クラスの覚え方
「えーと。黄瀬に高尾に赤原っと・・・」
「さっきから何言ってるんですか?」
職員室でブツブツ言っていると、高津先生が後ろから声をかけてきた。
「今年から担任なので、早く生徒の名前を覚えようと思ってるんですが、これがなかなか・・・」
「名前は覚えられても顔まではーってことよくありますよね」
「そうなんですよ。僕、ただでさえ顔と名前覚えるの苦手なので、こうやって覚える以外ないんですよ」
「私は結構覚えるの得意ですよ」
「なんかコツとかありませんかねー?」
高津先生は隣の開いていた椅子に腰掛けた。
「どうなんですかねぇ? 私は生徒達と話してるうちに覚えていくだけなので、自然と覚えていってるって感じですからねぇ」
「よく話す生徒は覚えられるんですよ。でもあんまり話さない生徒っていうのが覚えられなくて」
「私もあんまり話さない生徒は覚えられないですよ。そういう子は覚えなくてもいいんじゃないですか?」
「でも覚えないわけにはいかないじゃないですか」
「武田先生は真面目すぎるんですよ」
「そうですか?」
「でもそんなところが好きなんですけどねー」
「は?」
「えっ? あっ! いや、な、なんでもないです! 気にしないでください! ってゆーか気にすんな! 忘れてください! で、では!」
そう言うと勢い良く立ち上がって、走り去っていってしまった。立ち上がったときに、ローラー付きの椅子が後ろにいた伊藤先生の座る椅子に激突していた。
・・・さりげなく告白されてしまった。
でも忘れて欲しいっていうことは、聞かなかったことにして欲しいっていうことでいいんだよな?
でもでも忘れるって無理だよな。
でもでもでも俺よりも高津先生のほうが忘れられないで、ぎこちなくなるんじゃないか?
職場でぎこちなくなるのってなんか嫌なんだよな。
俺は仕事とプライベートをきっちりとわけ・・・られてるかどうかはわからないけど、分けようとはできるからなんとかなる、ってゆーかなんとかするけど、高津先生はわかんないなー。
まぁとりあえず授業に行くかな。
授業から職員室に戻ってくると、高津先生がスルスルと近づいてきた。
「た、武田先生。さっきのことなんですけど、気にしないでいただけると・・・」
「・・・善処します。俺はいいですけど、無視とか避けたりとかはしないでくださいね」
「そ、それはもちろん! 今までどおりにしてくれれば、私は十分ですから!」
「それならいいんですけど、あんまり気にしないでください」
「はい。ありがとうございます! ではまた」
ホッとしたのか、いつもの色気のある笑みではなく、完全に女の子の笑みだった。
あれが高津先生の素なんだろうか?
高津先生が女子生徒からも信頼があるのが分かった気がする。
男子からも女子からも人気がある先生か。ちょっとうらやましいな。
俺はそこまで人気があるわけじゃないし、秋山先生は厳しい体育の授業のせいであんまり人気がない。でも秋山先生は、なんだかんだで面倒見が良いせいもあって、顧問をしている空手部の生徒達からは信頼を得ているらしい。俺も秋山先生の面倒見がいいところが好きだ。
信頼か。
やっぱり仲良くしてれば信頼って得られるもんなのだろうか?
「はぁ・・・」
「はっ! いきなりため息ついてどうしたの!? 悩み事!? なら相談に乗るよ!?」
やかましい声が後ろから聞こえた。
こんなやかましい声は天野だ。天野しかいない。
「ビックリするからあんまり職員室であんまり大きい声出すなよ」
「そんなことよりため息だよ」
「いや、俺って生徒たちから信頼ないなーって思ってさ」
「そんなことないでしょ。武田って結構人気あるよ?」
「マジで?」
天野の言葉に俺はちょっと嬉しくなった。
「授業中にうっかりテストの内容を言っちゃうし、授業で黒板に書いたことがそのままテストに出ることがあるし、結構信頼は厚いよ」
「それ信頼って言わなくね?」
ただの都合の良い先生だよね。
「それに私からの信頼も厚いよ?」
「天野からの信頼だけ厚くてもなー」
「香恵も武田のことは信頼してると思うよ?」
「中村もか・・・」
「なんか私の時とリアクションが全然違くない?」
「天野より中村のほうが信頼してるからな。仕方ないだろ」
「それっておかしくないかな?」
はぁ。天野と話してるとなんか悩んでた自分がバカみたいだ。
よし。今度からはテストの内容に気をつけよう。
そう心に誓った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
高津先生が可愛く見えてくる不思議。
次回もお楽しみに!




