シチューの食べ方
「はじめまして、瑠璃ちゃん。俺、中尾宏太。めっちゃ会いたかったわー。ホンマにかわええな。こいつがめんこいめんこいっていう意味がわかったわー。なぁちょっとぎゅーってしてもええか?」
ものすごい勢いで首を左右に振る瑠璃ちゃん。
宏太は家の中に入るなり、テーブルで学校の宿題をしていた瑠璃ちゃんに近づいていくと、熱烈なアピールを繰り出した。
でもそのアピールは完全に裏目に出てしまっていて、瑠璃ちゃんを怖がらせるだけとなっていた。
執拗に追いかける宏太から瑠璃ちゃんが逃げ、ついには俺の後ろに逃げてきた。
「なんで正親にはなついてんねん」
「そりゃ一緒に住んでるからな」
「じゃあ俺も一緒に住んでええか?」
「嫌や」
「ちぇっ」
宏太は拗ねたのか、瑠璃ちゃんが開いていた教科書をペラペラとめくり、『懐かしいわー』とつぶやいていた。
とりあえず落ち着いたところで、未だにしがみついている瑠璃ちゃんをゆっくりとなだめて引き離して、『宿題をやっててね』と宏太の横に座らせた。
宏太もちゃんとした大人なので、瑠璃ちゃんが嫌がることはせずに、黙って隣で宿題を見ていた。
それを確認して、俺は夜ごはんを作り始めることにした。
今日はシチューだ。
簡単に出来て材料費も安い。
うん。こう見えても億万長者なんだけど、いきなり豪勢に使えと言われても使えないものだ。
それに今後の瑠璃ちゃんお学費とかの養育費もあるわけだから、無理して豪華にする必要も無い。
というよりも料理の面で豪勢にするってどうすればいいの? シチューのルーとかを一番高いやつにするとか?
そんなこんなでパパパっと完成させたころには、瑠璃ちゃんの宿題も終わっていて、宏太と一緒にテレビを見ていた。
「できたよー」
「おっ! 待ってました! って昨日、シチュー食べたばっかりなんやけど」
「先に言えよ。それならカレーにしたのに」
「カレーはおととい食べたわ」
「お前、カレーの次の日にシチュー作ったのかよ」
「カレーは日本人の主食やからな」
「それはわかるわー」
「せやろ?」
テーブルにシチューを並べて、スプーンと一緒に置いた。
「は?」
「ん? どした?」
目の前に置かれたシチューを見て、宏太が不思議そうな声を出した。
「なんでご飯にシチューかけてんねん」
「え? 普通こうじゃない?」
「これじゃシチューじゃなくて、シチューライスやん」
「うまいこと言ったつもりかよ」
「このシチューもさぞかし美味いんでしょうね。ってやかましいわ。俺はご飯にシチューをかけない派やねん」
「残念だがこれが我が家流だ。ねー?」
そう瑠璃ちゃんに聞くと、瑠璃ちゃんはコクリとうなずいた。
「マジか。まぁそんな感じのことわざもあることやしな。許したるわ」
「お前に許してもらわなくてもいいんだけどな」
「アハハ。んじゃいただきますー」
「はい、めしあがれ」
「いただきます」
「うおっ! 瑠璃ちゃんがしゃべったの初めて見たわ!」
「もう黙って食べろよ」
「すんませんでしたー」
瑠璃ちゃんが言った『いただきます』に過剰反応した宏太が大騒ぎだったが、ちょっとキツめに言うと、大人しくシチューを食べていた。
その声に驚いた瑠璃ちゃんだったが、背中をポンポンと叩くと、こちらをちょっと見てからまたシチューを食べていた。
宏太の大声は瑠璃ちゃんにとってはまだ驚く要因なだけのようで、なかなか慣れないみたいだった。
急に宏太を連れてきたわけだし、瑠璃ちゃんには悪いことしちゃったかな。あとで謝っておこう。
シチューも食べ終わり、宏太が帰るということなので、玄関まで見送りに行った。
「んじゃな」
「おう」
「瑠璃ちゃんも急に来てごめんな」
フルフルと首を振る瑠璃ちゃん。
「ほんまに良く出来た子やなぁ」
「自慢の子だからな」
「アハハハ。せやったらちゃんと育ててーや」
「言われなくても育てるよ」
「またゆっくり会おうや」
「また連絡するよ」
「待っとるで。瑠璃ちゃんもまたなー」
「気をつけて帰れよー」
「任せときー」
宏太は手を振ってそのへんの曲がり角を曲がって消えていった。
瑠璃ちゃんと一緒に部屋の中に戻った。
「今日は急に宏太連れてきちゃってごめんね。ビックリしたでしょ」
「だいじょうぶです」
「宏太も悪い奴じゃないんだけどさ、なんてゆーかテンションが高すぎるんだよな」
俺がアハハと笑いながらそう言うと、瑠璃ちゃんも小さく笑った
どうやら瑠璃ちゃんも、他人に対する耐性が付いてきたようだ。
瑠璃ちゃんの成長を見れると、親として嬉しく思う。
「また宏太と一緒にゆっくり時間とってご飯食べようね」
「はい」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
うちはシチューライス派です。
次回もお楽しみに!




