リベンジの仕方
今年もやってきたバレンタインデー。
去年はなんやかんやで大小さまざま4つ貰ったわけだけど、今年はいくつもらえるだろうか。
特に瑠璃ちゃんは何をくれるのだろうか。それが一番気になって仕方ない。
いつものように学校に行く。職員室に入る。朝のホームルームのために教室に入る。
「武田ー」
来たっ!
この声は天野だ!
やっぱり一番最初は天野か。
でも今からホームルームだからちょーっと空気を読んで欲しかったなぁ。
「これ。この間の進路調査票。出すのすっかり忘れてた。遅くなってごめんねー」
「は? 進路調査票? あー、これね。うん。しっかり受け取りました」
「ん? どうかした?」
「どうもしないよ?」
俺は何もなかったかのように振る舞い、朝のホームルームを終えて教室を出た。
あれ? おかしいなぁ。去年なら天野が張り切って作ってきたチョコを見せびらかすかのように渡してきたはずなんだけど、今年は何もなかった。逆に怖い。
とか思っていると、後ろで笑い声が聞こえた。
中村でした。
「・・・何がおかしいんだよ」
「あれだろ。恭子からチョコもらえると思ってただろ」
「べべ、別に思ってなんかなななないぞ」
「ちょっとは動揺を隠せよ」
急な図星発言に驚いてカミカミだった。
「最近恭子にかまってないから怒ってるんじゃないかなー」
「怒ってる? なんで?」
「それはわからないなー」
何か知ってそうでそれを言わないニヤニヤ顔の中村。
俺が聞いてもきっと答えてはくれないだろおう。
俺も大人だ。悔しいから聞かないでやる。
「ふーん。そっか。なら仕方ないな。天野に言っておいてくれ。なんか知らなんけど悪かったなって」
「ククク。はいはい」
「んじゃな。ちゃんと勉強しろよ」
「ちなみにあたしからもチョコは無いからなー」
マジすかー。
でも逆に考えろ正親。
これが普通なんだと。今までこうだったじゃないかと。
もらえていたほうがラッキーなんだ。ラッキーは幸運という意味だ。スーパーじゃない。幸運は奇跡みたいなもんだ。つまり奇跡が何度も起こるはずがないんだ。
そうだよ。もらえないのが当たり前だと思って生活するんだ。うん。そうしよう。
そこらへんをちょっとそわそわしながら歩いている男子生徒達とは違って、俺は大人だし教師だ。
まず生徒からもらえると思っていたのが間違いなんだ。
今日はバレンタインデーじゃない。そのくらいの意気で過ごそう。うん完璧。
そう思って過ごしてみると、あっという間に放課後になってしまい、今年は1つももらえなかった。
今日は講習もないし、ちょろちょろっと雑務をかたずけて、明日の準備をしたらさっさと帰ろう。あまり長い時間学校にいても、俺の精神に毒だ。
そう思って立ち上がったときだった。
「た、武田先生」
「・・・はい?」
振り返ると、高津先生が立っていた。そして手にはケーキが入ってそうな箱を持っている。
こ、これはまさか・・・
「あの、これ、ちょっと作りすぎちゃったんで、もらってくれませんか?」
少し顔を赤くしながら、ケーキが入ってそうな箱を差し出す高津先生
圧倒的な嘘つきだ。この嘘には、俺も反論できなかった。
「そ、そうなんですか。高津先生1人じゃ食べきれないですもんね。ありがたくいただきます」
「ありがとうございます! もう帰るんですよね? おつかれさまでしたっ」
「おつかれさまです」
高津先生が立ち去っていくのとほぼ同時に、隣の秋山先生にケツをバシッと叩かれた。
「おつかれ」
「・・・いります?」
「ふざけんな。いらんわ」
「ですよねー。おつかれさまでした。お先です」
学校を出て、地下鉄に乗り、家へと帰ってきた。
またこんなデカいケーキをもらってしまった。こんなの瑠璃ちゃんに見つかったら、何か言われそうだから隠そうかとも思ったが、どこに隠すというのだ。
何も打開策が閃かず、普通に持ったまま玄関を開けて家の中に入った。
すると玄関にローファーが2足あるではないか。そしてかすかに聞こえる話し声。
そういうことか。
俺は奥の扉を開けて中に入った。
「ただいまー」
「あっおかえりなさい! 今日は早かったのね! どうする? ご飯にする? お風呂にする? それともー」
「ご飯でお願いします」
「言わせてよー!」
「誰が言わせるか」
「まだ準備出来てないんだからもうちょっと空気読んで遅く帰って来いよな」
「せっかく早く帰ってきたのにそれはひどいと思います。ちょっとは天野を見習え」
俺を出迎えたのは、新婚さんごっこを仕掛けてきた天野と、早く帰ってきたのに文句を言ってきた中村だった。
そして2人の後ろでは、瑠璃ちゃんが直径20cmぐらいのチョコケーキにイチゴを乗せようとしていたところで固まっていた。これは中村が言っていたとおり、もうちょっと遅く帰ってきたほうがよかったのかもしれない。
その後、無事に瑠璃ちゃんのケーキも完成し、天野が作ったクリームシチューとサラダを中村がテーブルに並べて、夕食となった。
学校でチョコをくれなかったのは、去年の高津先生のケーキへのリベンジを3人でしようという計画があり、驚かせるために黙っていたらしい。
学校から帰ってきた3人は、急いでケーキを作ったりシチューを作ったりして準備をしていたんだとか。
目には目を。ケーキにはケーキを。そして勝つためにはプラスαをと考えたらしい。
瑠璃ちゃんが作ったケーキはそのへんで売っているものの100倍は美味しかった。愛が込められてるせいかなとも思った。嬉しくて涙が出そうになったのは内緒である。
こうして今年のバレンタインデーは『チョコ』はもらえなかったが、楽しい夕食となったのは間違いなかった。
楽しい時間。プライスレス。
そして食後、瑠璃ちゃんのケーキを食べ終わったあとに、高津先生のケーキの箱を開けた。
「すごっ」
「何これ」
「うわぁ・・・」
「・・・・・・」
チョコでコーティングされたハート型のケーキに、ベリーがベリーベリーしていた。
もう・・・食べるのがもったいないレベルだったんだけど、瑠璃ちゃんと天野がフォークでぐさぐさと上から刺しては口の中へと放り込んでいったので、あっという間になくなってしまった。
俺と中村は1口しか食べてなかった。
気持ちはともかく、見た目も味も普通に売ってそうなクオリティで驚いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけるとうれしいです。
食べ物の話を書いていると、お腹が減って仕方ないです。
ケーキ食べたいわー。
ツイッターにて、武田家の間取りを上げておきます。
興味のあるかたは見てみてくださいませ。
次回もお楽しみに!




