問題児の悩み方・後
「とまぁこんな感じだ」
話し終わったのだが、中村は呆気にとられていた。
俺は瑠璃ちゃんをチラッと見た。すると瑠璃ちゃんも俺を見ていて、目があった。
とても真剣な瑠璃ちゃんがいた。
そして瑠璃ちゃんは、視線を俺から中村に移した。
「私はまさちかさんのところに来るまでは、とてもつらかったです。もうこのままずっとつらいのかと思っていました。でもまさちかさんのところに来てからは、まいにちがたのしいです」
中村をまっすぐ見据えて話す瑠璃ちゃん。心無しか声が震えているような気もする。
だがこれを聞いている俺も、初めて聞く瑠璃ちゃんの想いに少しドキドキしている。
「がっこうも、べんきょうも、ともだちも、ぜんぶたのしいです。かえさんはたのしくないんですか?」
「あたしは・・・つまんないかな」
「今はつまらなくてもいつかたのしいときが来ます。私はかえさんがかなしいのはいや、です」
その時、瑠璃ちゃんの目から涙が溢れた。
「かえさんがひみつを話してくれたので、私もひみつを話しました。だから元気出してください」
我慢していたのか、瑠璃ちゃんの目から涙がぶわっと出てきた。
そのまま瑠璃ちゃんは中村に抱きついた。
急に泣いて抱きつかれた中村は、少し驚いたようだったが、目を細めて、そのまま瑠璃ちゃんの頭を撫でた。
「ありがとな。瑠璃ちゃんにまで心配されてるようじゃ私もまだまだだな」
そう独り言のように呟いた。
「楽しいことがある、か。毎日が楽しいなんて羨ましいな。武田」
「俺も初めて聞いた。瑠璃ちゃんと出会った時はこんなふうに思ってくれる日が来るなんて思ってもなかったよ」
「あたしも武田みたいなのと出会ってみたいもんだな。そしたら人生変わるんだろうなー」
中村は瑠璃ちゃんを羨ましそうに見た。
自分と瑠璃ちゃんを重ねてるようだが、俺から見てみれば、中村もまた瑠璃ちゃんや天野、ついでに俺とも出会っているんだ。
瑠璃ちゃんだけが特別なわけじゃない。
誰でも誰かと出会っているんだ。
それに影響されたっていうよりも、瑠璃ちゃんの場合は、変わろうとして俺と出会ったというチャンスをつかみ取ったんだと俺は思う。
「中村も変わったらいいじゃないか」
「そんな簡単に変われたら苦労しねーよ」
「でも瑠璃ちゃんは変わったぞ。辛い生活から楽しい生活に変わったぞ。中村も今がつまんないって言うなら、天野なり親なりとちゃんと話して変わればいいじゃないか」
「・・・話す、か」
「親ともろくに話してないんだろ」
「まぁ・・・」
「話さないと伝わらないことだってあるぞ。今だって瑠璃ちゃんが思ってることなんて、俺は全然知らなかったからな。そこまで思っててくれたなんて、今初めて知ったんだ」
「だからあたしも話せ、ってか?」
「きちんと自分と向き合って、親とも向き合えばいいじゃないか。それに天野も心配してたぞ」
「恭子が?」
あっ。これ秘密なんだっけ。まぁいいや。不可抗力だ。
「今日天野から話を聞いて、お前がサボったりしてることを心配してた。香恵どうしたんだろう、って」
「はぁ・・・やっぱり恭子は眩しいな・・・」
「とりあえず天野と話してみたらどうだ?」
「・・・そうかもな。話さないとダメだもんな」
うんうんと頷く中村。
「今が頑張り時だと思って頑張れよ。瑠璃ちゃんのためにもさ」
「そうだよな。こんな小さい子が勇気を出して泣くまで話してくれたんだ。あたしが恭子と話すくらいなんてことないよな。むしろやらなきゃダメだよな」
中村は自分に言い聞かせるようにそう言った。
「その意気だ」
「あ、でもとりあえずは明日からな。今日は泊めてくれよ」
「ですよねー」
「元気出た?」
中村に抱かれて泣いていた瑠璃ちゃんが、まだ涙の残る目で中村を見上げた。
その顔に笑顔で中村は応えた。
「おう。ありがとな。元気出たぞ。明日恭子と話してみるよ」
俺はそんな二人を見て、微笑ましく思った。
まるで姉妹のようにも見えた。
「乙女の寝顔を見たら殴るからな」
「わかったっての」
「じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
「はいはい。おやすみ」
俺は、いつも瑠璃ちゃんが使っている布団を寝室から移動させてテレビの前で寝た。
ベッドでは中村と瑠璃ちゃんが寝た。
どうして俺があんなにしたのに、こんな仕打ちなんだ?
・・・まぁいっか。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
初めて瑠璃ちゃんが自分の気持ちを打ち明けました。
僕も娘が生まれたら、こう思われたいわーと思いながら書きました。てへへ
次回もお楽しみに!




