長期休暇の祖父方
「よく来たの。ほれ、あがりなさい」
「おじゃましまーす」
「おじゃまします」
靴を脱いで入ると、まだ5時だというのに居間に大根の煮物やらザンギやら漬物やらのおかずたちが、俺と瑠璃ちゃんを出迎えた。
気が早いだろ。
「なんだこれ」
「なんだって、夜ごはん食べていくんじゃろ?」
「いや、食べてくけどさ。食べてくけど早でしょ。まだ5時だぞ」
「そんなに文句を言うなら正親にはやらん。瑠璃ちゃんは食べるじゃろ?」
「はい。食べます」
そういうと料理の前にちゃっかり正座する瑠璃ちゃん。
何ぃっ!? 瑠璃ちゃんが俺の敵に回っただと!?
それを見たじいちゃんも満足そうに笑うと、瑠璃ちゃんの向かいに座った。
「いただきます」
「召し上がれ。たくさん食べるんじゃぞ」
「はい」
夕餉の時間が始まってしまった。
外はまだ明るいのだが、もう完全に食べ始めてしまった。
俺は始まってしまったものは仕方ないと思い、仕方なく瑠璃ちゃんの隣に座った。
「なんじゃ。正親はまだいらないんじゃなかったのか?」
憎たらしい笑みを浮かべて、俺のことをバカにしてくるじいちゃん。
瑠璃ちゃんという強力な味方を身に付けたからって強気に出やがって・・・
「いやー実はお腹減ってたんだよねー! 俺も食べよっかなー!」
ザンギを一つ箸で取りながら言う。
するとじいちゃんも反撃してきた。
「瑠璃ちゃんもこんな正親みたいなのに育てられて大変じゃのー」
取ったザンギを飲み込んでから言い返す。
「みたいってなんだよ。こう見えても瑠璃ちゃんとはすごい仲良しなんだぞ」
俺は煮物の大根に箸を伸ばしながら言う。
さらにじいちゃんからの反撃。
「ふん。ワシはこの短時間で瑠璃ちゃんともう仲良しじゃぞ? なぁ瑠璃ちゃん」
モグモグとご飯を口に入れていて喋れなかったので、コクリとうなずいて答える瑠璃ちゃん。
「ほら見ろ。どうじゃ、この絆パワーの力は」
「なんだよ絆パワーって。どこで覚えてきたんだ」
英語にするのか日本語にするのかどっちかに統一しろよ。
「・・・まぁ瑠璃ちゃんと仲良くやってるみたいで良かったわい」
小さく笑いながらそう言うじいちゃん。
「まぁね」
俺もつられて小さく笑う。
「この煮物うまいな」
「じゃろ? 昔のワシの母親が教えてくれたんじゃ」
それからじいちゃんの昔話やら俺の小さい頃の話をしながら、ダラダラと晩ご飯を食べた。
一通り食べ、お腹も落ち着いてきたころ、箸を置いて話を聞くだけになっていた瑠璃ちゃんが姿勢を正してから口を開いた。
「まさちかさんのおじいさん」
「ん? 改まってどうしたんじゃ?」
「ありがとうございました」
そして正座したまま頭を下げた。
俺はなんのことかわからずにただ見ているだけだった。
じいちゃんを見ると、微笑みながら瑠璃ちゃんを見ていた。
「瑠璃ちゃん。ワシは何もしとらんよ」
「そんなことないです。おじいさんのおかげで、私はまさちかさんと出会えました」
「ホホホ。ずいぶんと大人っぽいこと言うもんじゃの」
そういうことか。俺はやっと頭を下げた理由がわかった。
じいちゃんが俺と瑠璃ちゃんを引き合わせたことのお礼か。
そういう意味ではじいちゃんのあのぶっ飛んだアドバイスがなければ出会うこともなかったもんな。
「俺からも礼を言うよ。ありがとう、じいちゃん」
「正親までなんじゃ、2人してかしこまって。らしくもない」
じいちゃんはそう言って笑顔のまま目を閉じた。
「今日はそれを言いたかったんです」
「急に行きたいって言い出したのはそういうことだったの?」
「はい」
急にじいちゃんに会いたいなんて言い出すから何事かと思ったら、そういうことだったのね。
「正親」
「ん?」
「ちゃんと育てるんじゃぞ」
じいちゃんがらしからぬ真面目な顔でそう言った。
「・・・当たり前じゃん」
改まって言われなくてもそのつもりだし。
「よしっ。じゃあ瑠璃ちゃん、片付けるか!」
「はい」
「置いといていいんだぞ」
「いいって。たまには爺孝行させてくれよ」
立ち上がると、瑠璃ちゃんと一緒に食器を片付け始める。
適当にラップをかけて冷蔵庫に入れたり、シンクに食器を置いていく。
そして俺が下げてきた食器を洗って、瑠璃ちゃんがすすいでいる姿を、俺たちの後ろにある椅子に座りながら見ていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
最近落ち着いてきていたジャンル別の順位がまた上がっててびっくらこきましました。
なんやかんやでジャンル別(←ここ重要)の上位の常連になりつつあるこの作品ですが、これからもまだまだ続きますし、終わるつもりもないですし、本棚も欲しいし、書きたい未来の話もまだまだあるので、のんびりとお付き合いいただければ嬉しいです。
これからもどうぞよろしくです。
というわけで、次回もお楽しみに!




