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退院の仕方

翌月7月の最初の日曜日。

ついに退院の日を迎えた。

ここ1年で関わったいろんな人が見舞いに来てくれた気がする。

瑠璃ちゃんと家族はもちろん、生徒の天野と中村、同僚の秋山先生と高津先生、瑠璃ちゃんと一緒に来た酒井先生、親友の宏太、いろんな人が来た。

こうやって怪我をして心配してくれる人がいると、自分がどれだけの人と関わったのかわかる。

少しずつでいいから、みんなにお返ししていきたいと思った。

退院の日、父さんと母さん、兄ちゃん、じいちゃん、瑠璃ちゃんの5人が立ち会ってくれて、仲良くしていた桃井さんに別れを告げて病院を後にした。桃井さんとの日常会話が終わってしまうと思うと、それはそれで寂しい気もした。でもそれは良いことなので気にしないようにした。

その後、退院祝い代わりの昼飯を外で食べた。


「ただいま」

「ただいまー」


そして今、1ヶ月ぶりの我が家に帰ってきた。

玄関の鍵を開け、誰もいない部屋の中に瑠璃ちゃんと一緒にそう言って入った。

瑠璃ちゃんはそそくさと靴を脱ぎ先に上がると、俺の前に立ってこちらを向いた。


「おかえりなさい」


小さく微笑みながらそう言った。


「ただいま。心配かけてごめんね」


俺がそう言うと、瑠璃ちゃんが俺に抱きついてきた。

そして俺の胸に顔をうずめたまま、頭をフルフルと振った。きっとすごい心配してくれてたんだろう。俺はそんな瑠璃ちゃんの頭をよしよしと撫でた。

部屋は全然変わっておらず、母さんが掃除してくれていたのでホコリなんかは落ちていない。

瑠璃ちゃんと住むようになってから部屋をかたずけておくように心がけていたので、物が散らかっているなんていうことはなかった。日頃の行いが実を結んだ瞬間だった。

瑠璃ちゃんといつものようにテーブルのところにクッションを置いて、並んで座った。

なんとなくテレビをつけて2人でそれを見る。お昼の情報番組がなんやかんやと情報を発信しているようなのだが、あまり頭に入ってこなかった。

俺は瑠璃ちゃんの横顔を見た。

入院中、ずっと考えていたことがあった。

瑠璃ちゃんがあの時言った『また死んじゃうかと思った』という言葉だ。

『また』っていうのはどういうことなんだろうか。

聞いてみようとも思っていたのだが、見舞いに来てくれていた時はいつも母さんと一緒にいたもんだから、なんとなく聞けないでいた。

考えていたのだが、やっぱり瑠璃ちゃんの過去に関係あるとしか思えなかった。


「まさちかさん?」


ぼーっとしていた意識を戻すと、瑠璃ちゃんがこちらを見ていた。

もうこのまま聞いてみよう。ずっと気になってても仕方ないし、もともと家に帰ってきたら聞くつもりだった。


「ひとつ聞いてもいい?」

「・・・はい」


首をかしげて『なんのこっちゃ?』という視線を向ける瑠璃ちゃん。


「俺が目を覚ましたときに瑠璃ちゃんが『また死んじゃうかと思った』って言ったんだけど覚えてる?」


瑠璃ちゃんは少し間があってからコクりと首を縦に振った。


「あれってどういう意味なの? もしかして前にも誰か死んじゃった・・・とか?」


俺は瑠璃ちゃんの顔色を伺いながら聞いた。もし瑠璃ちゃんが話したくないのであれば、続きは聞かないようにしようと決めていたからだ。

しかし瑠璃ちゃんの表情はそこまで変わらなかった。


「・・・私のお父さんとお母さんは、もういないんです」

「いないって・・・亡くなったってこと?」

「はい」


どこか懐かしそうに思い出しているような顔にも見えた。

そして瑠璃ちゃんは話し始めた。


「お父さんはまいにちスーツをきておしごとに行ってました。お母さんもやさしくて大好きでした。ある日、私が夜に目がさめてしまって、かいだんをおりていくと、お父さんとお母さんが何か話しているのがきこえました。むずかしくてよくおぼえてないんですけど、今思い出してみると、私の家には借金があったんだと思います」


俺は瑠璃ちゃんの話を黙って聞いていた。


「そしてへやに戻ってベッドでねていると、きゅうに苦しくなって、目がさめました。お父さんの怖いかおが目の前にあって、お父さんの手が私の首をしめているのがわかりました。声も出なくて、息もできなくて、お父さんが怖くて、だんだんとよくわからなくなって、まっくらになりました。そして目をさますと、私は病院のベッドでねていました。私は、しんせきのおじさんから、お父さんとお母さんが死んだっていうことを聞きました。私は生きのこってしまったみたいでした」


俺は瑠璃ちゃんという小さな女の子の口から聞かされる事柄に、ただ驚いていた。

あまり抑揚なく話しているせいか、どうしても臨場感を感じないが、『瑠璃ちゃんが話している』ということで、これは嘘ではなく事実なんだということがわかる。

つまり一家心中をしようとしたのだが、瑠璃ちゃんが生き残ってしまったということか。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


瑠璃ちゃんの過去の話の前編です。

次回で後編という形になります。


次回もお楽しみに!

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