初めての暮らし方
「んん・・・ふぁ・・・」
カーテンの隙間から差し込んでくる朝の日差し。
きちんと締めない俺が悪いのだが、これはこれでいい感じだと毎朝思う。
からだを起こして朝ごはんの支度でも・・・あれ?
からだが動かない。
もしかしてこれが金縛りというやつじゃ・・・
俺にも霊感があったのかと思うとちょっと嬉しかった。てへ。
「んん・・・」
「うおっ!」
とか思っていると、隣でもぞもぞと何かが動いた。
そういえば瑠璃ちゃんと一緒に住み始めたのを忘れていた。
一応ベッドは瑠璃ちゃんに使わせて、俺は布団を敷いて寝たのだが、いつの間にかこっちに潜ってきたようだ。
ってなんでこっちに?
俺は瑠璃ちゃんを起こさないように布団から抜け出すと、台所で簡単な朝ごはんを作り始めた。
一人暮らしも早3年。
社会人になってから一人暮らしを始めて、最初こそ料理をしなかったけど、途中から自炊をし始めた。
それなりに料理はできる。
今日の朝ごはんは、オムレツとウインナーと食パンだ。瑠璃ちゃんの好き嫌いがわからない分、我ながら無難だと思う。
できあがったタイミングで、昨日の服を着たままの瑠璃ちゃんが起きてきた。
「おはよう」
瑠璃ちゃんはぺこりと頭を下げると、所在なさげにその場に立っていた。
「あ、テーブルのところにクッション置いて座ってて」
俺がそう言うと、瑠璃ちゃんはコクンと頷いて席に着いた。
昨日泣いていたときもそうだが、瑠璃ちゃんは一切しゃべらなかった。
最初は全然しゃべれない子なのかとも思ったが、寝言で『うさぎ・・・うさぎ・・・』と言っていたから、全くしゃべれないというよりもしゃべらないんだろう。まだ心を開いていないということなのだろう。
俺は朝ごはんをテーブルの上に並べた。
そして手を合わせる。
「いただきます」
瑠璃ちゃんも俺を見ながら手を合わせた。
こういう場合はちゃんと言うのがいいのだろうか。
『ちゃんといただきますって言いなさい』って。
でもいきなり親の真似事をしていいのか?
そう考えていると、瑠璃ちゃんが食べ始めてしまった。
・・・まぁ初日だからいいか。
俺はそう思い、朝ごはんを食べ始めた。
「おいしい?」
コクン。
「それは良かった」
瑠璃ちゃんはパクパクモグモグと食べ始めた。
そういえば昨日は泣いたまま寝ちゃったんだっけか。
だからお腹減ってんだろうな。
パンにジャムを塗らずに食べている瑠璃ちゃん。
「瑠璃ちゃん」
俺が名前を呼ぶと、すぐにパンを置いてこちらを見る。
もうちょっと自然にならないもんかねぇ・・・
俺はパンを取り上げた。
瑠璃ちゃんが一瞬悲しそうな表情を見せたが、それも一瞬だけだった。そのあとはうつむいてしまい、しょぼーんとした様子だった。
どうやったらこんな風に育つんだ。
俺は心の中で今までの瑠璃ちゃんを取り巻いてきた環境に腹が立った。
パンにジャムを塗って皿の上に戻した。
瑠璃ちゃんは、パンを見てから俺を見る。
「ジャム塗ったほうが美味しいでしょ?」
そう言って微笑むと、瑠璃ちゃんは口を少し開いて言った。
「・・・ありがとうございます」
本当に聞こえるか聞こえないかの音量で言った。
『何この子! 超可愛い!!』とか思ったけど、口に出さなかった。
俺は嬉しかった。やっと瑠璃ちゃんがしゃべってくれたのだ。
それだけでもジャムを塗ったかいがあったってもんだ。
今すぐにでも抱きしめたい気持ちを押さえて、オムレツにケチャップをかけて食べた。ちょっとかけすぎてケチャップの味しかしなかったけど、もう味なんてよくわからなかったから問題ない。
朝ごはんを食べ終わると、昨日コンビニで買ってきておいた歯ブラシで瑠璃ちゃんと一緒に歯を磨く。
俺が歯磨き粉をつけてシャコシャコと磨いていると、瑠璃ちゃんのからだにはちょっと大きな歯ブラシを一生懸命に動かして歯を磨いていた。
なんか可愛いな。
ハッ! いやいや。俺は純粋な大人だ。これは親心であって、決してロリコンなんかではない! 断じて違う!!
しばし無心になって俺は歯を磨いた。
すると鏡越しに瑠璃ちゃんの服が目についた。
ジーパンに黒いトレーナー。
こんな女の子にこの服装は変だ。
最初出会ったときも思ったが、この子は可愛いんだから、もっと可愛い服を着るべきだ。
でも可愛い服って・・・あ。
「瑠璃ちゃん」
口の周りに歯磨き粉をつけながらこちらを向いた。
俺は口の周りの歯磨き粉をタオルで拭きながら言った。
「今日は服を買いに行こうか」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか描いていただければ嬉しいです。
・・・コメディとはなんだったのかw
もう瑠璃ちゃんを可愛く書くだけの作業です。
次回もお楽しみに!