うっかり者への問い詰め方
「武田はねぇ、もっとしっかりしないとダメだと思うのぉ」
「結構しっかりしてるタイプだと思うんだけどな」
「そうじゃなくてぇ。私とか高津先生に言い寄られて曖昧な態度ばっかりとってるからグダグダしてるのが、しっかりしてないって言ってるのよぉ」
「あいまいってなに?」
「誤魔化しまくってるってこと」
「まさちかさんはごまかしまくってるの?」
「そりゃあもう誤魔化しまくって世界が作れるレベルだよねー」
「瑠璃ちゃんに変なこと教えんな」
そんなこんなで居酒屋で食べ始めて30分ぐらい。
天野と中村はちゃんとジュースに戻ったはずなのだが、天野だけが不思議とハイテンションというか酔っぱらい風な感じに出来上がってしまって、ちょっとめんどくさい状態になっている。
テーブルには、アボガドのシーザーサラダだったものとか、焼き鳥の盛り合わせだったものとか、たこわさびだったものとか、ピザだったものとか、タコザンギだったものとか、いろいろあったのだが、残りあとわずかとなってしまっている。
俺は2人に言った手前、ビールもそこそこに2杯目からはウーロン茶を飲んでいる。
食べ物は減ってしまったが、瑠璃ちゃんと中村が俺と天野の様子を実況席から見ている感じで、この空間をみんなで楽しんでいた。
「恭子、酔ってるでしょ」
「酔ってないっすよ」
「古いっすよ」
こんな感じで中村が天野をいじってケラケラと笑っている。瑠璃ちゃんも楽しそうに笑っているので、ホワイトデー企画としては成功だと言えるな。
そんな状況がさらに20分続いた。
なにやら中村が飲み物を決めるためにメニューを開いている横で、瑠璃ちゃんがのぞき込んでいた。
「瑠璃ちゃん、お腹いっぱい?」
「んー・・・」
「何か食べたいのあったら言ってね」
「じゃあお茶づけ食べたい」
「よし。すぐに持ってきてもらおう」
俺は速攻で店員さんを呼ぶあのボタンを押した。
「私も食べたい!」
「はいはい」
「瑠璃ちゃんとリアクションちがくない?」
「それは瑠璃ちゃんと天野は違う人間だからだろ。何言ってるんだ」
「あそっか」
だいぶこの天野の扱い方にも慣れてきた。
それなりに納得しそうなことを言っておけば納得してくれることがわかれば余裕だ。
「そうそう。天野も中村も友達に俺に奢ってもらったって言うなよ。めんどくさいから」
「言わないって。特定の生徒と仲良くしすぎると教師としてダメなんでしょ?」
「PTA的なアレな」
「天野恭子! 全身全霊をかけて秘密を守ります! 2人だけの秘密ってやつでしょ?」
「中村と2人の秘密な」
「そこは『俺とお前の秘密だよ(はぁと』ってなる場面でしょ」
「恭子・・・あたしとの秘密じゃ嫌なのか?」
「そんなことないよ! 香恵との秘密でもいい!」
そう言って立ち上がり、中村に抱きつきに行く天野。ハイテンションのなせる技だな。
「瑠璃ちゃんもカワイイから抱きついちゃうぞー!」
「キャー」
瑠璃ちゃんにも抱きつく天野。抱きつかれた瑠璃ちゃんも楽しそうに笑っている。ホント天野はムードメーカーだわ。
中村も落ち着いてて、天野とは違うがこの空気を保ってくれている気がする。
瑠璃ちゃんがいなければ、俺もこの2人と仲良くなることはなかっただろうし、瑠璃ちゃんもこの2人と出会わなければ、ここまで心を開かなかったかもしれない。
この2人は瑠璃ちゃんの良い姉だよ。つくづく思う。
「フフ。ありがとな」
あっ。思わず声に出てしまった。
3人が目を丸くしてこっちを見た。
意味がわかってない天野と瑠璃ちゃんに対し、中村は察したらしくニヤリと笑った。
「なんのありがとなの?」
「いや、天野はわからなくていいわ」
「何それー。香恵からも・・・って香恵は何かわかってるの?」
「まぁねー」
「どういう意味なの?」
「私よりも武田から直接聞きなー」
「武田。どういう意味?」
「私も知りたい」
「・・・教えない」
天野に続く形で瑠璃ちゃんもやってきた。
か、勘弁してください・・・
うっかり声に出さないように気をつけよう。
うっかり発言は失言の元だからな。
このあと俺が天野と瑠璃ちゃんに問い詰められているのを、中村だけが笑って見ていたのは言うまでもない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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次回、またちょっと時が飛びます。
というわけで次回もお楽しみに!




