家族サービスの仕方
昨日はじいちゃんのところへ行き、今日は実家にやってきた。そしてせっかくだからということで、また夜ごはんを食べることになった。
しかし今日は外食だ。
「うわっ。やっぱり混んでるなー」
「そりゃゴールデンウィークだからな。どこもこんなもんだろ」
「正親がおごってくれるんならもっと高いところ行ったほうがよかったかしら? 回ってないところとか」
「・・・勘弁してください」
俺と瑠璃ちゃん、母さん、父さん、兄ちゃんの5人は店内に入ると家族連れでごった返していた。そのへんの椅子はもうすでに満席で、俺たちは仕方なく立って待っていた。
目の前の食べる側の席ではクルクルと寿司達が皿に乗ってレーンの上を回っていた。
そう。実家の近くの回転寿司に来たのだ。
『宝くじを当てたのに、家族に何も還元しないというのはどういうことなの。この親不孝者め』とか言われたら、奢らざるを得なかった。俺もあんまり自分のために使ってないんだけどなぁ。でもたまにはこんな贅沢もいいだろう。
・・・このへんで贅沢とか言っちゃう俺って、やっぱり庶民だよな。こんな調子じゃ『これですか? たしか8000万ぐらいです』とか言って、変な置物とか買う日はまだまだ先だな。そんなセレブにはなりたくないけど。
瑠璃ちゃんは初めて来る回転寿司に興味津々なのか、さっきから回ってる寿司たちをずっと見ている。
そしてなんやかんやでやっと食べる側の席に案内された。
テーブル席で、母さんと父さんが並んで座り、俺と瑠璃ちゃんと兄ちゃんがその向かいに座った。
母さんがお茶を入れる。
「まさちかさん」
「なした?」
「どうしてお皿が回ってるの?」
ですよね。そこから説明しないとダメだよな。
「ここに回ってる皿は全部食べていいんだよ。全部食べたらクリアだ」
「ぜ、ぜんぶ・・・」
「瑠璃ちゃん。この人の言うことは信じなくていいからね」
「兄貴に向かってそれは酷いな。せっかく教えてあげたのに」
「なら嘘を教えるな」
「冗談じゃんよー」
「そんなんだから結婚できないで逃げられるんだよ」
「バカヤロウ。ソレハ禁句ダト言ッタダロ」
うちの兄ちゃんは結婚のプロポーズをホテル最上階のレストランでしたときに、『前から言おうと思ってたんだけど、私こんな高いところあんまり好きじゃない。もっとこじんまりした居酒屋とかで言われたかった。さよなら』と言われて、全速力で逃げられるわ、コースメニューのデザートをちゃんと食べてくるわ、そのまま予約しておいたホテルにちゃんと泊まってくるわ、帰ってきて泣き出すわという素晴らしい過去を持っている。
本人は黒歴史として胸の内にしまっておきたいらしいのだが、うちの家族がそんなことを許すはずも無く、ことあるごとに思い出させてあげるのだ。やさしいかぞくだ。
冗談もさておき、瑠璃ちゃんに簡単に説明してあげたのだが、どの皿を取っていいのかわからず困り果てていたので、とりあえず俺が食べたい奴を取って、2貫あるうちの1貫をあげることにした。
それ以前に、どれがおいしくてどれがハズレかなんてわかんないよな。
俺は鯵とか帆立とかサーモンとかえんがわとかが好きだ。
母さんと父さんは味覚が似てるのか、鮪とか鯛とか雲丹とかを分けあったりして食べている。
兄ちゃんはクソ野郎だ。さっきから金色の皿しか食べてない。大トロ中トロは当たり前で、大穴子とかよくわからん肉の寿司とか食べてる。
「瑠璃ちゃん美味しい?」
「はいっ」
母さんが聞くと、瑠璃ちゃんは嬉しそうに返事をした。
さっきからちょいちょい瑠璃ちゃんが食べるかなーと思いながら取ってみた皿もあるのだが、それもパクパクと食べていく。でもサーモンと鮪は鉄板のようで、目の前を回っているのを見つけると、自然と視線がそちらに向いてしまうようだ。なにこの子かわいい。
「アレだな」
「・・・どれだよ」
「ダメだな。歳を取ると言葉が出てこん」
「お父さんのは前からでしょ。昔からそんな感じだったわよ」
父さんが昔からボケてた疑惑が母さんの口から出た。
地味にショックだったみたいで、話すのを中断してお茶を一口すすっていた。
「んで、アレってなんだよ」
「そうそう。こんな歳で寿司の味を知っちゃったら、大人になったら大変だよなと思ってな」
「「あっ」」
俺と兄ちゃんが同時に声を上げて瑠璃ちゃんを見た。こりゃあどうなるやら。
急に全員の視線が自分に集まって、口一杯に寿司を詰め込んだ瑠璃ちゃんが顔を上げた。
「・・・もっとゆっくり食べていいんだよ」
思わず笑顔になる俺たち家族。
「お会計は2万5千円になります」
「た、高けぇ・・・」
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寿司食べたくなってきたw
次回もお楽しみに!




