顔が赤かった。それにつられて俺も少し赤くなっていると思う。
その表情だけで告白の答えはわかったが、言うとおりにもう一回告白をする。
「俺は天野が好きだ」
ホントはもっと丁寧にどんなところが好きとか言ったほうが良かったのかもしれないが、答えが決まりきっているのに、そこまで言う必要もないだろうと思った。
そして天野が恥ずかしさを誤魔化すために満面の笑みでニカッと笑いながら答える。
「私も好きです!」
その返事の勢いでガバっと抱きついてくる天野。
「お、おいっ、ダメだって! 離れろ! 誰かに見られたらどうするんだよ!」
「大丈夫だってば。それに私は見られてもいいぞっ」
「俺は良くないっての。卒業祝いと瑠璃ちゃんに報告も兼ねてメシに連れてってやるからその時で勘弁してくれ」
俺は天野をそう言って無理矢理引きはがすと、ブーっと言いながら離れる天野。
「教室で抱き合うなんて、教師としては夢じゃないのー?」
「誰の夢だよ。見つかったらめんどくさいんだから勘弁してくれ」
「ぷっ!」
・・・?
どこからか吹き出したような声が聞こえた。
天野も驚いていたような顔で俺を見ている。
俺はまさかと思い、廊下をのぞきに行く。
「あっ」
「ほらー。バレたじゃん」
「俺のせいじゃないだろ」
そこには高津先生、中村、秋山先生が教室側の壁に寄りかかって立っていた。
アイエエ? ナンデ? ナンデソコニ?
どうやら秋山先生が吹き出した声だったらしい。
「・・・いつからですか?」
「『さぁ聞こうか』ぐらいから」
「ほぼ最初からかよ・・・」
「俺は違うぞ。たまたまトイレに行こうとしたら黄昏てるお前がいたからあとをつけてただけだからな」
「あたしだって。玄関で恭子待ってたら、なかなか来ないから迎えに来ただけなんだからな」
「私だってたまたまなんですよ」
・・・疑わしいセリフばかり言いおってからに。
「本当はどうなんですか?」
「なんか面白そうな予感がしたから立ち聞きしてた」
「秋山先生が立ち聞きしてたから一緒に聞いてた」
「2人に誘われました」
「あっ! 高津先生だけズルイでしょ!」
「高津先生だってめっちゃニヤニヤしながらこっちに寄って来てたじゃん!」
「わ、私そんなにニヤニヤしてないですよ! ちょーっとワクワクしてましたけど、ニヤニヤはしてませんー!」
なんという情景だ。
隣に立っている天野を見やる。
その視線に気がついたのか、天野も俺を見て『なんだかなぁ』という表情で笑いながら俺を見る。
それにつられて俺も笑った。
こうして俺が受け持った生徒達初めて卒業していき、隣で笑う天野と俺は付き合うことになった。
「他の先生には黙っててくださいよ?」
「どーしよーっかなー」
「あっ、私、武田先生の奢りでお酒飲んでみたいです」
「おー! それがいい!」
「・・・では今度お誘いしますね」
「待ってるぞー」「待ってまーす」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
次で最終回です。
ちょっと我慢できなかったセリフが一つ入ってますが、気にくわない方は手で隠して読んでくださいw
次回もお楽しみに!




