問題児の悩み方・前
腹が減っては戦は出来ずということで、とりあえず晩ご飯を食べた。
メニューは前の日に多めに作っていた2日目のビーフシチューと、レタスと豆腐の簡単な豆腐サラダ。
食べ終わると、俺と瑠璃ちゃんの向かいにテーブルを挟んで中村が座った。
「さて。そろそろ話してもらおうか」
「今日は家に帰りたくないんだ」
「わかったって。泊めてやるって言ってるだろ」
「・・・悪いな」
ハハハと小さく笑う中村。
「ところでなんで俺の家なんだよ。泊まるなら天野のほうが頼みやすいだろ」
「まぁそうなんだけどさ・・・一応武田には貸しがあるから、泊まらせてくれると思ったんだ」
「うっ・・・・」
中村はそう言ってチラッと瑠璃ちゃんのことを見た。
そうだった。瑠璃ちゃんのこと言えって言われてたんだった。
「はぁ・・・俺もこう見えても教師なんだ。生徒をなんの理由も無しに泊まらせて問題になりたくないから、ちゃんと理由は教えてくれ」
「まぁそうなるよな。恭子に言わないって約束してくれるなら話してやるよ」
「天野? まぁいいけど」
「恭子にはこんなあたしのことを知られたくないんだ」
「中村にも事情があるんだろうし、言わないよ」
そして小さく深呼吸をして中村が話し始めた。
「あたしさ、中学の頃まではこんな性格なりに真面目だったんだ。ちゃんと学校も行ってたし、ほとんど皆勤賞でサボったこともなかったし。でも高校に上がってからさ、親から『そろそろ将来のことも考えたら?』って言われるようになったんだ。その原因ってのがさ、恭子なんだよ」
「天野?」
「恭子はさ、ずっと前から幼稚園の先生になりたいって夢があってさ。それをよくウチの親にも話してたんだ。やっぱり近くにそういう夢を持った人間がいると、あたしと比べちゃうんだろうね。あたしにも夢とか目標とか持ってるかどうかってしょっちゅう聞くんだ。あたしだって自分の進路みたいのを考えていかないといけないっていうのはわかってるんだけどさ、夢とか目標なんてすぐに見つけられるもんじゃないじゃん? そう言ってもウチの親は聞く耳持たずだし、それが毎日続くもんだから家出してきてやった」
そういうことだったのか。
俺もそういう時期があったからわかるけど、高校生の時期は親も子どもも一番難しい時期なんだ。
天野みたいに目標があるならいいと思うけど、中村みたいな子になると余計に大変になってくる。
親は親で目標を持って進学してほしいって想いがあるし、子どもは子どもで考えてるのにまとまらないもどかしさがあると思う。
「最近は恭子のことがすごいまぶしく見えちゃってダメなんだ。親友なのに言いたいことも言えないあたしってダメなのかなぁ・・・」
「そんなことないだろ。俺なんか親友いるけど、なんの連絡も取らないで半年も会ってなかったんだぞ。親友だからなんでも話さないとダメってことはないだろ」
落ち込み始めた中村を励ますように言ったつもりだったのだが、大きなため息を吐かれてしまった。
「武田には悩みが無いからそんなこと言えるんだよ」
俺にだって悩みぐらいあるさ、と言いかけてやめた。
きっと俺の悩みの種類と中村の悩みの種類は違うからだ。だから何を言っても逆効果だと思った。
そして訪れる沈黙。
するとその沈黙の間に、瑠璃ちゃんが立ち上がり、中村の横に座った。
「まさちかさん」
「どうしたの?」
最近、瑠璃ちゃんは俺のことを『正親さん』と呼ぶようになった。
「私のことをはなしてください」
「えっ?」
瑠璃ちゃんのことってことは、奴隷だったってことでしょ?
それはマズイと思うんだが、瑠璃ちゃんの目は真剣そのものだった。
「・・・ホントに良いの?」
コクンと頷く瑠璃ちゃん。
瑠璃ちゃんがここまで意思を表すのは珍しい。というか初めてか?
なら俺も覚悟を決めるしかない。
「わかった」
「なんのことだよ」
俺は大きく深呼吸をすると、中村をまっすぐ見据えて言った。
「瑠璃ちゃんは奴隷なんだ」
「は?」
「瑠璃ちゃんは、俺が買ったんだ。だから親戚の子っていうのは嘘で」
「いやいやそうじゃなくて! ・・・あたしのことバカにしてんのか? 人が珍しく真剣に話してるのに」
「これは事実だ。俺は言うつもりはなかったんだけど、瑠璃ちゃんが言って欲しいって言うから言った」
「じゃあ買ったってどういうことだよ。人がそんな簡単に買えるのかよ」
その質問に答えるためには、宝くじのことも言わないといけなかったため、宝くじの件を含めて今までのことをざっくりと話した。
驚いているのか、口をポカンと開けたままで中村は話を聞いていた。話終えても口は開いたままだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
長くなりすぎたので、2つに分けました。
久しぶりのシリアスな感じになったかと思ってます。
コメディなのにね。ごめんなさい。
次回もお楽しみに!




