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昔の話し方

じいちゃんの過去ストーリーです。

戦争終結から何年かが経った頃、武田義徳(たけだ よしのり)の一家はお金持ちだった。

戦争が行われていた当初、北海道は大きな被害はないものの、それなりに防空壕に避難したり山中に避難したりというぐらいはしていた。そんな戦時中、まだ10代だった義徳は、国のために兵隊として日の丸を背負い、地域の防衛等に励んでいた。

そして戦争は大日本帝国の敗北という結果で集結し、義徳は肩を落としながらも家族が待つ故郷へと帰ることができた。父親は違うところへ遠征に出ていたのだが、義徳が帰る頃には故郷で義徳を待っていてくれた。

母親を含めた家族3人全員が揃ったところで、母親は言った。


「またこうして家族全員で過ごせることが嬉しい。これからも励ましあって頑張って生きていこう」


そして新しい生活が始まったのだった。

先祖代々、農家としてそれなりの土地を所有していた武田家。

幸い戦争で作物はダメになってしまったが、土は無事で、他の農家の土地に比べると、全然マシなほうだった。

その土地で野菜を作り、それを売ってお金にし、そのお金で米を買うぐらいのこともできた。

そして次第に武田家の農家としての地位は上がっていき、数年後にはその地域では有名な農家となっていた。

そんな時だった。

国からの遣いだという人間が武田家を訪れた。

何事かと思い話を聞いてみると、なんでも武田家が所有している土地に国が目をつけたらしく、国の所有物としたいとのことだった。もちろん『購入』ということになり、大金が武田家に入ってくるというとのこと。しかし仕事が無くなっては元も子もないという父親だったが、その遣いは『その土地を国の物とするだけであって、毎月国がある程度分け前として少し安く作物を買うが、そちらは今まで通り農家として働いてもらってかまわない』と言った。

つまり少し安値ではあるが一定量の作物を国に定期的に売ることで安定した収入が得られ、残りを売ることでさらに収入が得られる、というものだった。

そしてさらに魅力的だったのが、その土地の購入金額だった。その金額は、武田家が年間で得ることのできる収入の約5倍ほどの金額だった。のちのちわかったことなのだが、当時、国も安定した食料の確保をしたかったらしく、『金はあるが食べ物がない』という状況になっており、大金を払っては近辺で優秀な土地を買っていたらしい。

そしてその日から裕福な暮らしをすることができるようになった武田家だったが、父親は今まで通りの生活をすることを家族に告げた。


「我が家は裕福になった。しかし貧しい人間だってまだたくさんいる。そうした人間を少しでも減らしたい」


そう言う父親の言葉に賛同した母親と義徳は、家族で話し合い、国からもらったお金の約半分を、農地拡大と雇用経費として使ったのだ。

作物の採れる量は今までの3倍以上に跳ね上がり、農業の知識がある者から無いものまで様々な人間を雇用し、農業のノウハウを教えては、小さな農地の主として土地を分け与えていった。

そんな教育機関のようなことをしていくうちに、武田家が所有する土地はもうほとんど残っておらず、他は武田家が分け与えていった人間の土地となっていったが、武田家は今で言う『講師』のような存在で、父親の人望も厚く、お礼にと作物を分けてくれる人間も少なくはなかった。

もちろんそこの分け与えていった人間たちも武田家と同様に、国に作物を納めていたが、こんな落ち着いた生活ができるのも武田家のおかげだと皆思っているらしく、農家として働かなくてもお金が入ってくる状態が続いていた。

そんなある日、武田家の噂を聞きつけた裕福そうな人間が武田家を訪ねてきた。

前に来た国の遣いとは雰囲気がまるで違っていて、たっぷりと肥えたからだに燕尾服を着た、今で言うと『ルネッサーンス』とか言いそうな感じの人間だった。

その男は偉そうにこう言った。


「武田さん。奴隷とかを買ってはみませんか?」


その言葉に父親は不快感を顔に出しながらも最後まで話を聞いた。

真面目に人のためにと生きてきた父親からしてみると、『奴隷』という、人間を人間として扱っていないような存在を作り出す人間がとても嫌いだったのだ。

そのことをまっすぐに伝えると、その男はこう言った。


「我々は、人手を売っているのです。この奴隷をどうするのかは買った人間次第です。売っている我々は、買ってくれる人間を選んでいます。だから武田さんも我々に選ばれた人間なのです」


それを聞いた父親は、納得はしたが買うことは無かった。

しかし義徳は思っていた。


『もしこの奴隷を一人買ったとして、その奴隷を立派に育てることができれば、その奴隷を一人救えるのではないか?』


だが父親の言うことも正しく、義徳はそのことを口に出すことは無かった。

それ以来、その男は何度も武田家に来ることになり、父親は決して奴隷を買うことはなかったが、義徳はその男の息子と知り合い、奴隷の現状を耳にしては複雑な想いを胸に秘め続けていた。

その何年か後に不作が続いてしまい、武田家が貯金としてとっておいた金で国にまかなうことになってしまった。その結果、武田家は土地を手放すこととなってしまい、農家としての地位もだんだんと薄れていき、義徳の娘が成人を迎える頃には、ただの一般市民となっていた。

そしてその娘の子ども、つまり孫から『大金を手にした』と言われた時、やっと自分の夢が叶ったような気がして嬉しかったのは、言うまでもないことだろう。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけるとすこぶる喜びます。


この物語はフィクションです。

なので現実の世界でこういうことがあったのかは知りません。

雰囲気を楽しんでいただき、細かいことは気にしないでいただけると嬉しいです。


次回もお楽しみに!

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