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合格の伝え方

10月。

受験シーズンではあるが、すでに合格が決まっている生徒も何人かいた。

その中の1人に天野が含まれているのは言うまでもない。

一部の先生からは、もっと上の大学を目指したほうがいいと言われていたが、元々行きたかった専門学校があったため、周囲の意見を無視しての受験となった。

そして職員室で受験の合格を天野に伝えた。


「おめでとう」

「んふふー。ありがとー。って言っても面接だけだからあんまり頑張ってないんだけどね」

「天野は緊張しないタイプだもんな」

「そういえばあんまり緊張しないわ。でも推薦の集団面接の時はちょっと緊張したよ」

「言ってもちょっとだろ」


この笑顔を見てるとホントにちょっとだけっぽいもんな。心臓の鼓動が早まったとかそんなもんだろう。この鋼の心臓の持ち主は。


「中村はどうだ?」

「任せてよ。私がついてるんだから合格間違いなしかな」

「放課後の講習も真面目に受けてるみたいだしいい感じってことか」

「だねー。んじゃあ、そろそろ帰るね」

「おう。今度・・・」


そこまで言って周りの目を気にして小さく続けた。


「今度、ご飯食べに来いよ。瑠璃ちゃんも会いたがってるからさ」

「・・・いいの?」

「いいの、って・・・あっ」


もしかして前にうちに来たときに大暴走したのを根に持ってるのか?

別にあれくらい・・・まぁ天野にしてみれば、大問題だったのかもな。でも居酒屋であれだけ騒いでおいて、うちに来るのはためらうってどうなんだよ。


「瑠璃ちゃんが会いたがってるんだよ。瑠璃ちゃんも受験ってことで遠慮してたみたいだし。ちゃんと中村にも言っておけよ。あいつも息抜きさせないとダメだろ」

「うん。わかった。じゃあ今度行くね」

「おう。なんかうまいもの作ってくれ」

「武田のために愛情をたくさん入れちゃうぞ☆」

「アハハ。その意気だ」


ぶりっ子ポーズのあと、ヒラヒラと手を振って笑顔で職員室を出ていった。

自分のクラスの生徒が1人また1人と合格が決まっていくと、安心するとともになんかさみしいモノがある。自分の元を離れていく生徒。俺が育ててきたわけじゃないけど、それでもグッとくるものがある。

初めて3年生の担任をしたけど、前に秋山先生が卒業式で号泣してた理由がわかりそうな気がした。

生徒でこれなんだから、これが瑠璃ちゃんの結婚式とかだったら・・・いや。まだ早いだろ。ま、まずは彼氏とかかかかか。


放課後の講習も無事終わり、サッカー部の新部長の黒木から鍵を返してもらい、家に帰ってきた。


「ただいまー」

「おかえりー」


帰ってくると、瑠璃ちゃんが料理の本を開いて、鍋の中に野菜をぶち込んでいた。


「何作ってるの?」

「ポトフー」

「あーポトフね」


一瞬男らしさ抜群の暗黒カレーを作ってるのかと思った。

じゃがいも、にんじん、たまねぎ、ウインナー、キャベツをそれぞれ大きめに切って、コンソメスープで煮た料理である。

カレー地獄から抜け出すために、『誰でも出来る簡単料理ブック』というのをテーブルに置いておいたところ、効果テキメンだったようで、次の日から『あの食材が欲しい』『この調味料が欲しい』と言うようになったのだ。どうやら料理に目覚めてしまったらしい。

ちょっと前にもポトフを作ってくれた時に、カレー地獄から抜け出せたのと、美味しかったことが合わさって、『美味しい』を連発していたところ、またポトフである。

どうやら『喜んでくれる→また作ろう』ということが定着してきているようで、瑠璃ちゃんの場合は他の人よりもちょっとその感覚が短いだけなのだということに気がついた。

味は悪くないし、ホントに美味しいからいいんだけどさ、ここまで細かいペースで出されると飽きるというかなんというか・・・

キッチンで鍋にコンソメを入れながら料理の本をふんふんと読んでいる瑠璃ちゃんを見ながらそんなことを思っていた。

相手のことを考えてメニューを決めるのは良いことだ。

これなら将来お嫁さんになって旦那さ・・・


「うぉおおお・・・」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない。気にしないでください」


・・・負の連鎖に巻き込まれそうな気がしたので、俺は考えるのをやめた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


ジャンル別の日間ランキングの3位以内に入れた日は、甘いものを食べても良いという日にしています。

そういうダイエットなのです。


次回もお楽しみに!

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