思春期の疑い方
瑠璃ちゃんの様子がちょっとおかしい。
というよりも、前に参観日の話をしたときからおかしい。
こんなことは初めてでどうしたらいのかわからず、ちょっと心の距離を置いている感じだ。
秋山先生が言ってた通りだとしたら、これが思春期というものなのだろうかと思う。
いかんせんこの年頃の子どもに対する知識が足りないせいもあって、まったくどうしたらいいのかわからない。
そこで協力者・・・ではないけど、年頃の娘たちに相談することにした。
「というわけなんです」
「はぁ・・・わざわざ受験生に相談する?」
「でもそれって完全に思春期だよねー。反抗期なんじゃない?」
「あれかもよ。瑠璃ちゃんって自分の部屋ないから拗ねてるのかも」
「それあるかも! 私も自分の部屋欲しくてよくお兄ちゃんと喧嘩したもん」
「あたしは一人っ子だったからそーゆーのはないけど、中学ぐらいの時は親のこと嫌いだったもん。なんか懐かしーなー」
「あの頃の香恵はまだ泣き虫だったもんねー」
「ちょっ。そんなこというなら恭子だって小学校4年生までおねしょしてたじゃん」
「わわわっ! なんでそんなことここで言うのさ!」
天野と中村に相談したのだが、2人とものことそっちのけで思い出話に花を咲かせていた。
「暴露話はそのへんにしてさ、そろそろ本題に戻ってもらってもいいですか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「えっ、なに? 俺なんか変なこと言った?」
なぜかジト目で見られる俺。
そしてため息をつく2人。
「武田ってさ、瑠璃ちゃん好きすぎるよね」
「瑠璃ちゃんがいれば何も要らない的な感じね」
「は? いやいや。親として瑠璃ちゃんを心配するのは当然だろ? あんなに可愛いんだから心配にもなるわ」
「それがキモイからいろいろさけられてるんじゃない?」
「香恵。武田はキモくない。そのへんは私が将来面倒見るから大丈夫」
「なんの話だよ」
「とにかく親バカすぎんだよって話」
親バカ。
それは子どもを溺愛するばかりに『子どもLOVE!』になりすぎてしまった親の総称である。
でも俺の場合は、瑠璃ちゃんを心配してのことだ。それをキモイって・・・
「お前らの親だってこのぐらい心配してただろ?」
「あたしんとこの親はそんなんじゃなかった。もっとサバサバガミガミしてた」
「うちはお兄ちゃんが怒られてたかな。私良い子だったし」
「マジで? 俺ってキモイのか?」
「キモイ。ってゆーかウザイ」
「なんだろ。近すぎる感じ?」
グサリと脳天から貫いてくる中村と、柔らかく足払いをしてくる感じの天野。
どちらにしても、今までの俺の瑠璃ちゃんへの距離の測り方は間違ってると言っているようなものだった。まさちか、ちょっとショック。
「じゃ、じゃあどうしたらいいんだよ。俺、瑠璃ちゃんに嫌われたくないんだけど」
「そのへんは距離のとり方次第だよねー」
「距離ですか」
ふむふむ。
「そうそう。こういう時になんやかんや言われても逆にむかつくからさ。こういうときは時間が解決してくれるって」
「そんなこと言われてもなんかツーンとした顔で一緒にテレビとか見てるんだぞ? そういうときはどうしたらいいんだよ。『どうしたの?』って聞いても『別になんにもないよ』って言うし」
「風邪ひいてるけど頑張って仕事してる最中に『大丈夫?』って聞かれて『しんどいです』って言う? それとおんなじだって」
おぉ。さすが天野。例えがわかりやすい。
確かに言わないわな。
「ってそれ無理してるってことじゃねぇか」
「あ、バレた」
「とにかく! 武田は瑠璃ちゃん離れをしないとダメだってこと!」
「瑠璃ちゃん・・・離れだと?」
俺が瑠璃ちゃんから離れないとダメってことかよ。
ずっと仲良くやってきたのに・・・
「そんなに落ち込むなよ。虎だって崖から子どもを突き落とすっていうしさ」
「虎と俺を一緒にするなよ」
「わかった。じゃあ私が瑠璃ちゃんに聞いてくる」
天野が立ち上がってそう言った。
その言葉にホッとする俺。もしかするとこの言葉を待っていたのかもしれない。
さすが頼れる存在天野だ。
「ありがとう」
「お礼はからだで払ってください」
「こう見えても教師だ。卒業前に問題を起こさせるな」
「んじゃ、今日の放課後でも行ってみるね」
「おう。頼むな」
「あ、香恵は来なくていいからね」
「なんで? あたしも行くよ」
「だって勉強しないとダメでしょ?」
「・・・武田」
「ん?」
「最近恭子が冷たいんだ」
「・・・頑張れ」
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