名前のつけ方
「宿題?」
「はい」
家に帰ってくると、瑠璃ちゃんから言われた。
『わたしのなまえってなんで「るり」なんだとおもいますか』って。
「瑠璃ちゃんの名前って誰がつけたのかわかる?」
「・・・・・・」
唇をキュッと固くして、答えたくなさそうにする。それともわからないだけか。
なんにせよ俺にはわからない。
俺は頭をポリポリとかいた。
「んー・・・参ったなぁ」
「ち・・・」
「ち?」
「ち、ちちがつけました」
瑠璃ちゃんは、少しこわばった表情で言った。
多分勇気を振り絞って言ったんだと思う。
「そっか。お父さんか」
俺が頭を撫でると、瑠璃ちゃんはなんで撫でられたのかわからないようで、不思議そうに撫でられていた。
瑠璃ちゃんの過去を俺は知らない。
今までの瑠璃ちゃんの様子を見ている限りだと、『奴隷だから』という理由で誰に対しても怖がるのではなく、もっと前に何かあって、それが原因なんだというよう気がしていた。
多分、瑠璃ちゃんがこうなった原因は、両親と暮らしていた時に何かあったのだろう。
そう思い始めていた。そして瑠璃ちゃんもそれを覚えているのだろう。
俺は瑠璃ちゃんが自分から話さない限りは聞く気は無い。
まぁ人間だからほんの少しは好奇心とかもあるけど、今は瑠璃ちゃんへの深い質問はしないようにしている。
でもこういう名前とかについてはなんとも言えないのが現状だったりする。
「じゃあ瑠璃ちゃん。一緒に考えようか」
「え?」
「だから、瑠璃ちゃんの名前の意味を」
そう。わからないなら考えればいいさ。
ある人は言った。
『無いなら作ればいいのよ!』と。
名前の理由がわからないなら、考えればいい。わからないなら、今ここで作ってしまえばいい。
こうして前に進んでいかないと、瑠璃ちゃんの足は止まったままだ。
「ってゆーか、瑠璃ちゃんって自分の名前書ける?」
フルフルと首を振る瑠璃ちゃん。
そりゃそうだ。俺も一番最初は書けなかった。
こんな難しい字を使うなんて、子ども泣かせの流行だ。大人も泣かされてるけど。
「そもそも瑠璃っていうのは宝石の名前なんだ。ラピスラズリっていう宝石」
「ラピスラズリ・・・」
「青い色ね。って言ってもあとは動物の名前だったりって、色に関係したことばっかりになっちゃうんだけどね。やっぱり瑠璃と言えば、青い色っていうのが有名だから、色として表現されることが多いんだ」
「青・・・」
「でも瑠璃ちゃんって、特に目が青いわけでもないしから、見た目で付けたわけじゃないと思うんだ」
『瑠璃』みたいな色で表現できるような見た目じゃない瑠璃ちゃん。髪も瞳も真っ黒だ。
だとしたらなんだ?
「・・・やっぱり瑠璃みたいに綺麗に育って欲しいって感じかなぁ?」
ちょっと安直な考えかもしれないが、これが一番しっくりくる。
もしも何かの思い出としてつけた名前なら、俺にはどうすることもできない。
妥協ってわけじゃないけど、正直これ以上の理由は思いつかない。
ふと瑠璃ちゃんを見ると、驚いたような顔をしていた。
「どうかした?」
「わたしはるりみたいにきれいにそだてるんですか?」
今度はこっちが驚いた。
まさかそんなことを言われるとは思わなかった。
「俺は瑠璃ちゃんを瑠璃よりも綺麗に育てるつもりだよ」
「るりよりも?」
「もちろん。こんなに可愛いんだから、きっと瑠璃なんかよりも立派に育つよ」
瑠璃ちゃんが嬉しそうに微笑んだ。
照れているようだ。可愛い。
「これをはっぴょうしてもいいですか?」
「こんな理由でいいの? もう少し考えてもいいんだよ?」
「これがいいです」
「瑠璃ちゃんがそう言うならいいけど」
「ありがとうございます」
そう言う瑠璃ちゃんは、どこか嬉しそうだった。
・・・そっか。
瑠璃ちゃんにとって、名前の理由よりも俺がこうやって言ってくれたことのほうが嬉しいのか。と思っておこう。
嬉しそうに俺が言ったことをノートに書いている今の瑠璃ちゃんに余計なことを言わないほうがいいと思った。
そんな瑠璃ちゃんを見て、俺はなんだかすごい幸せを感じた。
次の日、瑠璃ちゃんは学校でそのことを発表して、酒井先生に褒められたそうだとか。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
あれ?
コメディってなんだっけ?
次回もお楽しみに!




