洋服の選び方
このデカい服屋はとても助かる。
いろんなところともコラボしていて、あのハンター生活ができると有名なモンスターゲームともコラボしている。
こんな俺でも入れるんだ。
あ。別に服屋に入れないとかじゃなくて、小さい女の子を連れて、小さい女の子の服を買っても怪しまれない服屋って意味だ。
このまま有名なお店に入ったところで、怪しまれて通報されるのがオチだ。
そこまでオシャレじゃないかもしれないが、この店ならいろいろと買える。なんということでしょう。とても便利なお店。
というわけで、俺は瑠璃ちゃんを連れて一緒に街中までやってきた。
瑠璃ちゃんは珍しいものを見るかのように、キョロキョロと辺りを見回していた。今までこんなに大きなビル群を見たことがないのだろうか? ずっと上の方を見てたりしていた。
途中で通帳を使ってお金を下ろしてきたのだが、通帳を見ると、5億ぐらいあった金が4億ぐらいに減っていた。つまり差額が瑠璃ちゃんの値段というわけだ。この数字を見てなんだか俺は複雑な気持ちになった。人に値段をつけるのはいかがなものなのかと。
昨日今日で瑠璃ちゃんが心を開いてくれてるとは思ってはいない。だが、いつか心を開いてくれて、そのへんにいるような子どもと同じように笑顔を見せてくれるような、元気な子に育って欲しい。
って、もう親心全開じゃん。
「さぁ、好きな服を選ぶがいい!」
俺はエスカレーターを上がった先にある店舗前で、瑠璃ちゃんに向かって大げさに言った。
しかし瑠璃ちゃんはとまどってしまったようで、少しあたふたしたかと思うと、うつむいて黙ってしまった。
失敗した。
まだテンション上げて接したところで、逆効果のようだった。
仕方ない。今回は俺が決めよう。
でも恥ずかしいから一緒についてきてね、瑠璃ちゃん。
「これなんかどう?」
俺は瑠璃ちゃんに服を当てて訪ねたのだが、やっぱり返事はなかった。
仕方ない。今回はこれを買おう。
他にも適当に瑠璃ちゃんに似合いそうな服をカゴに入れていく。
最後に子供用のズボンを3本買った。
その間、瑠璃ちゃんは俺の後ろをくっついて歩いてきていた。
その時だった。
「あの、お客様」
「はい?」
後ろから店員さんに声をかけられた。
「失礼ですが、そちらのお子様は?」
瑠璃ちゃんを見て店員が俺に疑いの目を向ける。
この時、瑠璃ちゃんを連れた俺が誘拐犯か何かだと疑われているということに気づいた。
たしかにこんな服を着せていて、全然似ていない子どもを連れていれば、怪しまれても仕方ない。
なんて答えれば・・・
どうしようかと考えていると、瑠璃ちゃんがスッと動いて、俺の背中に隠れた。
そして俺に服の裾をギュッと掴むと、俺を盾にするかのようにして、店員さんを怯えた目で見た。
「あっ、あの、この子、人見知りで・・・」
「そうみたいですね。申し訳ございませんでした」
「え、こちらこそ・・・」
そう言うと店員さんは元の業務に戻っていった。
良かった。ここで瑠璃ちゃんが動いてくれなかったらどうしようかと思った。
まだ俺の服の裾を掴んでいる瑠璃ちゃんは、俺の顔を怯えたような目で見ていた。
正直嬉しかった。こんな俺でも頼ってくれたということが嬉しかった。
思わず笑顔が出てしまい、それを誤魔化すかのように瑠璃ちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でた。
瑠璃ちゃんが頭を触られてビクッとしたが、俺はかまわず撫でた。
本当は抱きかかえて大喜びしたい気分だったが、店内での迷惑になるような行為はご遠慮しないといけないので、自重した。
そしてレジで会計を済ませたあと、まっすぐに家に帰ってきた。
久しぶりの外出ということもあってか、瑠璃ちゃんが途中で疲れて寝てしまったのだ。
本当はご飯を食べて、どこかブラブラしてから帰ろうと思っていたのだが、昼飯の待ち時間に店舗の外の椅子で待ってる間に、瑠璃ちゃんがウトウトしていたかと思うと、結局寝てしまった。
仕方なしに俺は瑠璃ちゃんをおぶって家まで連れて帰った。
地下鉄の中でも全然起きてこない瑠璃ちゃん。
家についても寝ていたので、そのままベッドに寝かせて、俺はコンビニに昼飯を買いに行った。何を食べるかなと考えていて、迷った結果、サンドイッチを何種類か買って家に戻った。
玄関を開けると、部屋の中から何かすすり泣くような声が聞こえた。
何事かと思って中に入ると、テーブルの前にクッションを置いて、そこに座った瑠璃ちゃんが声を殺して泣いていたのだ。
「瑠璃ちゃん?」
俺が声をかけると、瑠璃ちゃんはハッして涙を拭うと、立ち上がってこちらにからだを向けた。
「どうかしたの?」
無反応。
うんともすんとも言わない。首も振らない。頷きもしない。
俺は覚悟を決めて、瑠璃ちゃんの前に膝をついた。
そして両肩に手を置いて、言った。
「瑠璃ちゃん。聞いて欲しい。昨日も言ったけど、俺は君を幸せにしてあげたいんだ。だから瑠璃ちゃんも俺に少しでいいから心を開いて欲しいんだ」
俺の目を見つめてくる瑠璃ちゃん。俺もその目を見返す。
「思ってることを言って欲しいし、返事もして欲しい。何か辛いことがあったなら言って欲しいんだ」
瑠璃ちゃんは目をそらすと、うつむいた。
「何か悲しいことでもあったの?」
そう聞くと、瑠璃ちゃんは小さい声で言った。
「・・・なく・・・った」
「ん?」
「・・・いなくなったのかとおもった」
そう言うと、瑠璃ちゃんは俺に抱きついてきて、声を上げて泣いた。
その時の俺は、すごくマヌケな顔をしていたのかもしれない。
でも心境はとても嬉しかったのだ。
やっと瑠璃ちゃんがほんの少しだけでも心を開いてくれたのかと思うと、泣きそうになるくらい嬉しかった。
「はぁ・・・俺、超幸せ・・・」
聞こえないようにそう呟いて、瑠璃ちゃんを優しく抱きしめた。
コメディとはなんだったのか?
あ、ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
そして相変わらずのジャンル詐欺でごめんなさい。
こんな感じでふわっと続けていきますので、良ければお付き合いください。
コメディにしようと心がけてるんだけど、なかなか笑いに繋がらないなんて言えやしないよ・・・
次回もお楽しみに!