親友の嘆き方
いつものように部活が終わり、帰ろうと地下鉄に乗り、家までの道のりを歩いていた時だった。
「まーさーちーかーくーん!」
ふいにのんきな声が聞こえてきた。
誰の声かはもちろん分かった。
「宏太か。なした?」
「ちょっと話聞いてやー」
「なんだよ。気持ち悪いなぁ」
「気持ち悪いってのは酷いやん」
気持ち悪いものは気持ち悪いのだ。仕方ないじゃん。
「ちょっと瑠璃ちゃんにも会いたいしー、家まで行ってええかなー?」
俺はちょっとだけ考えた。
今の我が家の食卓はカレーとシチューに加えて、ビーフシチューとハヤシライスも加わって、バリエーションはさまざまだ。昨日がハヤシライスだったことを考えると、今日はきっとカレーだ。
バリエーションが増えてきたとはいっても、さすがに飽きてきた。
遠回しにでも宏太に言ってもらえれば、俺の食生活もちょっとは改善されるんではないか?
きっと宏太ならズバズバと言ってくれるはず。
「よし。来てもいいぞ」
「さすが正親ー」
「ただ酒はナシだからな」
「はいはい」
前に酔いまくって俺に迷惑かけてるんだから、酒ぐらいは我慢してもらわないとな。うん。
そして我が家に到着。
「ただいまー」
「おじゃましますー」
俺の声に続いて聞こえたであろう宏太の声に、瑠璃ちゃんが奥の扉を開けて確認しにきた。
「おー! 瑠璃ちゃんやん! 久しぶりやなー!」
「こんばんわ」
「はい、こんばんわ」
靴を脱いで中に入ると、予想通りのカレーの臭いが漂ってきた。
「この臭いは・・・カレーやな!」
「今日のご飯はカレーです。宏太さんも食べますか?」
「週2でカレーだけどね」
俺はさりげなく宏太に言った。
これでちょっとは反応してくれるはず。
「マジで!?」
そうそう。その反応が・・・
「めっちゃええやん! 俺も毎日カレーでええんやけどなぁ」
俺は宏太に期待したことが間違いだったと気づいた。
こいつがここまでカレー好きだったとは知らなんだ。
「宏太さんもカレー好きなの?」
「『も』ってことは、瑠璃ちゃんも?」
「はい。大好きです」
「おぉ!」
そしてガッチリと握手をする瑠璃ちゃんと宏太。
ここにカレー同盟ができたのであった。
勝てる気がしない。
その後、もうよくわからなくなってきたカレーを食べ、ほげーとテレビを見ていた。
「あっ。そういえばどうしたんだよ」
「何が?」
「いや、何がじゃないっての。なんか話があったんじゃないのかよ」
「はっ・・・忘れたかったんやから、思い出させるなよ・・・」
さっきまでのカレーテンションがどこかにいってしまったようで、急にシュンとする宏太。
「んで、何があったんだよ」
「聞いてくれる? 実はな・・・」
上目遣いでそう言う宏太は気持ち悪かった。
「彼女に振られてん」
「・・・そんだけ?」
「そんだけってなんやねん! 俺にとっては一大事なんや!」
「悪い悪い。彼女って、あの服屋さんで働いてるっていう年下の子?」
「イエス」
「なんでまた?」
「別に好きな人が出来たんやって」
「なら仕方ないじゃん」
「仕方ないのはわかるんやけど、俺の気持ちはどうなんねん」
「きっぱり諦めるしかないじゃん。男だろ」
「わかってるんやけど、どうしても引きずってまうやん」
見た目に反して、それなりに女々しい思考回路を持っている我が親友。
「でも浮気とかされて気まずく別れるよりもよかったんじゃない?」
「まぁそうやけど・・・」
「宏太ってそんなに悩むタイプだったっけ?」
「今回は本気やってん」
「ばっかだなぁ。うちの兄ちゃんなんかプロポーズで振られてんだぞ。それに比べれば全然マシだろ」
「それに比べたら人生の大半がマシや」
「だろ? ほら。瑠璃ちゃんからもなんか言ってやって」
隣で聞いていた瑠璃ちゃんにもなんか言ってもらおうと思って、ちょっと振ってみた。
「えっと、宏太さんはカッコイイからだいじょうぶですよ」
「瑠璃ちゃん・・・」
瑠璃ちゃんの言葉に過剰反応した宏太が、瑠璃ちゃんの両手を握った。
「瑠璃ちゃん、俺と付き合ってくれへん?」
「断る! お前にだけは瑠璃ちゃんは渡さん!!」
俺は宏太の手をバシバシと振り払うと、瑠璃ちゃんを抱き寄せて威嚇した。
「なんでや、このバカ親!」
「瑠璃ちゃん。こんな男に騙されたらダメだからね」
「変なこと吹き込むなや」
「だいじょうぶ。私はまさちかさんのほうが好きだもん」
「瑠璃ちゃん!」
俺は思わず瑠璃ちゃんを抱きしめた。
育て親としてこのセリフは刺激が強すぎる。
いつか『まさちかさんよりも好きな人が出来たの』とか言われるまでは、ずっと瑠璃ちゃんを離さないと心に決めた。
「はぁ・・・俺も次の恋でも見つけようかな」
「がんばれー」
「・・・なんや相談相手間違えた気がするわ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
僕はカレーを食べ続けても大丈夫なほどのカレー好きです。
正親と代わりたい。
次回もお楽しみに!




