表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/91

2人の奥様の扱い方

午後8時。

伊藤先生と職員会議前に中村との接し方の話が終わらず、職員会議後も少し話してしまい、ちょっと予定よりも遅くなってしまった。何もこんな日に話さなくてもいいのに。伊藤先生もタイミングが悪い。

それでもできるだけ急いで帰ったのだが、家に着く頃にはすでに8時半を回っていた。


「ただいま!」


ドアを開けて家の中に入ると、なんともいい匂いがしてきた。

玄関の2足のローファーを踏まないように気を付けながら靴を脱いだ。


「あっ! おかえりなさい!」

「おーおかえりー」


明るい声と眠そうな声が俺を出迎えた。

トタトタと駆け寄ってきたのは、どこから持ってきたのか青いチェック柄のエプロンをつけた天野だった。


「天野、うちにそんなエプロンあったか?」

「買ってきましたー」

「わざわざ?」

「こう見えても料理するんだよ? いいお嫁さん候補だと思わない?」

「恭子ー。アレやらないのかー?」


家の奥から中村の声が聞こえて、天野がハッと思い出したかのようにモジモジし始めた。


「アレってなんだ?」

「おかえりなさぁい」

「は? ただいま・・・」

「今日は遅かったのねぇ」

「職員会議だったからな・・・ってなんだよ」

「今日はどうする? お風呂? ご飯? それともワ・タ・シ?」


ウフンと無い色気を出しながら、腰をくねらせた。

俺は無視して横を通り過ぎて中に入ると、中村が笑っていた。


「武田! どうして無視するのよ!」

「職員会議だなんだって疲れてるの」

「そうやって夫婦仲は冷めていくんだな」

「そうだよ! 明るい夫婦生活を送るためには、こーゆー毎日のなんでもないことに付き合ってくれるのが一番の近道なんだよ!」

「しらんがな」


プンスカと怒る天野を適当にあしらうと、俺はテーブルで勉強をしていた瑠璃ちゃんに謝った。


「瑠璃ちゃん、ゴメンね。職員会議があったのすっかり忘れてて」

「だいじょうぶです」

「あたしらがちゃんと面倒見てたもんなー」

「えへん。急なお願いにもちゃんと対応している私ってば超一途!」

「ありがとな」


俺がお礼を言うと、天野だけじゃなく中村も照れくさそうに笑った。


「あ、そうそう! ご飯食べる?」

「天野が作ったのか?」

「もちろん。奥様候補としては料理ぐらいできないとねー」


そう言って中村の方を見る天野。その視線を顔をそらしてかわす中村。

中村は料理ができないのか。まぁ想像通りだ。

天野が少し深めのカレー皿によそってテーブルに置いてくれた。茶碗にはご飯が盛ってある。


「おまたせしましたー。今日の晩ご飯はトマト缶で野菜を煮込んだ食べ物ですー」

「普通にトマトの野菜煮込みでいいんじゃないか?」

「いいでしょー。料理名は作った私が決めていいの。私が料理人なんだから」

「はいはい。じゃあいただきます」

「はい。めしあがれ」


キャベツと豚肉と人参と玉ねぎと豆がトマトの味に浸っていて、とても美味しい。


「おー。意外と美味しいな」

「意外は余計だと思いますー」

「これならどこに出しても恥ずかしくないお嫁さんになりそうだな」

「このまま武田のお嫁さんになってあげてもいいのよ?」

「瑠璃ちゃんもこれ食べたの?」

「ちゃんと食べたよ。美味しいって言ってた」


瑠璃ちゃんの頭を撫でる中村。

嫌がってないところを見ると、瑠璃ちゃんも結構この2人に慣れてきたのだろう。


「今日はホント助かったよ」

「こんなことで良ければいつでも言ってよ! 武田の役に立つことならなんでも手伝うからさ!」

「そうそう。学校の授業より面白いし」

「中村は授業をちゃんと受けろよ」

「こんな時まで教師面すんなよ。萎えるわー」


心底めんどくさそうに言う中村。

教師面っていうか教師なんだけど。

俺は天野のお手製の料理を平らげると、食器を下げようと立ち上がった。


「あぁん! 武田は座ってて! 私が片付けるんだからぁ!」

「いや、でも」

「恭子はお嫁さんごっこを楽しんでるんだからやらせてやれよ」

「『ごっこ』じゃなくて『練習』だってば。将来は武田恭子になるんだから」

「はいはい」

「はいはい」

「うわっ。2人して適当だし。こうなったら瑠璃ちゃんと仲良くなってやる!」


そう言って天野は瑠璃ちゃんに抱きつきに行こうとしたのだが、瑠璃ちゃんも凄まじいスピードで、俺の後ろに隠れた。どうやら天野のことはまだ苦手らしい。


「瑠璃ちゃんまで・・・」

「まぁ頑張れ。あたしは応援してるぞ」

「香恵・・・」


元気づける中村に天野が抱きつくと、演技っぽく泣き始めた。それをよしよしとなだめる中村。

こんな2人だが、すごく助かったのは嘘ではない。

そして天野の料理が美味しかったのも嘘ではない。

この2人には今度何かお礼をしないとダメだな。


「あっ、そうそう。武田、約束忘れないからね」

「Oh・・・」


忘れたかったです。

中村さん。マジで怖いです。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いちゃってもいいのよ?


皆さんは、どっちの奥様がお好きですか?

僕はヒモになりたいです。


次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ