人間の見極め方
表現に注意してください。
いろいろと差別用語がまじっております
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「あ、いえ、その・・・」
「・・・?」
「あの、えっと、武田義徳(じいちゃんの名前)の紹介で来たんですけど・・・」
「あっ、そうでしたか。これは失礼いたしました。こちらへどうぞ」
「どうも・・・」
言われるがままに俺は店の奥へと案内してくれるウェイターの後ろについて行った。
今俺は、じいちゃんに教えてもらった場所に来ていた。
そこは普通のバーみたいなところで、夕方から営業開始ということもあって、日が暮れてからの訪問となった。
じいちゃんが連絡しておいてくれたって言うのは本当だったらしく、じいちゃんの名前を出しただけでトントントンと話が進んでいった。
奥に連れて行かれると、事務所みたいなところがあって、その中へと通される。
中にはちょっと小太りのおっさんが一人だけいた。ウェイターの態度から、オーナーっぽかった。
「どうぞどうぞ。そこにかけてくださいな」
「あ、失礼します」
なんか面接に来たみたいな感じだ。
机を挟んで対面になっているソファに腰を沈めると、その反対側におっさんも腰を沈める。
「おじいさんは元気?」
「はい。それはもう」
「そっかそっか。あの人が元気じゃないはずがないもんね」
懐かしむようにおっさんは笑った。
見た目通り、結構気さくな人のようだ。
「あーっと。こんな世間話をしにきたわけじゃないんだよね。早速本題に入ろうか」
俺は背筋に硬い棒を入れられたような感覚だった。
おっさんの愛嬌たっぷりの笑顔に一瞬だけ忘れていたけど、ここはちょっと前の俺が入ってはいけないようなところなんだった。
「えーと、一応おじいさんから簡単に説明は受けてるんだよね?」
「簡単にっていうか・・・奴隷がなんとかって・・・」
「それだけわかれば十分だよ。まぁ他にも色々と詳しいことはあるけど、それはおいおいということで」
そしておっさんは一枚の紙を机の上に置いた。俺はそれに目を通した。
そこには名前や性別、身長や体重、年齢や経歴なんかが書いてあった。
「誰にする?」
その言葉を聞いて、俺はぞっとした。
こんな簡単に決めるもんなの? じいちゃんの話でそれなりに聞いてはいたけど、まさかホントにこんな事が行われているなんて思わなかった。
今の今まで、まだ完全に信じきれていなかったのだが、今やっと信じることが出来た。
思わず紙を持つ手が震える。
俺が何も言えずにいると、おっさんのほうが小さく息を吐いた。
「君はおじいさんに聞いていたとおりだね」
「・・・え?」
「えーと・・・正親くんだっけ?」
「は、はい」
「おじいさんは正親くんのことを『優しい子だ』って言っていたよ」
よくじいちゃんは俺のことをそうやって言う。ただのヘタレなだけなんだけど。
「だからこそ、ここで誰かを一人買わせてやって欲しいとのことだ」
「で、でも、その、俺・・・」
「君は奴隷と聞いてどんなイメージを持っている?」
「どんな?」
「うん。思うように言ってもらっていいよ」
「えっと・・・お金が無くて貧乏でかわいそうなイメージ、ですかね」
「ふんふん。じゃあ現実を教えてあげようか」
「げ、現実?」
「ここに来て奴隷を買っていく人って言うのはね、性奴隷として使ったり、キツイ肉体労働をさせたり、密輸のために使ったりというのが現実だ」
マジで?
俺はその言葉を言えなかった。口から言葉が出てこなかった。
この日本でそんなことが行われているなんて・・・
マンガに書いていた『ありえないなんてことはありえない』というのを身を持って実感した瞬間だった。
「じゃあ考え方を変えよう。お金が無くて貧乏でかわいそうなイメージだと言ったけど、お金が無くて貧乏でかわいそうな子っていうのは、孤児院にいる子どもと奴隷の子どもの違いって何かわかるかい?」
「・・・いえ」
「それは親に『売られた』か『捨てられた』かだ。孤児院にいる子というのは、育児放棄や両親の死去によって孤児になってしまったというのが主な原因だ。それに比べて奴隷としての子どもは、ほとんどが売られた子どもだ。だから親は子どもをお金に変えて私達に渡してきてるんだ。生まれた時から道具みたいな扱いをされてきたのかもしれない。君だってお金に困ったからって子どもを売るようなことはしないだろ? それが出来てしまう親の下で育ったのが奴隷の子ども達だ」
道具・・・
だんだんとじいちゃんの意図が見えてきた気がする。
「つ、つまり、俺にその子らに道具としてではなくて、人間として育てて欲しいってこと・・・をじいちゃんは言いたかったんですか?」
「さぁ? 私はそこまでは聞いてないから、わからないな。だから君が買った奴隷をどう使おうが君の勝手だ。それこそ調教して自分好みに育て上げるのも良し。愛情をたくさん与えるのも良し。買うだけ買って放ったらかしにするも良し。それは君次第だ。正親くん、君が決めるんだ」
じいちゃんはいつも言っていた。『優しい人間に育ってくれ』って。
俺は恋人もいないし、そういう感情を持つような相手もいない。ってゆーか・・・いやこれは今はいいや。
考えることが別にある。
俺は誰かを買う。
もう買ってやる。
別にやけになったとかそんなんじゃない。
じいちゃんの想いに応えるためにも、買ってみたい。
そして人間として育ててあげたい。
「ん? 覚悟を決めたようだね」
「・・・はい」
「じゃあ誰にする?」
おっさんは最初と同じ質問をした。
その質問を聞いて、俺は最初にもらった紙に再度目を通した。
いろいろ書かれている。
そしてなんか数字が書かれているのに気づいた。
「この数字はなんですか? 20とか30とか」
「あーそれは値段だよ。これでも商売なんだ。お金は貰わないとね。1が1000万だ」
えーっと、つまりこの30ってのは・・・3億?
「あ、あのー・・・」
「ふんふん。やっぱり驚くよね。それも踏まえて誰にする?」
「誰にするって・・・」
もちろん10とか5とかっていうのもあるんだけど、値段だと決められない。人間を値段で見るのが間違ってるんだ。
「ひとついいですか?」
「なんだい?」
「この中で一番かわいそうだと思う子って誰ですか?」
「かわいそうな子かぁ・・・あ、この子なんかどう? それなりに可愛いよ?」
ここにきて容姿推しって・・・
「じゃあその子で」
もう自分で決められないならおっさんに決めてもらおうと思ったのだ。
優柔不断な俺がこんな中から一人だけ決められるはずもない。だから決めてもらったんだ。
「毎度あり。じゃあ連れてくるから待っててね」
そう言っておっさんは奥の扉を開けて消えていった。
「はぁあああ・・・・・」
俺は一気に疲れがきて、ソファの背もたれに思いきりもたれた。
俺は何やってんだろうか・・・
あんなたくさんの中から一人を選ぶなんて無理に決まってるじゃん。じいちゃんも何考えてんだ。
そして10分後。
おっさんが扉を開けて戻ってきた。
そのおっさんの横には、小さな女の子が立っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
やっと幼女が出てきました。
これでやっと導入部分がほぼ終わりとなります。
シリアル回も長かったですねぇ。
・・・えっ? コーンフレーク?
次回もお楽しみに!