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風邪のひき方

この小説初の3人称視点です。

季節も変わり、暦は12月。

奇跡の変わり目ということもあって、瑠璃ちゃんが風邪を引いてしまいました。

とりあえず市販の薬を飲ませたものの、次の日の朝も熱は下がらなかった。


「わざわざありがと」

「いいわよ。こういう時ぐらい頼ってくれないと、母親として示しがつかないわ」


正親は自分が仕事に行っている間だけ、母親に瑠璃ちゃんの面倒を見ててもらおうと思い、朝から呼び出していました。


「じゃあ母さん。あとはよろしく」

「はいはい。いってらっしゃい」

「いってきます」


母親に保険証やなんやらの位置を説明し、ドタバタと正親が出かけていきました。


「正親を見送ったのなんて何年ぶりかしら」


母親はそうつぶやきました。

もしもツイッターをやっていたら『息子を見送ったなう』とつぶやいていることでしょう。

予想よりも片づいている部屋にうんうんと頷きながら、朝に使った食器を洗いました。

洗い終わった頃に、布団で寝ている瑠璃ちゃんがゲホゲホしていたので、様子を見に行きました。

寝たまま母親を見ている瑠璃ちゃんのおデコには冷えピタが貼られており、ほっぺは赤くなっていました。


「大丈夫?」

「ごめんなさい」

「謝るのはダメ。こういうときは素直に甘えるのが子どもの仕事なんだから、素直に甘えなさい」


優しい声でそう言うと、瑠璃ちゃんは口元を隠すように布団を上げました。

ふふっと母親は笑いました。


「お腹減ってない?」

「・・・少し」

「素直でよろしい。用意してくるから、起き上がってなさい」


母親が立ち上がりキッチンへと向かっていくと、瑠璃ちゃんは布団の上に起き上がって座りました。

少しすると、母親が小さな土鍋を持ってやってきました。

布団の横に移動させていたテーブルに土鍋を置きました。


「おまちどうさま。熱は・・・まだちょっとあるわね」


瑠璃ちゃんの首元を触り熱を計りました。

瑠璃ちゃんは触られたときに少しびくつきましたが、何も言わずに触られました。


「おじやだけど食べれる?」

「おじや?」

「ふふふ。美味しいから大丈夫よー」


おじやの存在に首を傾げる瑠璃ちゃんだったが、その意図を理解できていない母親は小さく笑って土鍋から小さな器に中身をよそると、プラスチックのスプーンで一口分すくいフーフーと冷まし、瑠璃ちゃんに近づけました。


「ほら、あーん」


言われたとおりに口を開けて食べさせてもらうと、少し照れくさそうにモグモグと食べました。


「どう? おいしいでしょ」

「おいしい・・・です」


熱があって前の日の晩ご飯もまともに食べられなくてお腹が減っていたので、とても美味しく感じました。


「おじやは正親も好きでね、熱が出たときは毎回食べてたの。これを食べるとあっという間に風邪を治してたわ。だから瑠璃ちゃんもすぐに良くなるわよ」


それから餌付けをされる雛鳥のように、母親が差し出すスプーンをパクパクとくわえていき、あっという間におじやは無くなりました。

土鍋を片付けて戻ってきた母親は、瑠璃ちゃんに歯を磨くようにうながしました。

おじやを食べて少し落ち着いた瑠璃ちゃんは立ち上がり、洗面所で歯を磨き始めました。

母親はその間に土鍋を洗ってしまいました。

歯を磨き終わると、濡れたタオルでからだを拭き、また布団に寝かせて、おデコに新しい冷えピタを貼りました。

瑠璃ちゃんはおデコの冷たい感覚に目を細めると、また布団を口元まで上げました。

しばらくしてスースーと寝息をたて始めた瑠璃ちゃんの頭を、母親が優しくなでるとどこか懐かしそうに目を細めました。


「こんなにちっちゃいのに頑張ってきたのね」


瑠璃ちゃんの寝顔を見ながら、複雑そうにつぶやきました。


その頃正親は、


「・・・んせー? せんせー?」

「え?」

「やっと気づいた。プリントがたりませーん」

「マジで!? もらってない人ー」

「多分10人ぐらいもらってないですー」

「嘘ぉ!? ちょっと印刷してくるから待ってて!」


完全に上の空でした。


夕方になり、母親が持ってきた文庫本を読んでいると、瑠璃ちゃんがムクリと起き上がりました。

枕元に置いていたスポーツドリンクをゴクゴクと飲みました。


「どう? 結構楽になってきたでしょ。顔も赤くないわよ」

「はい」


だいぶ熱も下がってきた瑠璃ちゃんは、ぬるくなってしまった冷えピタを自分ではがしました。

母親が瑠璃ちゃんの元にやってきて、布団の横に座りました。


「もう少し横になってなさい」


瑠璃ちゃんをまた寝かせました。


「正親もね、小さいときは甘えんぼだったのよ。まぁ子どもなんだから甘えてくれないと困るんだけどね。熱を出してたときは、すごい甘えんぼだったのよ。いつもの倍は甘えてたわね。おかーさーんおかーさーんってしょっちゅう呼ばれてたわ。正親と比べると瑠璃ちゃんは偉いわねー」


そう言って頭を撫でました。

瑠璃ちゃんはただの人見知りなだけなのだが、母親はあえてこういう言い方をしました。時には思いっきり褒めてあげることも大切なのです。

そんな意図を知らない瑠璃ちゃんは少し笑みを浮かべました。


日もすっかりくれた頃、正親が家に帰ってきました。

ドタバタと音が聞こえていたので、ドアを開ける前に帰ってきたのがわかるほど急いで帰ってきたようです。


「ただいま! 瑠璃ちゃん大丈夫!?」


ドアを開けながら靴を脱ぎながら騒がしく言いました。

その様子を見ながら、母親と瑠璃ちゃんは顔を合わせてフフッと笑いました。

その様子を見た正親は、不思議そうに首をかしげながら、靴がうまく脱げなくてその場で転んでしまいました。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


前の連載ではおなじみだった、3人称での回となりました。

久々に書きましたが、すごい書きやすいですね。

母親と瑠璃ちゃんの様子を書きたかったので、3人称となりました。


次回もお楽しみに!

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