仕事の仕方
宝くじで大金を当てた俺だが、仕事はやめるつもりはなかった。
もしもここで生活リズムを崩してしまうと、もう堕落な生活が続いていくとしか思えなかったからだ。
だから今日も仕事に行くための準備をしていた。
早起きをして、朝ごはんを作り、それを食べて学校へと向かう。
その予定だった。
「・・・おはようございます」
俺が朝ごはんを作っていると、昨日買ったピンクのパジャマを着た瑠璃ちゃんが起きてきた。
昨日泣きに泣いてからというもの、瑠璃ちゃんはちょっとずつではあるがしゃべってくれるようになった。
「あっ。丁度良かった。瑠璃ちゃんも準備して」
「じゅんび?」
はて、と首を傾げる瑠璃ちゃん。
「あー・・・そっか」
瑠璃ちゃんの歳なら小学校に行っているはずだが、瑠璃ちゃんは行っていないんだった。
これはどうしたもんか・・・
瑠璃ちゃんは、テーブルのところにクッションを置いてちょこんと座る。その流れが瑠璃ちゃんの指定席みたいになっているようだった。
「おしごと?」
「そうなんだけど・・・」
「おるすばんしてます」
「うーん・・・」
仕方ないのか?
でもこれしか方法が無いよなぁ・・・
とりあえず今日は留守番してもらって、今日の空いた時間にでも近くの学校に連絡してみようかな。
うん。これでいこう。
「じゃあ留守番しててもらえる?」
頷く瑠璃ちゃん。
「お昼ご飯はあとで買ってくるからそれ食べて。絶対に誰か来ても出ちゃダメだからね? 俺以外は家に入れないこと。わかった?」
再度頷く瑠璃ちゃん。
ちゃんと言うことを聞いてくれる子だから、大丈夫だとは思うけど、それでも心配だ。こんな小さな子に一日中留守番をさせるなんて心が痛む。
今日は早く帰ってこよう。そして家で色々準備すれば大丈夫だろう。
「よし。じゃあ朝ごはん食べようか」
二人で手を合わせて『いただきます』を言って食べ始めた。
今日は瑠璃ちゃんも言ってくれた。良い子だ。
「おはよー」
「おはようございまーす」
「おーっす」
「おはよう」
廊下で朝早く来ていた生徒達と挨拶を交わしながら職員室へと向かう。
俺の仕事は教師だ。高校教師で、今年で3年目。それなりに慣れてきた気もする。
職員室の自分の席につくと、一時間目の準備をしながら瑠璃ちゃんのことを考える。
近くの小学校のほうがいいのか。それともちょっと上の方の学校とか受験させたほうがいいのか。
「うーん・・・」
「難しい顔してどうしたんですか?」
「あ、高津先生でしたか。おはようございます」
高津先生は、今年27才の先輩教師の女性だ。
今いる先生の中では一番美人だそうで、生徒からの人気も高い。特に男子。
「おはようございます。授業のことですか?」
「いえ。ちょっと私的なことでした。あはは」
「何か協力出来ることがあれば言ってくださいね」
「はい。その時は声をかけさせてもらいます」
「いつでも待ってます」
肩をポンと叩いて去っていく高津先生。
それを横目に見ながら、隣の席の秋山先生が声をかけてきた。
「武田センセ。相変わらずモテモテですな」
「・・・肩痛いんですけど」
「痛くしてんだよっ。このモテ男めっ」
秋山先生。今年32才になる『独身』の男の先生だ。どうやら高津先生に気があるらしく、俺にばかり構ってくるもんだから羨ましく思ってるらしい。でも悪い先生じゃなくて、冗談半分で絡んでくるから憎めない。時々飲みに連れていってくれるいい先生だ。
「んで、何考えてたんだよ」
「そっちが本音ですか?」
「後輩の悩みを聞いてやるのも先輩の役目なんだよ」
秋山先生になら言ってもいいか。
「ちょっと親戚がこの近くに引っ越す予定なんですけど、そこの小学生の女の子を転校させるっていうんで、小学校に話をつけておいてって言われちゃいまして」
「はぁ。やっぱり最近の親ってのは似たりよったりなんだな」
その親が俺なんですけどね。すいませんね。
「武田先生は東区だっけ? その近くに引っ越してくるってこと?」
「あ、はい」
「じゃあ先生の近くの小学校の先生を紹介してやるよ」
「ホントですか?」
「任せとけ。こう見えて長く務めてないさ」
「ありがとうございますっ。助かりました」
「ってことで、あとで連絡先教えてやるから期待しとけ」
やっぱり持つべきものは頼れる先輩だ。
あんな高津先生よりも秋山先生のほうが頼りになって男らしい。
どうして結婚できないのか不思議だ。なんなら俺が嫁になりたいぐらいだ。
エロエロな生活もいいが、こういう秋山先生みたいな男らしい人に付いていくのもいいかもしれない。
そんなくだらないことを考えながら朝礼に参加する俺だった。
そんな俺は両刀だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
高校教師がエロエロな生活してたら不純極まりないですね。
『両刀』の意味がわからない方は、近所の同性愛に目覚めている人に聞いてみましょう。
次回もお楽しみに!