しっかり者の起き方
「瑠璃ちゃーん。朝だよー」
「んん・・・」
俺がカーテンを開けると、眠そうな目をこすりながら瑠璃ちゃんが起き上がった。ご飯と味噌汁と昨日の残り物のナスの味噌炒めをテーブルに並べ終わる頃に、瑠璃ちゃんがテーブルに座る。そしていただきますをして食べ始める。これが我が家の朝の光景だ。
「ん? どうかした?」
食べている最中、瑠璃ちゃんがどこか考え込んでいるような顔をしていたので、味噌汁が美味しくなかったのかと思い、訪ねてみた。あれ、ダシ入れ忘れたっけ?
「私、明日から自分でおきるから」
「そんなことか」
てっきり朝ごはん関連かと思った。
「じゃあどうする? 目覚ましとか買う?」
「だいじょうぶ。笹木さんも自力で起きてるって言ってたから、私も自力でおきる」
「自力で起きるって・・・瑠璃ちゃんが朝に起こされる前に起きたことあったっけ?」
「ある! あるもん! いつもはおきようとしたときにまさちかさんがおこしてくるだけだもん!」
「わかったわかった。じゃあ明日からはギリギリまで起こさないから。それでいい?」
「うんっ」
こうして瑠璃ちゃんのドタバタな朝が始まった。
学校には8時ぐらいまでに登校していればいいらしく、ご飯食べたり着替えたりする時間を逆算すると、7時半には起きると急がないと間に合わない。しかも俺の方がその時間に家を出てしまうため、瑠璃ちゃんが自力で起きない場合に起こせる時間は、7時半が最終ラインである。
ちなみにいつもは7時に起こしている。
そして瑠璃ちゃんが宣言した次の日の朝。
俺がいつもよりも物音を大きくたてながら朝の準備をしていると、7時20分ぐらいになってようやくお姫様が起きてきた。
「おはよ」
「ん。おはようございます。どうして起こしてくれなかったの?」
「瑠璃ちゃんが昨日からは自力で起きるって言ったんでしょ?」
すっかり忘れていたのか、俺の言葉にハッとする瑠璃ちゃん。
「忘れてないもん!」
「わかったから、早くご飯食べちゃいなさい。時間ないよー」
いそいそとテーブルに並べられた朝ごはんを食べ始める瑠璃ちゃん。
こりゃ明日も起きれなさそうだな。
さらに次の日。
「瑠璃ちゃん。そろそろ起きないと間に合わないよー」
「ハッ!」
ヨダレを垂らしながら寝ていた瑠璃ちゃんは、口元をパジャマの袖で拭うと、起き上がってご飯を食べ始めた。
起こしたのは昨日と同じ時間。
2日続けてギリギリというのは、自力で起きるのは無理だと思った。
そしてその日の夜。
俺は帰りに買ってきた赤い目ざまし時計を瑠璃ちゃんにプレゼントした。
「いきなり自力で起きるっていうのは無理だからさ、目ざまし時計で慣らしていって、慣れてきたら自力で起きるようにしよう」
「むー・・・」
「瑠璃ちゃんだっていつもいつもギリギリに起きてドタバタするの嫌でしょ?」
「・・・うん」
不服そうに返事をする瑠璃ちゃん。
「だいたいなんで急に自分で起きるとか言い出したのさ。俺は起こしてたっていいのに」
「笹木さんが『もう少しで中学生になるんだから、もう少ししっかりした人間になる』って言ってたから、私ももっとしっかりしようと思って・・・」
「そーゆーことか」
まぁ確かにもう少しで中学生だもんね。
「俺としては、毎朝瑠璃ちゃんを起こすのも日課になってきてるから苦ではないんだけど」
「それじゃダメなのー。もくひょうは、私がまさちかさんをおこすことなのー」
「・・・先は長いね」
「・・・うん」
「まぁとりあえずは明日からは目覚まし時計使って起きてみてよ。せっかく買ってきたんだから使ってもらわないともったいないし」
瑠璃ちゃんは目ざまし時計の後ろをカチカチといじりながらコクリと頷いた。
次の日の朝。
なかなか起きない瑠璃ちゃんの代わりに、俺が目覚まし時計を止めて、いつものように起こしたのは内緒である。
しばらくは俺が目覚まし時計代わりになりそうだな、と思った晴れた朝だった。
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更新が途切れてしまい申し訳ございませんでした。
まだちょっと不安定な更新ペースではありますが、連載を再開します。
次回もお楽しみに!




