泥酔の仕方
緊張。寂しさ。一時の楽しさ。飲み放題。
この全てが揃ったとき、人は飲みすぎてしまうのだ。
例によって俺も飲みすぎたと自覚している。だから今は薄めに作ってもらったファジーネーブルをチビチビと飲んでいる。
・・・のだが・・・
「もう武田先生はいつでも鈍感なんですよ!」
「あははは! この機会にもっと言っちゃえ!」
「もうね! 私これ以上我慢できません! 二人っきりになったら襲う自信があります!」
「うおー大胆発言でた!」
「高津さん面白いなー」
高津先生がベロベロベロニカで大変なことになってます。
まさかの襲撃宣言。坂本さんとか川島さんとか、俺のこと笑いながら見てるけど、嬉しくないし喜んでもないからね。変なことは期待しなくていいですからね。
「高津さんはどのくらい武田さんのこと好きなんですか?」
「そりゃあもう!・・・えっと・・・2年はアタックしてますね!」
「2年! それはすごいですねー」
「武田先生もいい加減に決めたげればいいのに。こんないい女性は滅多にお目にかかれないっすよ?」
「そんなこと言われても困るんですけどー・・・あははは」
明確な断る理由がないのが痛いところだ。
嫌いじゃないけど、付き合うまでいかない。恋愛未満友達程度というやつだ。
「もしかして武田さんって好きな方いるんじゃないですか?」
「えっ!?」
「マジっすか!? どんな人ですか?」
「いませんって! 俺、そんな人いませんから!」
川島さん・・・なんてことを聞くんだ。この人絶対Sだよ。
「それはそれで問題が・・・」
「ん?」
「まさか・・・こっち?」
川島さんが親指を立てて俺に向けてきた。
その親指を見た高津先生と坂本さんが再び俺を見る。
いや、最初は『川島さんっていい男だよなー』とか思ったりもしたけど、瑠璃ちゃんと暮らすようになってからは、どうしてか女性やら男性やらへの恋愛感情というものが薄れていく感じがしていた。
『かっこいいなー』とか『きれいだなー』とか思うだけで、そこで止まっていた。
俺自身は、『瑠璃ちゃんを育てる』っていう目標があるため、恋愛とかそういうのは全部二の次になってしまったんだと思ってる。自己完結。
「違いますって。今は子育てでいっぱいいっぱいなんですって」
「さっき言ってた子ですよね」
「そんなにいっぱいいっぱいなら、私と育てましょう!」
「もう勘弁してくださいってー」
俺は笑いながら高津先生の視線から逃れた。
ちょっと申し訳なくも感じるが、自分の意思を大事にしたい。
そのあとベロンベロンに酔った高津先生は俺と坂本さんの間の席で寝てしまい、俺も酔いが回りに回っていたので、このへんにして店を出ることにした。
タクシーを呼んでもらって、そのタクシーに乗り込む。
「今日はいろいろ話を聞いてもらってありがとうございました」
「いえいえ。このくらいお安い御用ですよ。今度は武田さんのほうから誘ってくださいね」
「機会があればお誘いしますね」
「それより高津先生、大丈夫ですかね?」
「どうですかねぇ・・・」
何度揺り起こしても起きない高津先生。
このままお店に置いておいても迷惑なので、とりあえずうちに連れていくことになった。なので今、タクシーの隣の席には高津先生が寝息をたてている。
坂本さんは結婚していて、奥さんが家にいるため、高津先生をもって帰ったら何を言われるか分かったもんじゃない。
その点、今日は瑠璃ちゃんは家に居ないわけだし、俺のベッドに高津先生を寝かせて、俺はリビングで瑠璃ちゃんの布団で寝ようかと思う。
「まぁ何かあったら連絡でもしてください」
「何も無いことを祈りたいです」
「ははは。ではお気を付けてー」
「はい。おつかれさまですー」
タクシーに揺られている中で、もし高津先生が起きたらそのままタクシーで送ろうかと思ったがそんなことはなく、スルスルと走るタクシーは俺の家の前に到着した。
料金を払い、寝たままの高津先生を背負ってタクシーを降り、鍵を開けて家の中へと入る。
寝息から漏れる酒の匂いと、高津先生のシャンプーの香りやらのいい匂いが中和されてよくわかんない匂いがしていた。これは本人には内緒にしておこう。
そのままベッドになだれ込むように高津先生を降ろして布団をかけるとスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。着替えさせるとかそんなハプニングがあるわけもなく、スーツのまま寝てしまった。
シャツの一番上のボタンはかなり前から自分で取っていたので、苦しくて起きるということもないだろう。
「おやすみなさい」
俺は小さくそう言って寝室のドアを閉めた。
寝ようかとも思ったのだが、全然眠気が無かったので、明日の授業と今後の講習の準備やらなんやらをリビングですることにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
・・・コメディさんが行方不明です。
最近、作業用BGMでJAZZを聞いております。
あの雰囲気が好きです。曲名とか演奏者とかは知りません。
雰囲気が好きなのです。
特にピアノBGMが好きです。
次回もお楽しみに!




