顧問の働き方
サッカー部の顧問となって早1ヶ月。
1年生と2・3年生の間に壁はまだあるものの、それなりに打ち解け始めてきたらしい。
まぁ俺は部活に行ってもすることがないことが分かったので、最後の方にちょろっと顔を出したりする程度だった。
コーチの坂本さんは、28歳で整体師だそうだ。5時頃から部活に合流し、部員達にいろいろと教えてくれている。毎回部活が終わるたびに、坂本さんは俺のところに報告をしにきてくれるので、部活内では一番仲がいいかもしれない。というより話しやすい。
「武田さんってサッカーわかるんですよね?」
「わかるっていうか、ほとんどテレビで見てるぐらいですが」
「大丈夫ですよ。それでね、今度の大会の先発なんですが・・・」
どうやら俺にも『やること』を与えようとしてくれているみたいで、こうやってメンバーを決めたり練習内容を考えるのを手伝わせてくれている。なんて良い人なんだ。でも俺のタイプの顔ではない。
「こいつって足早いんだから、前の方で使ったほうがいいんじゃないですか?」
「いえ、前線で使ってしまうとマークされて前に出にくくなってしまうんで、オーバーラップさせたりポジションチェンジしたりして使おうかと思ってます」
「はー。そういうのもアリなんですねぇ」
「最終的にはこれをあの子達だけで試合中に考えてくれるのがいいんですけど、さすがにそこまではいかないですね」
アレだ。トータルフットボールだ。
ポジションにこだわらないで、選手たちがピッチ内で意思疎通をしながら縦横無尽に走り回るアレだ。
昔のマンガでもあったけど、アレって難しいんじゃないか?
逆に言えばそれだけ高いレベルのことを求めてるってことだよな。
こんな受けっぽい顔して、考えてることはすごいこと考えてるのか。
「坂本さんって結構レベル高かったりします?」
「よく言われます。見た目よりも考えてることえげつないですねって言われます。ハハ」
このくらいレベル高くないとコーチなんてつとまらないんだろうなぁ。
そんなこんなで坂本さんとの打ち合わせも終わり、いそいそと家に帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
「おっ。カレーだ」
家の中に入ると、カレーのいい匂いが鼻をついた。
俺が顧問をはじめて帰りが遅くなる話をした時から、瑠璃ちゃんも夜ごはんの準備を手伝ってくれるようになった。もともと料理は手伝ってくれていたのだが、簡単なカレーとかなら作ってくれるようになった。
奥の扉を開けて入ると、さらにカレーの匂いが強くなった。
「ただいま。カレーだねー」
「うん」
こうやって笑顔で答えているが、実は1日交代でカレーとシチューが続いている。それがもう2週間も続いている。さすがに土日は俺が作っているんだけど、それ以外はカレーとシチューだ。
でも瑠璃ちゃんが作ってくれているから文句は言えない。どうしよ。
「瑠璃ちゃんってカレー好きなの?」
「うん! 好き!」
Oh・・・コレハイエナイヨ・・・
こんな笑顔で言われちゃあ言えるものも言えないよ。
俺は着替えながら瑠璃ちゃんが作ってくれたという嬉しさと、またカレーかという絶望感に似た何かを感じていた。
そして着替え終わって瑠璃ちゃんがよそっているカレーを受け取り、ゴクリとつばを飲み込んでテーブルへと運んだ。
「さぁ召し上がれ」
「は、はい。いただきます」
パクリと一口食べた。
うん。いつもの味だ。カレーの味がする。
「いつも通り美味しいよ」
「良かった」
確かに美味しい。美味しいんだけど、なんていうか・・・ねぇ。
美味しいものもたくさん食べていると、よくわからなくなってくる。
そろそろ俺の血にもカレーが流れているのではと思えるようだ。あ、シチューも流れてるかも。
そう思いながら瑠璃ちゃんのほうを見てみると、美味しそうにカレーを食べている。その姿を見ていると、言いたかった言葉もどこかに行ってしまったようで、なんだか幸せな気持ちになってしまう。
これがきっと瑠璃ちゃんマジックというものだろうか。それともただの親バカなのか。
もうわからない。
これがカレーマジックなのか。
スパイスの力ってすごいや。アハハハ。
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今日からまた再開していきますよー。
次回もお楽しみに!




