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シュートの仕方

「武田ー」

「なんだ中村か。どうした?」

「なんだってなんだよ。ちょっとここのとこがわかんないんだどさ」

「あーこれな。ここは弧に対して・・・」


昼休み、中村が俺に質問をしにわざわざ職員室までやってきた。

一応3年生という自覚があるようで、こうして受験勉強で分からないところが出てきたら、休み時間なり放課後なり聞きに来る生徒は少なくない。中村もその中の1人と言うわけだ。

中村1人で聞きに来るというわけではなく、もちろん天野も一緒にいた。しかし天野は、推薦の面接と願書だけで受験する保育の専門学校に進学予定なので、受験勉強とは無縁だった。しかししかし、そこは友達想いの天野で、中村の受験勉強に付き合ってあげているというわけだそうだ。


「んで、これが求められるわけ」

「あーそーゆーことね。教科書見ても全然わかんないからさ。やっぱり武田は先生なだけあって教え方上手いよな」

「教えるのが仕事だからな」

「それもそうだな。んじゃまたわかんないとこあったら来るわー」

「ばいばーい」


片手を上げる中村と、手を振る天野。

なんでも天野は、俺に会いに来るために『数学で分からないところあるの!? じゃあ武田に聞きに行こう!』って言ってるらしい。あいつ、数学はほぼ完璧に出来てるくせに、わざわざ俺のところに来させるというんだから、いろんな意味で大したやつだ。

ちなみに天野は、かなり数学の成績は良く、毎回90点台をたたき出している。他の教科も良いらしく、学年10位以内に入ることもよくある。

中村は・・・まぁそれなりだ。天野に比べると悪いけど、平均を超えたり超えなかったりしている。

なんていうか、どこまでも両極端な2人だ。

今日は講習は無いので、久しぶりにサッカー部の練習に顔を出そうと思う。

というのも講習が終わった頃には、ほとんど練習は終わってしまっており、暗くなった頃に顔を出して、グラウンド整備を見たり、片付けを見たりするだけだった。鍵を返しに来た部長の阿部とか、坂本さんとちょっと喋って終わりなんて日もあった。というよりも後者のほうが多かった。

講習をやっている教室から眺めている練習を、今日はグラウンドで見る。月に2回あれば良い方だ。

階段を降りて、玄関で靴を履き替え、グラウンドへと向かう。まぁ俺が行っても何もすることはないんだけどね。


「枠内に入らなかったらグラウンド一周なー!」


ちょうどシュート練習を始めるところで、坂本さんにパスを出して、返ってきたボールをダイレクトでシュートする練習だった。

2・3年は何回もやって慣れているせいか、落ち着いてゴールの枠内に入れているが、1年と2・3年の何人かは、枠外に飛んだり、ダイレクトで蹴れなくて足が止まってしまい、坂本さんに注意されてグラウンドを走っていた。

3周したあたりでシュート練習も終わり、休憩を挟んでから部員が2チームに分かれての紅白戦が始まった。

もう1週間もすれば3年生最後となる大会が始まるので、必然的に試合形式での練習が多くなる。

チームは坂本さんが分けて、オフェンス主体のチームとディフェンス主体のチームとで分かれていた。攻める方は攻める練習、守る方は守る練習になり、またオフェンス主体のチームのディフェンスは攻めに繋げる守りの練習になり、ディフェンス主体のチームのオフェンスは守りを起点にした攻めの練習になるらしい。つまり攻めの練習と守りの練習になるらしい。

坂本さんは審判の資格も持っており、高校の公式戦の審判もできるそうで、この紅白戦でも審判をしている。


「もっと外に開いてもらえ!」

「そこのスペースに走れよ!」

「カバー!」

「ヘイヘーイ!」


試合が始まると、激しい当たりはもちろんだが、坂本さんや部員達の声がより一層大きくなる。

普段こんなに大声を出さない生徒も、部活ではここまで大きい声を出すのかと、ちょっと感心してしまう。

顧問の立場から言わせてもらうと、試合前だからそこまで激しくやらなくてもいいとは思うのだが、部員や坂本さん達はアドレナリンがドバドバ出ちゃってるから、練習でも激しくやらないと試合でできなくなっちゃうんだろうなと思い、思っただけで口には出さなかった。

20分ほどで休憩に入り、ちょっと手持ち無沙汰になってしまった。

ふと足元にボールがあったので、リフティングしてみようと思い、足の裏でボールを引き寄せ、そのまま甲で上に上げてリフティングを始めた。

こう見えてもサッカーやってたからリフティングは出来る。足の甲でポンポンと小さくリフティングをして、そこからちょっと大きく上げてももの辺りでの高さでリフティングをする。

そのままトントンとリフティングをしていると、ボールが脛に当たってしまい、前の方に飛んでいった。

ちょうどゴールから見て右奥のペナルティエリアの位置に転がっていき、それを走って追いかけた。


「先生! シュート!」


ふと部長の阿部の声が聞こえた。

前を見ると、ゴールで阿部がキーパーとして構えているのが見えた。


「よっしゃあ! 行くぞー!」


俺はそのままボールに向かって勢いをつけて、小さく跳ねているボールを足の甲で思いっきり蹴った。

いい感じに当たったボールはまっすぐゴールへと向かい、阿部の胸の中へとバスっと収まった。


「ナイッシュー!」

「武田先生上手いじゃないっすかー」

「いやー昔はサッカー少年だったからさー。今のはたまたまだけどね」


阿部やら他の部員やらに褒められて、ちょっと照れて下を向き、そのまま足元を見ると、ドロドロになった靴が目に入った。


「あちゃー・・・」

「・・・その靴でアレだけ出来るんなら結構上手いじゃん」

「あ、ありがと」


普通にビジネスシューズでボールを蹴ってしまったのだ。

帰ってから靴を磨いたのは言うまでもない。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


変な時間ですが、書いたので投稿しちゃいました。


次回もお楽しみに!


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